かつて、多くのスポーツカーに装備されていた、ボンネットのエアインテーク、またはエアアウトレット。「ボンネットにエアインテーク、エアアウトレットがある=排熱が必要な高性能車」ということから、機能として必要であることはもとより、「存在自体がカッコいい!!」とされてきた。
だが、昨今の高性能スポーツカーでは、ド派手なエアインテーク、エアアウトレットが徐々に減りつつあり、あっても小さな形状になっていることが多く、リアウイングと同様、その効果のほどには疑問を抱く方も多いようだ。
地味だけどかなり良い!? 新型シビックの走りは「超ゴリゴリのホンダ味」だった!!
そこで、改めてボンネットに大きな穴は本当に必要なのか、最新の空力事情とともに、ご紹介していこう。
文/吉川賢一
写真/トヨタ、日産、ホンダ、スバル
【画像ギャラリー】ボンネットの「穴」が高性能の証!! 世界のエアインテーク&エアアウトレット装着車 全26台
■緻密なシミュレーションができるようになったことで、必要性がなくなった
シビックタイプR専用となるアルミフードに設けられたエアインテーク。エンジンルーム内にフレッシュな空気を取り入れ、そして空気の流れとともに廃熱をしている
緻密な空力設計が難しかった時代は、エンジン廃熱のため、ボンネットのエアインテークは必須とされてきた。空気の流れを正確に知ることができなかったため、とりあえず開けておく必要があったのだ。
しかし現在は、シミュレーション技術が進化したことで、エンジンルーム内の空気の流れを緻密にコントロールすることが可能となり、廃熱のしくみを緻密に設計できるようになった。
たとえば、FK8型シビックタイプRでは、フロントグリルから取り込まれ、ラジエーターを通過した熱い空気を、アルミボンネット上に設定したインテークダクトからの走行風によって、車外へ放出している。
そもそも、ボンネット上を流れる空気の一部を分断するような大きなエアインテークは空気抵抗となるため、必要ないのであれば装備しない方が、空気抵抗が低減でき、燃費に貢献できる。
数少なくなったボンネットのエアインテークを備える2代目レヴォーグ。ダクトから導入した空気をインタークーラーに当てている
レヴォーグや新型WRXのように、水平対向エンジン特有のレイアウト上の都合(インタークーラーの冷却用)などで、エアインテークありきのエンジンルーム内レイアウトがなされている場合もあるが、シミュレーションの進化によって空気の流れをコントロールできるようになったことで、ボンネットのエアインテークは必須アイテムではなくなったのだ。
また、エンジンルームは、キャビン(乗員がいる空間)ほど密閉されているわけではないので、冷却に使用した空気は、自然と隙間から抜けていく。その空気の抜き方によっては、空気抵抗を下げることもできたり(燃費が改善する)、高速走行時の直進性を上げることも可能だ。
空気をどのように取り入れて、どこから抜くか、各メーカーで少しずつ方策が異なるため、見ていて面白いポイントだ。
2021年9月10日に世界初公開となった新型WRX。エアインテークだけでなく、エアアウトレット付きの樹脂製フロントフェンダーも特徴的だ
リアバンパー左右のダクトは後輪に流入した空気を後方に出し、車体の揺れを低減
FK8型シビックタイプRのエアダクト。エンジンルーム内の熱をアルミボンネット上に設定したインテークダクトからの走行風によって、車外へと放出している(FK8説明資料より)
NSXタイプSは空力性能と冷却性能などを高次元で両立させる「トータル・エアフロー・マネージメント」のもと開発
R35GT-R NISMO2022年のボンネットにあるNACAダクト。R34型スカイラインGT-Rの時代から装備されるようになったNACAダクトは、R35型では2カ所となった
■新型Zは、強化ウォーターポンプを採用した水冷式インタークーラーを搭載
ツインターボエンジンを積むターボ車だがボンネットにはエアインテークはなくすっきりしている
とはいえ、ハイパワーエンジンには、それに見合う冷却システムが必要。8月に北米版が発表となった新型Zには、400ps級のツインターボエンジン、VR30DDTTが搭載されることが発表されている。
この新型Zには、外気温の高い環境や低速走行時などでも、エンジン性能を安定して維持するため、強化ウォーターポンプを採用した水冷式インタークーラーが搭載されている。
空冷式に対して、ターボのコンプレッサー下流の吸気容積を最小化することで、ダイレクトなトルクレスポンスを実現することができ、限界領域までターボエンジン性能を使うことができるとのこと。
フェアレディZも、かつてはボンネットにエアインテークを装備していたが、空力設計の進化に加えて、冷却技術も進化したことで、ボンネットのエアインテークは必要なくなったのだ。
VR30DDTTに搭載されているツインウォーターポンプの水冷式インタークーラー
■最新のエアインテーク事情はこうなっている
●グリルシャッター
走行状態や暖機状態に合わせてシャッターを自動開閉する。冷却系に走行風を必要としない走行シーンでシャッターを閉じることで暖機を促進するとともに空気抵抗を軽減(写真はプリウスPHV)
ボンネットのエアインテークが減っている現在、ハイパワー化するエンジン冷却のための空気の取り込みは、フロントグリルからの空気導入によって賄われている。このエンジン冷却の観点からは、より多くの空気を取り込むため、フロントグリルは広く大きく開けたいところであるが、そうはいかない。
エンジン始動直後などは、なるべく速やかに、エンジンの暖機を促し、燃焼効率を上げて燃費改善につなげたいところ。そのためには、大きく開口したままグリルでは効率が悪い。「始動直後の暖機」と「走行中の冷却」、これを両立するアイテムとして、必要なときに開け閉めができる「グリルシャッター」が登場している。ラジエターシャッター、アクティブグリルシャッターと呼ぶ場合もある。
グリルシャッターは、暖気を促進する場合や、高速走行での過冷却を防ぐ場合に閉じるようにできている。また、グリルシャッターを閉じた際に、空気流を床面へと導き、リフトフォース低減や、空気抵抗低減を狙うことも可能だ。
すでに多くのクルマに搭載されており、トヨタはプリウス、カローラツーリングなど、日産はセレナe-POWERやエクストレイル、ホンダはCR-Vやアコード、スバルのレガシィアウトバック、フォレスター、XVなどにも搭載されている。
特に、始動直後から電気走行となり、暖機運転が苦手なハイブリッド車との相性が良い。
●エアカーテン
いま流行しているのが、フロントバンパーサイドの開口部にあるエアインテークだ。レーシングマシンのカナードウイング(主にダウンフォースを増やすフィン)とは違い、フロントバンパーからフロントタイヤ直前に、穴が貫通している。これは、フロントタイヤのサイドに空気を流し、タイヤ周りで発生する空気渦を整える、通称「エアカーテン」と呼ばれる考え方だ。主に、燃費改善と、高速直進性の向上のために採用している。
直近で登場した日本車だと、シビックタイプRや2代目ヴェゼル、ノート、ノートオーラのようなコンパクトカーなどでも採用されている。BMWやメルセデスといった欧州系のメーカーが2010代前半から導入し始め、その後、採用事例が増えていったと記憶している。
2012年頃のBMWで登場したエアカーテン。フロントバンパーから取り込んだ空気を、タイヤサイドへ流している技術が構築されていた
FK8のフロントサイドのエアカーテン。空気流をまっすぐにタイヤ横へと流している。ダウンフォースはバンパーコーナーでの気流を上方に跳ね上げることで発生
レクサスLCでは、後輪側にもエアカーテンと同じ機能を持たせた、ロッカーサイドグリルを設定しており、ボディ側面を抜ける気流をリヤホイールアーチ側へと抜ける導線で整流している。2枚ドアかつ、リヤフェンダーが左右に大きく張り出しているため実現したという。
レクサスLCのエアカーテンは前後輪に効かせている。リヤフェンダーに設置したロッカーサイドグリルによって、側面からの風をリヤホイールアーチへ抜ける導線で整流した
■エアインテークはスバル車では今後も必要
日本未発売、2019年に北米市場で販売されたS209。S209のオーナメント、フロントアンダースポイラー、クローム加飾付きバンパーベゼル、バンパーサイドカナード、そして片側21mmずつ拡大したワイドフェンダーで武装するS209。新型WRXとは違いフェンダーは樹脂製ではない
フロントフェンダー上のエアダクトはエンジンルーム内の熱を逃がす、これまでにない構造
リアフェンダー後ろ、リアバンパーサイドに設置されたエアダクト
現代のように、シミュレーション技術が確立し、エンジンルーム内の熱マネージメントができるようになった今、ボンネット上の大型エアインテークは、必須とは言えない状況だ。
しかし、スバルの高出力車は、そうはいかない。スバルが拘る「低重心な水平対向エンジン+シンメトリカルAWD」の場合、エンジンが低い位置にレイアウトされているため、前(グリル)から取り込む空気だけでは不十分であり、上からも空気を取り込む必要がある。
エアインテークが空気抵抗になるのがわかっていても、この「水平対向エンジン+シンメトリカルAWD」を続ける限り、ボンネットのエアインテークを受け入れざるを得ないのだ。
空力の化け物、ヤリスWRCのエアインテークとエアアウトの方法とは?
ヤリスWRCエンジンルーム内の写真。エンジンルーム内に冷却ファンが装着され、ボンネット上のエアアウトレットから熱気を排出する仕組みだ。トヨタのエンブレムの裏側からは吸気が行われている
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