スーパーシルエットで人気の高かったスカイライン ターボ
世界的にも人気の高いSUPER GTは『最強のハコ車レース』を謳っています。カーボン製モノコックのフロントに2L直4ツインカム+直噴ターボのNREエンジンを搭載するGT500マシンは、公称550ps以上のパワーで、例えば富士スピードウェイでは当代トップフォーミュラのスーパーフォーミュラから約7秒遅れのレコードタイムをマークしています。
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しかし、1980年代序盤に猛威を奮い高い人気を博していたハコ車レース、スーパーシルエットも忘れるわけにはいきません。コースが改修されて直接的な比較は難しいのですが、当時のトップフォーミュラ、全日本選手権の懸けられたF2の、約7秒落ちのレコードタイムをマークしていて、『最強のハコ車』と呼ぶに相応しいパフォーマンスを見せつけていました。今回は、スーパーシルエットで人気の高かった日産ターボ3兄弟の長男、スカイライン・ターボを振り返ります。
日産ターボ3兄弟の長男は?
スーパーシルエット・レースに向け日産ワークスが開発したクルマはスカイライン・ハードトップとシルビア、そしてブルーバード・クーペの3台でした。誕生した(実戦デビューしたレースが開催された)順番でいくとシルビア、ブルーバード、そしてスカイラインとなるのですが、根強いファンも多く、そしてその存在感が大きく、3兄弟を代表する存在としてスカイラインが長男と位置付けられています。まぁ3兄弟でなく三つ子と考えれば、最も最後に誕生したスカイラインが長男となるのも頷けるのですが……。
それはさておきスカイライン・ターボです。ベースとなったのは1980年に登場した6代目=R30系の2ドアハードトップ、2000RSでしたが、モノコックの一部を流用しながらも前後に鋼管で組んだパイプフレームを組みつけ、海外ラリー用に開発した2L直4ツインカムをエアリサーチ製のターボで武装したLZ20Bターボを搭載。スカイライン2000RSハードトップに似たシルエットの前後カウルを組みつけていました。
デビューシーズンとなった1982年にはフロントにグリルが設けられていたR30前期型をイメージさせるカウルが装着されていましたが、1983年シーズン用にはスカイラインのマイナーチェンジを受けて後期モデル、グリルレスのいわゆる“鉄仮面”ルックスに生まれ変わっていました。
この辺りの芸の細かさは、流石日産、といったところでしょうか。ちなみに現在、車両がランニング可能な状態で収蔵保存されている日産ヘリテージコレクションではスカイライン・スーパーシルエット・グループ5と呼ばれています。ですがレース参戦時はスポンサーであるトミカになぞらえて『トミカスカイラインターボ』を名乗っていました。
ボディカウルはムーンクラフトが担当
スカイライン・ターボをドライブしたのは星野一義さんとともに最後の日産ワークスドライバーだった長谷見昌弘さんでした。長谷見さんは、大先輩の高橋国光さんが1970年に、4ドアのスカイラインGT-Rをドライブし、全日本ドライバー選手権で全戦優勝を飾ってチャンピオンに輝いたのに続いて、翌1972年に2ドアのスカイラインHT(ハードトップ)GT-Rをドライブし、やはり全戦優勝でチャンピオンに輝いています。
そんな長谷見さんは、日産がワークス活動を休止している時期に、スカイラインでのレース参戦を計画し、1970年代にターボの開発を目的にレースに参戦していたバイオレットの、ターボで武装したL18改を搭載したスーパーシルエット仕様を追浜の研究所に提案。
すると話は日産本社も巻き込んでどんどんと発展していき、シルビアとブルーバードも含めて3車種で進める計画となり、レーシングカーの開発で定評のあるノバ・エンジニアリングに製作を依頼。カウルに関しては空力のスペシャリストとして知られるムーンクラフトが担当することになりました。これもスカイラインを長男とする所以です。
富士では観客全員が立ち上がって応援
スカイラインにシルビア、ブルーバードのターボ三兄弟はノバ・エンジニアリングで同時進行で製作が進められましたが、先に触れたようにスカイラインの完成が最も遅く、デビューレースは1982年5月の筑波サーキットでした。このデビュー戦では予選2位を奪うのですが、決勝では残念ながら2周でリタイアしています。
しかし2戦目となる8月の富士、RRCチャンピオンズレースのスーパーシルエット(SS)レースでは予選3番手から決勝では見事な逆転優勝。その時の印象を長谷見さんはレース後に次のような感激のコメントを残しています。
「最終コーナーを立ち上がってくると、スタンドを埋めたお客さんが全員立ち上がって応援してくれるのが運転していても分かった」
そして檜舞台となる富士グランチャンピオン(GC)のサポートレースとなっていたSSレースでは、9月の第3戦と10月の第4戦に参戦し、2戦連続で予選2位を奪い、第3戦の決勝は雨天中止となりましたが第4戦では見事優勝を飾ったのです。
デビューの1982年から1984年までの19戦で9勝を飾っている
翌1983年はGCサポートのSSレースでは第1戦で予選2位から決勝でも2位を奪ったものの2戦から4戦までは3戦連続のポールを奪いながら、やはり3戦連続してリタイアを喫してしまいました。それでもRRCチャンピオンズのSSレースでポールtoウィンを飾るとともに筑波で2勝、菅生で1勝。そしてJAF鈴鹿グランプリのSSレースでも優勝し、デビューの1982年から1984年までの19戦で9勝を飾っています。
グループ5の車両規定に則って設計製作されたスカイライン・ターボは、市販車輌のモノコックの、キャビン部分を残して前後を切り落とし、そこに鋼管のスペースフレームを組みつけたシャシーを採用しています。ただし設計の考え方としては鋼管スペースフレームにキャビン部分のモノコックを張り付けた格好だと、設計を担当したノバ・エンジニアリングの森脇基恭さんは、当時のインタビューに応えていました。
レギュレーションではベースモデルのサスペンション(の基本方式)は変更できないためにフロントサスペンションはストラットでリアはセミ・トレーリングアーム。搭載されたエンジンは4気筒のL型をベースにツインカム16バルブのスペシャルヘッドを組みつけてエアリサーチ社製のターボチャージャーで武装したLZ20BT(排気量は2139ccでボア×ストローク=89.0mmφ×86.0mm。最高出力は570ps)でダグナッシュ製の5速トランスミッションと組み合わせていました。ボディサイズは全長5065mm×全幅1980mm×全高1239mmでホイールベースは2615mmでベースモデルと同寸。車両重量は1005kgに仕上がっていました。
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