EVのタイヤには多くの性能が求められる
欧州から始まった急激なEV化の波は、世界中の自動車メーカーを混乱に巻き込み、一部にほころびを見せながらも、徐々に浸透してきています。私見ですが、この先すべてのクルマがEVになるなんてことはないと思いますが、それなりに真剣に自動車メーカーがEV開発に取り組んだ結果、EVならではの優位点というのも見えてきて、この先も一定数のEV需要が見込めるのではないかと思っています。
「タイヤの摩耗が早い」「買い取り価格は期待できない」EVにまつわる巷のウワサ6つの真実
やや強引に我々の生活のなかに入り込んできた感のあるEVですが、先にも述べたように内燃機関に比べ明らかな優位点があります。たとえば静粛性。音源はモーターの駆動音だけですから静粛性は抜群です。また、極低速トルクが太いのも特長に挙げていいと思います。車重は内燃機関の乗用車に比べ200~300kg程度は重くなりますが、低速トルクがぶ厚いので、案外スルスルと走り出すことができます。
その一方、デメリットももちろんあります。とくにタイヤという視点から見ると、車重増加によるタイヤの負荷増大は見逃せません。静粛性のよさも、タイヤノイズを隠せないので、克服すべき問題となります。
電費をよくするための転がり抵抗の低減もタイヤに求められる性能です。転がり抵抗が少なくなると、ウエットグリップとの両立が難しい問題となります。
低速トルクの厚いモーターは、発進時のタイヤの負担が大きくなります。重い車重と合わせて、タイヤの摩耗も克服しなくてはならない問題となります。
こうやってあげつらってみただけでも、従来の乗用車用タイヤに加えて、さまざまな性能が求められていることがわかります。
整理すると、問題点として挙がるのは、ケース剛性(耐荷重性)、耐摩耗性、転がり抵抗、静粛性、といったところでしょうか。
当然ながらタイヤメーカーでも対応は順次進められています。そんななか、規格として素早く形になったのが欧州のタイヤ規格でEV用に作られたHLとかHLCと表記される「ハイロードキャパシティ」規格です。
今後HLは浸透していくだろう
クルマのタイヤは1輪が受けもてる性能が限られています。これをロードインデックスという指数で表しています。
車重が増えるとタイヤの過重負荷は大きくなります。だから、一般的にはタイヤサイズ……インチアップや高偏平化、サイズアップ(ex:偏平率を50→55に225を245にあげる)などの方策をとるわけですが、クルマのタイヤハウスのサイズには限界があるので、タイヤのもつ荷重指数自体を高くした規格を作ったのです。
すでにエクストラロード(XL)とかレインフォースド(RFD)という規格があります。これはタイヤをインチアップして偏平率を下げると、空気量が少なくなってロードインデックスが小さくなるタイヤサイズが一部に出てきたのです。XL、RFDはこれに対処するための規格でした。
HLはインチアップではなく物理的に車重が増し、タイヤサイズの拡大ができない、あるいはやりにくいEVに対応した規格です。まだ一般的には浸透していませんが、少しずつ広がっていくのではないかと思います。
これは従来と異なる規格のEV用タイヤという話でしたが、現在売られているタイヤでも、EVへの装着を想定したタイヤも徐々に増えています。
ミシュランではフラッグシップタイヤであるパイロットスポーツにパイロットスポーツEVを用意していますし、コンチネンタルタイヤでは昨年(2023年)発売したプレミアムコンタクト7を、EV時代を意識したプレミアムタイヤと位置付けています。
また、ピレリでもEV向けタイヤとしてP ZERO Eを設定するほか、EV対応設計としてElectタイヤを各タイヤブランドに設定しています。ピレリではスタンダートダイヤとElectタイヤで構造を変えており、タイヤの接地面形状まで変え、より均一に接地面圧が得られるように設計されています。
ユニークなところでは、ノキアンタイヤはウインタータイヤ=ハッカペリッタR5 EVを設定。スタンダードモデルやSUVモデルとコンパウンドを変え、耐摩耗性を高めるなどEVとのマッチングが図られています。
もちろん国産タイヤメーカーでもEV用タイヤの開発は行われていて、ブリヂストンではエコピアEV01を発売していますし、横浜ゴムからもアドバンスポーツEVが発売になっています。また、ダンロップのEV用タイヤeスポーツマックスはクラウンセダンの新車装着用タイヤとして採用されています。トーヨータイヤからはSUV&ピックアップトラックEV用オールテレーンタイヤ=オープンカントリーA/TIII EVを発売するなど、じつは専用開発タイヤも多くリリースされているのです。
EVの重さ、駆動トルク、静かさはタイヤ開発の上で少なからず問題となっているので、これに対応したタイヤの開発もじつは粛々と進められているというわけなのです。
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