1986年から1990年頃までの好景気の時代、通称「バブル期」には、日本メーカーがコストをたっぷりかけて開発したクルマが多く登場した。小川フミオが気になる5台を選ぶ!
いわゆるバブル経済のころ、日本車は驚くほど車種バリエーションが増えた。たとえば1991年のトヨタ自動車のラインナップは約70車種ある。1971年は9車種しかなかった。
2020年のトヨタ車は約40車種。むしろ少なくなっているのは、乗用車のトレンドがSUVに集約され、姉妹車が少なくなったからだ。でも、見ていて楽しかったのは、さまざまな車型がラインナップされていて、そこからさらに派生車種が生まれるという、有機的な増殖ぶりだった。
バブル期に、なぜ車種が増えたのか。三菱「パジェロ」(1982年に初代が登場)やスバル「レガシィ」(初代は1989年)の人気が牽引役となり、RVブームが起こったのが、このころだ。
乗用車はセダンとハッチバックという”常識”が消費者のマインドのなかで崩れていくいっぽう、メーカーは市場のニッチ(すきま)を探して、さまざまな模索をした。結果が、多品種少量販売なる、現在にまで続くマーケティングなのである。
かりにあるセダンが持っていた市場が50万台であるとすると、それを30万台に削って、残りを派生車種に割り当てる。派生車種がステーションワゴンとRVの2モデルあるとして、各15万台売れればトータルで60万台、つまりプラス10万台の売れ行きが見込める、というのが、おおざっぱな考えかたといえる。
バブル経済崩壊以降は、予算削減が至上命令になるなか、もしメジャー車種で失敗作(売れない商品)を出してしまったら、経営が傾くとまで言われるようになったけれど、その前夜は、しかしながら、百花繚乱というかんじで、楽しかった。
(1)トヨタ「カローラ」(7代目)
カローラといえば、1966年に初代が発売されていらい、日本のベーシックカー市場での地位をゆるぎないものとしてきた。1990年代初頭までは、カローラがメートル原器のような存在だったともいえる。
1991年に発表された7代目は、そんなカローラの真骨頂といえる。スタイリングに派手さはない。いっぽう、メカニズムは充実していた。シザーズギアを使った「ハイメカツインカム」をはじめ、GT系のパワフルユニット、効率のよいディーゼルエンジンと豊富なラインナップだった。
全長4270mmのボディに2465mmのホイールベースと、いまの常識からすればコンパクトだが、効率のよいパッケージングが考えられていた。
もうひとつの特徴が、当時トヨタ自動車のエンジニアのエースといわれた齋藤明彦主査の指揮のもと、作りの品質が徹底追求されていたこと。部品単品はもちろん、それらの部品を組み付けたアセンブリーの品質も重視した高品質のカローラだった。
たいへんすばらしいことだ。最後にこのカローラに乗ってから20年以上たっているので、いまの評価ができないのが残念。同様の“源流主義”でクルマの作りをパーツひとつから見直した初代「セルシオ」が、いまでも軽快な走りとクオリティ感の高い作りを実感できたことから考えると、おそらく7代目カローラ、現在でもかなり印象ぶかい乗り味だろうと推察できる。
当時は、やれ280psだ、やれメルセデス・ベンツやポルシェ超えだ、などと自動車ジャーナリズムも浮かれていた。ともすれば、このような、まっとうなクルマづくりを評価することをないがしろにしがちだったかもしれない。振り返るときは、なつかしさにひたってばかりではなく、おおいなる反省の念もこめなくてはいけないと、思うのである。
(2)日産「レパードJ フェリー」
日産自動車がセドリック/グロリアの派生車種として1992年に発表したのがレパードJフェリーだ。ねらいは、セダン市場で新しいユーザー層を獲得すること。
当時の日本車はメルセデス・ベンツが目標ということが多かったなかで、乗り心地などにジャガー的な要素を採り入れたのが、このモデルの特徴だ。
4880mmの全長をもつ車体に、4130ccのV8と大きなエンジンを搭載。後輪駆動というのも、欧米のセダンの王道だ。主市場は日本でなく、北米だった(インフィニティ『M30』の車名で販売)。
インフィニティのモデルの特徴のひとつは、どこかにひねりをくわえたデザインだ。レパードJフェリーも、日本では人気が出ない尻さがりのスタイリングが、ある意味、強烈な印象を残した。
ブルーバード410型(1963年)が、最初に不評だった尻さがりスタイルで、このJフェリーのときは、9代目ブルーバード(1991年)がさきに登場し、やっぱり、市場が両手を拡げて迎え入れる、ということはなかった。ある国の市場でウケても、ほかではむずかしい場合もある。デザインはむずかしい。そう思わされた。
スタイリングのもうひとつの特徴は、キャビン髙だ。室内の広さを強調するため、キャビンの厚みがあってバランスをやや欠いている。正直いって、スタイリングにおけるこの2点は、当時から”どうなんだろうなぁ~”というかんじであった。ウケなかったと聞いても、驚きはない。
乗れば”いいねぇ”と思える、たっぷりした低回転域からのトルクと、しなやかな足まわりの設定は、最大の魅力で、くわえてオプションで(当時のイタリアの高級車のごく一部に使われていた)ポルトローナ・フラウによるレザーまで選ぶことが出来た。ひとことでいうと、じつに趣味性の高いクルマなのだ。
ただし、輸入車マーケットでも、ジャガーは趣味人のクルマ。そこをめざした価値観でクルマづくりをしても、なかなか理解してもらえないのは残念といえば残念だった。じっさい、1996年で生産終了。
いろいろと魅力的な要素で構成されているのはおもしろい。でも、きびしいことをいえば、では、日産/インフィニティならではのコンセプトはあるのか。全体のラインナップのなかに、整合性をもって組み入れられても不自然さのないモデルなのか、などといった疑問はある。
むずかしいことを抜きにすれば、自動車好きが集まっていた日産自動車が、自分たちの趣味を強く打ち出して開発したレパードJフェリー。いまも、いい状態の中古車がみつかれば、乗ってみたくなるのは、事実なのだ。
(3)ホンダ「コンチェルト」
ホンダと英オースチンローバーグループは、1979年から1994年にかけて提携関係を結んでいた。その結果、ホンダの数おおくの車種がローバーブランドで送り出された。1988年登場のコンチェルトもその1台。1989年には、イギリスでローバー「200」として販売された。
ボディはふたつ。4ドアと、英国人が好む5ドアファストバックとが用意され、日本でも「4ドア」と「5ドア」として発売された。ベースは1987年発表の「グランド・シビック」。ただしホイールベースは50mm長い2550mm、4ドアのボディ全長もシビック4ドアと比較すると185mm長い。
クルマは、奇をてらったところがなく、じつにまっとう。ローバーはホンダとの提携関係をうまく活かして、売れるクルマを作らなくてはいけないから、ホンダ以上に必死だったろう。
スタイリングもやはり、まっとうである。こちらもホンダとローバーのデザイナーの合作だ。2019年にフェラーリ「F8トリブート」の取材で伊マラネロ(フェラーリの本社がある)を訪れたとき、フェラーリの英国人デザイナーが、当時、ローバーに在籍して、ホンダとのプロジェクトを担当していたと聞いてちょっとびっくりした。
楽しい仕事だったそうで(訪日中は豪華なホテルに連泊)、いろいろなプロジェクトがあってかなり多忙だった、と、思い出してくれた。どのモデルもやや地味な印象なのは、パッケージングをなにより優先することが市場価値につながると判断されていたから、とのことである。
エンジンは、「シティ」に搭載された1.2リッターSOHC直列4気筒ガソリンエンジンを進化させた1.5リッターと1.6リッター。印象につよく残るドライブフィールではないものの、当時のホンダエンジンの常として高回転型だった。あまり調子に乗ると、トルクステア(急加速時に等速ジョイントが駆動輪の回転差を吸収しきれず、ステアリングホイールが左右いずれかに振られること)が出たりした。
(4)三菱「デボネアV」(2代目)
1964年に登場した初代デボネアは、それはそれで、存在感のあるクルマだった。もと米ゼネラルモーターズのデザイナーがまとめたスタイリングは、バランスがよく、フロントマスクも個性的で迫力があった。いまでもたまに路上で見かけると”おっ!” と、思う。
22年ぶりのフルモデルチェンジが、1986年の「デボネアV」である。「ただのデボネアでよかったんじゃないか?」と、思うものの、やはり自動車はエンジンであるという考えかたが、自動車界に色濃く残っていたのだろう。Vとは、2.0リッターV型6気筒、そのうえが3.0リッターV型6気筒という、この2代目デボネアの特徴を盛り込んだネーミングだったのだ。
前輪駆動化されたのは大胆で驚いた。もちろんパッケージングを考えれば、そのほうが室内を広くできる。フランスやイタリアでは、高級セダンでも前輪駆動は当たり前だ。デボネアVは、スタイリングこそそれほど斬新でないものの、あたらしい高級車像を打ち立てようと、開発陣が考え、その帰結が前輪駆動の最上級セダンという決断だったのだろうか。
全長4865mmのボディは、後席の存在感を感じさせる、いわゆる6ライト形式。無理やりウィンドウをあけたようなリアクオーターピラーと、タイヤの一部が隠れるようなスパッツ型のリアフェンダーなど、キャデラックあたりを参考にしたような、独特のデザインテイストを持つ。
初代が、巨大な三菱グループの法人需要をあてこんでいたのに対して、2代目は大きくなってきた高級セダン市場にかんがみて、個人も重要なターゲットとしていた。そのため、ラインナップには、AMG(現メルセデスAMG)のエアロパーツを組み込んだ「3000ロイヤルAMG」という仕様も用意されていた。このあと、ギャランにもAMG仕様が設定されている。
ブートマウンテッド型のリアスポイラーなどは、メルセデス・ベンツ「190」のスポーティ仕様を思わせる。そこを意識したかどうかさだかではないものの、ドイツのスポーツセダンをめざしたようなデザインテイストがユニークである。
電子制御サスペンションをそなえる3.0リッターの「ロイヤルエクストラ」など、乗れば、とばしても安定して走るし、ドライバーズカーとしても印象的だった。クラウンやセドリックのように日本マーケットでウケる独特の”色気”がとぼしく、走り屋むけに開発されたような、ちょっと違和感があったのも事実だ。
1992年まで生産されて、3代目となった。このあたりで、三菱グループの要人を乗せて走るのに、これで大丈夫かなあと心配になるぐらい、デボネアから威厳はなくなってしまう。クラウンなどをみればわかるように、高級車づくりは、技術のアップデート化など、不断の努力による熟成が必要だったのだけれど。
(5)ユーノス「800」
このクルマ(マツダ名はミレーニア)が1993年に発表されたときはびっくりした。なにしろ世界初のミラーサイクル搭載車だ。
このころのマツダは、「コスモ」(1990年)のシークエンシャルターボつき3ローターだ、「センティア/アンフィニMS-9」(1991年)の新型V6だ、と、どんどん新エンジンが飛び出す、すごい時期だった。
ミラーサイクルは、通常のガソリンエンジンの吸入から排気にいたる行程をすこし変え、とりわけ高速走行時などに燃料消費を減らす。
もうひとつのメリットは過給器との相性のよさ。エンジンの圧縮比は下げても膨張率を下げずに使える。そのため熱効率の低下を抑えられるのだ。
ユーノス800の2254ccV型6気筒DOHCミラーサイクルエンジンは、スーパーチャージャーを組み合わせ、220psを発生した。ミラーサイクルはそのあと、同社の「デミオ」(3代目)、「アクセラ」(2代目)、「アテンザ」(3代目)にも展開された。
この機構のメリットに気づいていた技術者が多かったなかで、先鞭をつけたのがユーノス800。ゆたかなバブル期を背景に、先進技術に資金を投入したマツダの姿勢は評価したい。
おもしろいのは、同時にアトキンソンサイクルのV6も用意されていたことだ。ミラーサイクルエンジン搭載の上級グレードは400万円になんなんとする高価格になったため、市場を拡げるためには100万円ほど安くできる通常エンジン車も必要だったのだろう。
問題は、だからといって、驚くほどの性能ぶりというわけでなく、あえてミラーサイクルと謳い高額の車両代金を請求する正当性が市場に理解されなかった。ユーノス800は2003年まで作られるが、2000年にはミラーサイクルエンジンは廃止されてしまった。
でもまぁ、こういう技術が出てきたところが、バブル経済期の日本車のおもしろい点だった。多品種少量生産がたんにスタイリングコンセプトで終わらず、技術にまで及んでいた。いい時代であると、クルマ好きは思う。
文・小川フミオ
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