この記事をまとめると
■2000年初期頃の日産はデザインが優れたモデルが多かった
「未来感を表現」した昔のクルマと「レトロ感を演出」した今のクルマ! 2台のコンセプトカーの対比がオモシロい
■日産には当時優秀なデザイナーが多く在籍していたのも特徴だ
■いまでも愛車として愛用しているユーザーは数多い
日産を窮地から救った5台を振り返る
現行のノート以降、アリア、サクラなど、日産のデザインが急激によくなったと評判です。日産には、過去にもこうしてデザインの向上が評価された時期が何度かありますが、今回はそんななかから「V字回復」と言われた2000年代初期の、秀作デザイン5台を振り返ってみたいと思います。
豊富なボディカラーが印象的なコンパクトハッチ
ルノーとの業務提携により、カルロス・ゴーン氏が1999年に打ち出したのが「日産リバイバルプラン」。そこでは、いすゞ自動車からヘッドハンティングした中村史郎氏を中心に「デザインの分野で世界をリードする企業」を目指し、矢継ぎ早に優れたデザインのクルマを送り出しました。
そこでまず紹介するのは、2002年登場の3代目マーチです。ジウジアーロが関わった初代はもちろん、欧州でイヤーカーを受賞した2代目も非常によく練られたデザインでしたが、それに負けなかったのがこの3代目です。
「ユーザーフレンドリー」をテーマに、猿渡義市氏がキースケッチを描いた3代目は、力強い弓形のショルダーラインを持つしっかりしたボディに、丸いルーフを持ったキャビンを組み合わせたじつにユニークなフォルムに。全長を先代より25mm短くしながら、ホイールベースを70mm伸ばしたことで高い安定感を手に入れました。
擬人化されたボンネットフード上の丸いライトも目新しいし、ショルダーラインをしっかり受け止める縦長のリヤランプも見事。さらに、オートカラーアワードを3回受賞した極めて魅力的なカラー展開も3代目の魅力です。マーチの生産中止が発表されたいま、あらためてこの3代目のスタイリングが見直されているようです。
高級じゃないけどクオリティを感じさせるデザイン
次に紹介するのは、2004年登場の初代ティーダです。サニーやパルサーの後を引き継ぐ同車は、「Compact meets Luxury」をコンセプトに、内外装のクオリティアップを目指しました。
一見、プジョーを思わせる切れ長のランプを持ったフロントは端正で、比較的堅い印象を持たせたボディパネルとの相性も良好。3ボックスとして後発したラティオも、当時のコンパクトセダンのなかではバランスのとれたプロポーションを持っていました。
後述するティアナと同じスタッフが関わったとされる、インテリアのクオリティも見所。もともと大きな構成のスッキリしたインパネが印象的ですが、「モダンコレクション」など本革や木目調パネルの使い方が巧妙で、クラスを感じさせない出来でした。
いまでも愛車にしている人多数!
従来の概念を覆した動かないカーデザイン
3台目は、2002年登場の2代目キューブです。2001年のジュネーヴモーターショーに出品された「シャッポ」の量産版として、もはや語ることはないと思えるくらいの秀作です。
「Cube My room」をテーマにしたデザインは、当時若干28歳の桑原弘忠氏のスケッチが採用されたもの。左右非対称のリヤが話題になりますが、とにかく「風を切って進む」クルマの概念を打ち破った四角いフォルムを、丁寧なRで面取りすることで優しい表情に仕上げたのが秀逸。「100メール先からでもキューブとわかる」というテーマを見事に成し得ました。
また、ティーダ同様、当時の日産らしいインテリアへの注力具合も魅力です。とくに、ロンドンのインテリアブランドであるコンランとのコラボは革新的で、真っ赤なレザーシートの採用は「デザインの分野で世界をリードする日産」の面目躍如と言えるものでした。
力の抜けたエレガンスさを打ちだした大型セダン
4台目は、2003年登場の初代ティアナです。セフィーロやローレルの後継として、日産の高級セダンを示す「ダブルアーチグリル」を持ちながらも、角を落とした大型の前後ランプにより威圧感を回避。美しいリヤクオーターを持つスッキリしたサイドグラフィックによって、独自のエレガントさを打ち出しました。
ただ、同車の特徴はやはり「クルマにモダンリビングの考え方」のコピーに代表されるインテリアの高いクオリティです。チーフデザイナーの中島敬氏は「従来にないインテリアに挑戦したい」とし、「運転する心地よさと同時に、日本的なもてなしの心」を両立させました。
「モダンリビングコンセプト」は先のティーダやブルーバード・シルフィにも展開されましたが、単に高級素材をふんだんに奢るだけでなく、従前の欧州プレミアムブランドなどとはまったく異なる世界観を打ちだした点が見所です。
躍動的でありつつ繊細さも持ち合わせた先進SUV
最後は、2002年に登場した初代のムラーノです。当初は北米市場に投入されましたが、大きな評判を受けて2004年に日本市場へ導入されたラージサイズのクロスオーバーSUVです。
「躍動感のある彫刻」をテーマとしたデザインは、緩やかなカーブを描くショルダーラインを持つボディにキャビンが載るという点で、先述の3代目マーチに近い構造。ただし、キャビンが前進感を持つ比較的シャープな形状であるところが異なります。
キリッとしたランプとメッキのグリルの組み合わせは、これも先の初代ティーダに近い表情で、ボンネットフードと面一化された滑らかな表情がこのクルマの上品さを作っています。そこは、ガラス工芸が有名なベニスの島から取った車名が反映された点なのかもしれません。
さて、先の中村史郎氏を中心とするデザイン改革では、全社を上げたブランディングが行われ、商品デザインでは「Clear(明快)」「Creative(創造的)」「Consistent(一貫性)」が掲げられました。実際、ほぼ同時に登場した新車群は、それぞれの特徴を持ちながらも、どこか共通の表情や質感を持っています。
これは、明確なデザインテーマを持ちつつ、中島敬氏や青木護氏など、才能のあるデザイナーが自由に手腕を振るったところにその理由があると思えます。もちろん、現在の日産車の統一された表現も魅力ですが、当時の幅広いデザインの解釈による仕事にも大きな魅力を感じるのです。
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