ダイハツの認証試験不正問題の影響で、ダイハツ車とそのOEM車が出荷停止となった。このタイミングで納車待ちというユーザーからは不安の声も上がっている。そんな状況でユーザーは何を知っておくべきなのか、どんな対応をすべきなのか。現時点での状況把握と、取るべき行動を解説する。
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●文:月刊自家用車編集部
“ダイハツ“ショック
―― ダイハツ ロッキー
ダイハツに激震が走っている。かつてないスキャンダルの発覚によって「すべての車種の出荷を停止する」という、非常事態に陥っているのだ。
今回の不正問題をわかりやすくいうと「ダイハツはクルマの安全性を確認する衝突実験でごまかしをしていた」ということになる。それも「長年にわたって」である。
どんなごまかしをしたか? たとえば「エアバッグの試験では衝突したときに自動で検知する必要がある……にもかかわらず、タイマーを仕込んで作動させた」とのこと。思わず「それってエアバッグのテストになってないだろ!」と突っ込みを入れる向きも多いだろう。
なんで、そんなヤバイことをやったのか? 不正を調査した第三者委員会によれば「車両開発時間の短期化を強く求めるという要請が認証試験部門にしわ寄せされた」結果とのこと。つまり「時代に合った売れ筋の新型をすばやく投入するため、安全性の確認を手抜きした」というわけだ。
出荷停止の影響はOEM車にも
―― ダイハツ タントカスタム
しかし、その代償はあまりにも大きかった。出荷停止の対象はダイハツの全モデルに加えて、トヨタやスバルのOEM車(ダイハツ製造の相手先ブランド)にも及んでいる。
ダイハツのトップは「いま乗っているクルマを乗り続けても問題なし」とコメントしているが、こと安全性に関しての不正だけに「大丈夫か?」と心配するユーザーも多いだろう。まずは該当モデルのオーナーに「安全性の根拠を明らかにする」という説明責任が問われることは間違いない。
今回の不正が発覚した直後に、弊誌に情報を提供してくれている、ダイハツのセールスマンに訊ねると「上から具体的な指示がないので現場は混乱している。いまのところ、お客様には丁重に謝るしかない」とのことだ。
ともあれ、いま販売の現場で起きているトラブルについて、ダイハツだけでなく、トヨタやスバルのセールスマンも加えて取材してみた。
現場のトラブル 商談中のケース
―― トヨタ ライズHEV
ほとんどの販売店が不正発覚と前後して対象車種の商談を中止している。ダイハツは「販売の再開については未定と伝えている」とのこと。一方、トヨタは「ライズの購入を検討していたお客様には近々発売される新型ヤリスクロスを、ルーミーはシエンタへの変更をお勧めしている。もしも、お客様が検討してくれるようならお詫びの意味も含めて値引き条件を上乗せして売り込む」そうだ。
現場のトラブル 契約済みのケース
商談が終了すると、ユーザーは販売店が用意した注文書(実質的な売買契約書)にサインする。この時点で販売店はメーカーに発注をして、納車を待つことになる。納期は車種によって違うが、早ければ1か月程度で納車となるが、最近は納期が遅れており、2~3か月待ちはざらで、半年以上かかるクルマも目立つ。今回の不正発覚で該当車は出荷停止となっているため、注文したクルマが出荷(生産)前なら「事情を説明して契約の取り消し」(業界用語でオーダーカット)を申し出てくるわけだ。しかし、一方的に「売ることはできなくなった」といわれても「はい、そうですかと、納得することはできない」というユーザーもいるだろう。
読者からの緊急電話
実際、オーダーカットとなったため、月刊自家用車の電話相談室にアドバイスを求めてきた読者がいる。相談内容と回答を要約して紹介しておこう。
Q「3か月ほど前にトヨタの販売店でライズのガソリン車を契約しました。納車は年末とのことでしたが、昨日、担当セールスさんから『不正問題から納車ができなくなった』との連絡が入りました。新年を新車で迎えようと楽しみにしていたので『納得がいかない』と申し出たけれど『どうしても納車はできない。もしもよかったら1月に受注を開始する新型ヤリスクロスを優先的に販売するので変更していただきたい』といわれました。タイプの違うクルマなので抵抗があるし、支払い総額もライズよりアップしそうなので態度を保留しましたが、落ち着いて考えると『ヤリスクロスに変更してもいい』という気持ちになってきました。こういうケースではペナルティ的な値引きを要求できますか?」
A「ライズの販売再開は未定で、早期の購入はできないと思ったほうがいいでしょう。ヤリスクロスの購入に納得がいくなら変更に応じることをお勧めしますが〝ペナルティ的な値引き〟は設定していないと考えてください。ただし、セールスマンに対して『余分な出費は極力抑えたい。ヤリスクロスをライズの値引き額及び支払い総額に合わせてもらいたい』などと攻めるといいでしょう。ヤリスクロスはマイナーチェンジが予定されており「新型が優先的に入手できる」というのはメリットと考えていいと思います」
金銭的な補償は得られるのか
納車を心待ちにしていたユーザーにとってはかなりショックだが、前述のようにダイハツ車と同社のOEM車は「注文は受けたが、納車はできない」という状況に陥っている。正式な売買契約を結んでいるのに売る側の一方的な理由で解約するのだから「損害賠償(ペナルティ)的な補償を受けたい」と思うのは当然といえそうだ。
しかし、契約の際に交わした注文書には売る側に都合のいい約款(特約事項)が存在する。それによれば「注文する側の事情で契約を解除する場合、損害賠償は支払わない」といった意味の一文が入っているのだ。一方、買う側には「キャンセルしたら損害賠償を請求する場合もある」となっている。
なんとも身勝手だが、ユーザー側はサインしているため「約款を了承した。だから、ペナルティを要求しても応じない」という原則が成り立ってしまう。このあたりをセールスマンに訊くと「丁寧に謝罪をしてご注文の取り消しをご了承願う。申込金を頂いていたらもちろん全額、返金するが、納車できないことによって生じた金銭的な補償についてはおそらくご容赦願うことになる」とのこと。
「新車はこない。クルマは売ってしまった」はどうなるか
納車待ちのユーザーのなかには「新車が届くことを想定して下取り車を買い取り専門店に売却してしまった」という人もいる。「新車はこない。クルマは売ってしまった」となると「責任をとってもらいたい」といいたくなるのも理解できる。ただし「納車前に売却したのはユーザーの判断なので販売店には責任はない」としてくる可能性が高い。
もっとも、新車を購入する販売店が納車前に下取り車を引き取っていたという場合は「契約を破棄したのだから下取り車を返してもらいたい」と請求することはできる。実際、こうしたトラブルを防ぐために「納車前に下取り車を引き取っても売却しないで保管しておく」という措置を採っている販売店は多い。また、販売店が「下取り車をすでに売ってしまった」という場合は「同等の中古車を探してもらう」などの対処法があるだろう。
「下取り車の車検切れ」はどうするか
さらに「下取り車の車検切れ」という問題もある。例えば「1月に納車を約束していたが、オーダーカットとなって新車が入手できなくなった。しかし下取り車の車検が1か月後の2月に切れる。すぐにほかの新車を契約しても納車は数か月先になってしまう。本来なら、車検を通さずにすむはずだったが、急遽、車検を通すことになってしまった」というケースだ。
これに関しても複数のセールスマンに訊ねたが、はっきりした回答は得られなかった。ただしトヨタセールスマンの一人は「別の取扱車を契約してくれるなら、うちの負担で車検を通すことになるだろう」とコメントした。
すでに出荷済みの車はどうなるか
ここまで説明したのは「出荷前の契約」についてだが、すでに出荷済みの場合は事情が違ってくる。ダイハツは「すでに出荷済のクルマについての対応は販売店に任せる」とのこと。トヨタやスバルも同様の判断となりそうだ。このケースでは注文したクルマが販売店に届いている(もしくは届く予定)なので「不正は発覚したが、安全性には問題がない。だからこのまま買ってください!」などといってくるとみていい。
その際、すでに契約が終わっているが「お詫びということで支払い額の減額(値引き)に応じたり、付属品の無料サービスをつけたりすることもある」とのこと。ただし、その額は数万円程度といわれている。ちなみに、あまりに無茶な金額を請求した場合は「応じられない」と拒否してくるだろう。
すでにナンバーを取得した車はどうなるか
販売店にとって深刻なのは、不正の対象となっているクルマを陸運支局に登録(車両ナンバーを取得)してしまった場合だ。通常なら登録後のキャンセルは「すでにお客様のクルマなので応じられない」と拒否してくる。しかし、今回のケースではユーザーが「安全性の確認ができていないクルマには乗りたくない。購入をキャンセルする」などと申し出てくると、不正が原因となっているため、ほとんどの販売店が「登録後であっても無条件でキャンセルを受ける。当然ながら申込金などは全額、返金する」としてくるだろう。ただし『乗っても問題はない』ことを説明してなんとか引き取ってもらえるようにする」とするセールスマンも多かった。このケースでもお詫びということで支払い総額の減額や付属品の無料サービスに応じる可能性が高い。
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