ヨコハマタイヤのスタッドレス「アイスガード」が第7世代となり、どこかどう変わり、実際に性能は変わったのかをテストしてきた。
第6世代のアイスガード6では「冬の怪物」をキャッチコピーに、氷に効く、雪に効く、永く効くという性能アピールをしたが、このアイスガード7では、その性能のさらなる向上を目指したものだ。特に永く持つ性能はアイスガード6と同等の性能を維持しながら、氷上性能と雪上性能を上げることを開発目標を掲げている。
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アイスガード7へとフルモデルチェンジ。氷上性能、雪上性能を上げ耐久性も確保性能を上げるための課題
では、具体的にみていくと、夏タイヤであればグリップ性能と耐摩耗性は相反性能であることは簡単にイメージできると思うが、スタッドレスでの氷上性能と雪上性能も相反性能であることはわかりにくい。一般的には氷上性能が上がれば雪上性能も当然良くなっているだろう、という勘違いが一般的ではないだろうか。
エンジニアの技術説明によれば、氷上と雪上性能は、相反性能であり双方の性能アップは簡単ではないという。
雪上、氷上テストは北海道旭川にある横浜ゴムのテストコースで実施氷上性能では溝やサイプのエッジ部分が氷をひっかく力であるエッジ効果と、ゴムの表面が氷に密着する力である凝着摩擦力が重要。一方、雪上性能では、タイヤの溝で踏み固め雪の柱を排出する時の力である雪柱せん断力が重要になるという。
したがって氷上路面に密着する面積を増やしエッジ面積の広さが重要であり、雪上では雪柱せん断力を確保する溝の面積が重要になる。つまり接地面積が増えれば溝面積が減り、溝面積を増やせば接地面積が減るという相反関係にあるわけだ。
その課題に対して最適なスペックを作るために横浜ゴムはコンパウンド、トレッドパターンの技術で最適解を求めたというのがアイスガード7というわけだ。
氷盤路テストではスキール音が!
さて、実際に開発されたアイスガード7を横浜ゴムのテストコースがある北海道旭川市のTTCHで2021年2月にテストさせてもらった。東京ドーム19個分ある広さに、屋内氷盤テストコースや登坂路、圧雪試験路などのテストコースがある。
冷媒装置を導入したテストドームで氷盤路短制動比較テスト特に屋内の氷盤路は冷媒装置を導入したことで、任意の路面温度が設定でき、かつ安定した氷の状態でテストできるため、精度の高いテストが可能になった。これによりテスト期間がこれまで自然環境に依存せざるを得なかった期間が、この冷媒装置導入により約2ヶ月は開発期間が長く取れるようになったということだ。
その氷盤路でのテストでは路面温度がマイナス1度とマイナス11度の路面を用意し、アイスガード6とアイスガード7の短制動比較テストを行なった。車両はプリウスを使用し30km/hからABSを効かせて停止するテストだ。
ブレーキングをするタイミングをパイロンで位置決めしてのテストのため、正確さは微妙に異なってくるものの、各3回のトライをしていずれもアイスガード7のほうが短距離で停止できたので、氷上性能の向上が見られるという結果になった。
マイナス1度の氷には、表面に少し水がある状態で、止まる寸前のフィーリングではアイスガード6はゆっくりと止まり、アイスガード7はガッチリ止まるという違いがあった。またマイナス11度になると表面には水分がなくなり、アイスガード7からはブレーキを踏んだ瞬間、スキール音が出るほどのグリップがあった。またステア応答でも舗装路のように感じるほどしっかりとした手応えがあった。
今季冷媒装置を導入し、安定した氷盤路の製作ができるようになった旭川市にある横浜ゴムの屋内試験路雪上のハンドリング
続くテストはハンドリング路で、欧州の路面をイメージしているということだが、アップダウンやヘアピン、逆バンクなどさまざまな路面がある周回路で、テスト車両もいろんな駆動方式のクルマが用意されていた。
ハリアーはAWDでテストハリアーのAWD、レヴォーグAWD、FFプジョー508、FFシトロエンC3が用意されていた。ここでは直線で100km/h以上の速度も可能な圧雪路で荷重移動をコントロールしながら、縦、横のグリップ力をテストした。
アイスガード7はどの駆動方式でも安定してグリップして、しかもかなり高グリップ力を発揮する。そのため、アイスガード7は面白いことにクルマの性能を引き出している、というように感じられ、言い換えれば、クルマの性能をスポイルすることなくクルマの性能なりに走ることができるという印象だった。余談だが、レヴォーグAWDが最も安定し、かつ車両姿勢をコントロールしやすい車両であることもわかった。
そして雪上スラロームテストではFRのスープラとヴェルファイアでテストした。その意味は、大径で低扁平、そしてワイドサイズというモデルでも高いレベルのグリップが得られるのか?という狙いでのテストだ。テストはアイスガード7の絶対評価としての試乗テストになる。
雪上も安定しコントローラブルなAWDのレヴォーグシトロエンC3はFFを代表してテストを走行いずれのモデルでも高いグリップレベルであり、滑り始めてからのグリップ回復も早く、例えFRであっても安心して走行することができる。スラロームの入り口での回頭性でも強い手応えを感じ、旋回しているときのリヤのグリップ感もしっかりとある。無駄にアクセルを踏むことがなければ、アスファルトを走っている気持ちにもなれるほど高グリップ力と安心感があった。
そしてもうひとつの雪上スラロームテストはFFのヤリスでテスト。全長、ホイールベースがこれまでのモデルより短いので、ヨーレートが発生しやすい車型でもある。そしてVSCをオフにしてテストする。ここではアイスガード6とアイスガード7の比較を行なった。
ヨーの発生の仕方はハッキリと違いがあり、アイスガード6では、50km/hの車速からのパイロンへのアプローチはジワリと寄っていき、そこからわずかに横滑りをし、グリップが回復する。新しいアイスガード7ではこのアプローチがいとも簡単に回頭し、ヨーが発生する。つまり、グリップしてコーナリングしているということだ。
モータージャーナリストの高橋明が雪上テスト技術的アプローチ
さて、テスト結果はとしては、アイスガード6と7での違いは、さまざまな路面において全体に穏やかなグリップを示す6とどんな路面でも明確なグリップを示す7という違いとして感じている。そこで、ここからは、アイスガード7の開発における技術的アプローチを見てみよう。
トレッドパターン、コンパウンドを含め全領域で新型にフルモデルチェンジしたアイスガード7まずはトレッドパターン技術。「氷に効く」性能は、接地面積を大きくする。そのためにブロックの倒れ込みを抑制し、凝着摩擦力を増加させて氷上路面としっかり密着させることが重要。そして「雪に効く」性能は、氷上性能を悪化させずにどのように向上させるのかが課題で、溝やエッジ効果を探求したという。さらに「永く効く」性能は、サイプ形状の向上を目指し摩耗時にサイプのジグザグが増加する新形状を開発。といったポイントになる。
つまり、接地とエッジの両技術を両立して氷上性能と雪上性能を向上させたということになる。
溝面積比率を大きくすると排雪性が良好となり雪上性能は向上し、溝面積が増えた分、接地面積は減ってしまうので、氷上性能は悪化する。よって、従来の雪柱せん断力からのアプローチでは氷上と雪上性能向上にはアプローチできない、ということがわかったという。
エッジ量、接地面積、ブロック剛性がポイント
そこで今回の開発はエッジ効果のキーである溝のエッジ量と、凝着摩擦力の指標である接地面積とブロック剛性ということになる。
そして多くのトレッドパターンでテストし、溝エッジ量を増やしていくと雪上性能は向上し、氷上性能にはピークのポイントがあることが分かったという。それは溝のエッジ量には雪上と氷上の両立できる範囲と相反してしまう範囲が混在していることを発見したのだ。これに加えてエッジ面積、ブロック剛性についても最大化させ氷上性能の向上を狙ったわけだ。
そのために、イン側にはパワーコンタクトリブEXを配置し、発進時、制動時には氷としっかり接地する。センター部にマルチベルトブロックEX、アウト側にはコレクティブビッグベルトEXを採用し、コーナリング時でもブロックが倒れ込まず、安心して密着できる構成とした。
一方、雪に効くトレッドパターンでは、溝エッジ量の増加をコンセプトにパターンを開発し、溝を多く配置するとブロック剛性は低下し氷上性能も低下する。これが従来のアプローチだったが、ブロック剛性を落とさず溝を多く配することがポイントとなるため、イン側には傾きの角度が異なる複数のラグ溝から構成されるマルチダイアゴナルグルーブを配置し、発進時、制動時にしっかり雪にグリップさせる。センター部及びアウト側にはタイヤの回転方向に伸びる複数のジグザク溝トリプルライトニンググルーブを採用し、コーナリング時の排雪性を向上を狙ったパターン構成を開発した。その結果、アイスガード史上最大の溝エッジ量を実現できたということだ。
永く効く
さらに、永く効く性能に貢献するサイプについても、従来はトレッドコンパウンドによって性能を作っていたが、トレッドパターンからも永く効くを向上させるため、新たにクワトロピラミッドグロウンサイプを開発した。
50%摩耗時に、このサイプ形状が太くなるという新形状を開発。従来は摩耗とともにサイプの形状は細くなる形状だったが、アイスガード7では太くなる形状とした。この形状はブロッグ剛性向上の初期性能に貢献するだけでなく、摩耗時のエッジ効果をキープすることで、高いレベルの氷上性能の維持にも貢献するということだ。
そして、氷上性能を確保するためWエッジマイクログルーブを新たに開発。各ブロックの中央部とエッジ部で異なる角度を採用し、ブロック中央部ではサイプの中央と交差させることで横方向のエッジ効果を向上。水膜を効率よく排水することができる。
コンパウンド技術の進化
これらのパターン技術と平行してコンパウンドにも改良を加えている。マイクロレベルでのポイントは実績のある新マイクロ吸水バルーンに加えて、新規素材の吸水スーパーゲルで瞬時に吸水。そしてナノレベルでは、ホワイトポリマー2にオレンジオイルSを配合して氷に効く、永く効く、雪に効くを導き出している。
そのメカニズムは、氷で滑る原因の水膜をマイクロ吸水バルーンと吸水スーパーゲルで瞬時に吸水することでアイス性能を向上。そしてエッジ効果を持たせるために、マイクロエッジスティックを今回新たに配合してアイス、スノー性能に貢献している。
さらにシリカの大量配置で凍結路面、ウエット路面との密着効果を増大させ、ホワイトポリマー2とオレンジオイルSの配合でゴムの劣化を抑制しているのが特徴というわけだ。こうしてアイスガード7が誕生している。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
The post ヨコハマタイヤ 新アイスガード7を雪上・氷上でテスト試乗 first appeared on オートプルーブ - Auto Prove.
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