トヨタ新型クラウンセダンに、ハイブリッドと燃料電池車(FCEV)が用意される。このモデルの登場で、トヨタによるFCV戦略にどう影響があるのか? さらに、水素エネルギー業界の現状と今後の展開について解説と考察していく。
文/高根英幸、写真/高根英幸、ベストカーWeb編集部
クラウンセダンにFCEV追加で水素普及なるか!? もしやミライよりお手頃価格かも
■クラウンFCEVが今秋に登場! FCVモデルの普及へ期待大!!
2023年秋ごろに新型クラウン「セダン」が発売される。パワートレインには、ハイブリッドとFCEVが用意された(写真は新型クラウンセダン最終プロトタイプ)
2023年4月、トヨタから新型クラウンセダンに関する情報が公開された。
それによると、これまでに登場したクラウンクロスオーバーとSUVのクラウンスポーツにはエンジンがフロント横置きで電動4WDだったのに対し、セダンはFRプラットフォームを踏襲するという。
しかもHEVとFCVをパワーユニットとして用意するというのだ。
これはトヨタのFCV戦略の大きな起爆剤になり得ることを意味している。クラウンという不動のブランドと組み合わされることで、FCVが再び盛り上がりを見せる可能性が高まったのだ。
■MIRAIより進化したFCスタックを「クラウン」に搭載か?
2020年12月に発売された現行型(2代目)MIRAI。洗練されたデザインと先進性を備えたFCVだ
MIRAI(特に現行モデル)は、すばらしい乗り味と先進性を備えたFCVだ。
けれども、その先進性をアピールするがあまり、スタイリングなどで乗り手を選んでしまうという側面もあった。
例えば落ち着いた高級セダンに乗りたい層は敬遠してしまうケースがあったはずだ。しかしクラウンセダンともなれば話は別だ。
新型クラウンセダンだって(発表されているプロトタイプを見れば)かなり攻めてるデザインじゃないか、と思う方もいるだろう。だが「クラウン」なのだ。
カムリが年内に生産終了予定となった今、保守的なセダンはほとんど存在しない。だから、新型クラウンセダンを選ぶことになるのである。
おそらくMIRAIのFCスタックやプラットフォームをそのまま使いクラウンのボディを被せるだけでなく、さらに効率化を進め進化したFCVとして登場するだろう。
つまりクラウンセダンFCVは、MIRAIより使い勝手が良く、リーズナブルなFCVとなる可能性が高い。これによって公用車などにはFCVの採用が進むことになると予想できる(※1)
そんなトヨタのFCV戦略の攻勢ぶりは、もう少し前から感じ始めていた。それは2023年3月に開催された展示会、H2&FC EXPOでのことだ。
※1 MIRAIはプラットフォームをレクサスLSと共用している以外は、専用部品ばかりなのでコストが高い。
しかし、クラウンFCVはFCモジュールやモーター、タンクなどFC関連部品以外は、クラウンセダンのパーツを利用するのでスケールメリットがあり、車体の生産コストは安くできる。これもリーズナブルになる根拠と言えるだろう。
■トヨタが燃料電池の仕組みをまるごと公開!! そんなことできるの!??
2023年3月に開催された「H2&FC EXPO」のトヨタブースにてお披露目されたFCモジュール
これまでも北米で大型FCトラックの実証実験をしたり、国内でも物流拠点に水素ステーションを設置して定期便の大型トラックをFCV化する実証実験を行なってきた。
そして次のステップとしてFCモジュールを外販するようになったのもここ1、2年のことだ。
前述の2023年3月の発表と、同時期に開催されたH2&FC EXPOでのトヨタブースの充実ぶりは、ちょっとこれまでのトヨタの展示会での見せ方とは次元が違う印象だった。
トヨタは開発中を含めて、全部で4タイプのFCモジュールを展示し、それと組み合わせて使用できる水素貯蔵モジュールも公開した。
しかもFCモジュールの内部で電気を作るFCスタックと、その心臓部とも言えるセルまで公開し、燃料電池の仕組みをほぼオープンなものとしたのだ。
これはそれだけトヨタの燃料電池が完成度高く、なかなか真似できないという自信の表れでもある。
■中国や米国系企業も出展!! 筆者が驚いた水素エネルギー業界の盛況ぶりとは
中国のベンチャー企業が、FC EXPOで出展していたFCモジュール。ほかにも中国製のFCスタックやドイツ製、エンジニアリングメーカーが作ったモック(模型)のFCモジュールなど多数展示
中国やドイツ、米国などのベンチャー企業もFCモジュールを展示していた。これまでのFC EXPOではなかった盛況ぶりに、ちょっと驚いたほどだ。
5、6年前までのFC EXPOは、韓国やイタリアなどの燃料電池や水素関連部品のメーカーの製品を日本の商社が輸入して販売するような状況で、とても小規模で特殊な市場となっていた。
当時ほとんどの利用は、工場内で副生水素を利用して発電などに利用している程度であったから、それも仕方ないことだったのかもしれない。
しかし「トヨタは自社製品のために開発させた部品を外部に販売しないため、閉鎖的な市場になってしまっている」と当時の商社関係者は語った。
3年ほど前のFC EXPOでも別の水素ベンチャーに同じ質問をした。
そのときには、そのベンチャーを含めていくつかの商社やメーカーが、燃料電池関連の部品を出展していたので改善されているかに思えたのだが、
「状況はそんなに変わっていない」という返答だったのを記憶している。
「それからわずか3年で、ここまで変わるか」というのが、2023年のH2&FC EXPOだったのだ。
■ホンダもFCモジュールを展示!! 一気に水素の世界が広がった?
2023年にホンダが発表したFCモジュール。乗用車用をベースに開発しているものだという
ホンダは、2023年発表したFCモジュールを展示した。これは乗用車用の燃料電池スタックを使っているため、出力が80kwとトヨタと同じく中規模なモジュール。
EVの急速充電など発電用として考えるならやや物足りないと思えるスペックだ。
これについてはホンダの説明員は「開発中の乗用車用をベースとしているため、仕様は乗用車用に合わせている」と教えてくれた。
つまり、FCスタックなどをFCVと共通とすることで開発のスピードを高めているほか、コストダウンも狙える。
もちろんFCモジュールはサイズや出力、価格だけが選ばれるための要素ではない。信頼性や耐久性も実際の稼働を考えれば大事だ。
その点、トヨタは大型2サイズのFCモジュールに関しては、トラック用を想定して高耐久仕様も用意する計画だ。
TATSUNOの水素スタンド(対象は輸出用FCトラック)。他にも2台同時に充填可能なスタンドなども出展。この会社は、水素ディスペンサーも製造している
そのほか、H2&FC EXPOでは、国内で高圧水素ボンベを生産することに挑戦するベンチャーが出展したり、トラックのディーゼルエンジンを水素エンジン化する開発を進めているベンチャーも登場した。
何だか一気に水素利用の世界が広がったような印象を受けたほど、勢いを感じたのだ。
■クラウンFCVによって水素社会実現を加速せよ
24時間耐久レースの開催場所である富士スピードウェイにて展示された新型クラウンセダン
話をクラウンFCVに戻すと、地方自治体が公用車にクラウンFCVを導入すれば、水素ステーションをその近隣に建設する計画も増えることになる(ハズ)。
だが補助金で建設しても、利用者が少なければ売り上げが上がらず、赤字でメンテナンス費用が掛かる時期が到来したら、予算が下りずにステーションが廃止されてしまう可能性がある。
EVの充電ステーションがまさに今、そんな状況だ。10年前に開設した充電スタンドが老朽化し、交換や修理の費用が捻出できずに廃止されるケースが続出している。
幸い、最近まで減少傾向にあった充電ステーションだが、ここ数カ月で盛り返し、増加に転じている。
FCVを本気で普及させようというのなら、水素ステーションも採算を度外視して建設して増やす必要があるのだ。
こういった次世代のモビリティを普及させる時の課題として、インフラが先か車両販売が先かという、いわゆる「鶏が先か卵が先か」といった論争がよく起こるが、FCVやEVを普及させるのであれば、まずインフラ整備が先だろう。
■日本企業が培った水素利用の強みを生かすチャンスが来た!
日本のベンチャー企業「i-labo」がディーゼルエンジンを水素エンジン化するプロジェクトを発表。現在、テストベンチでエンジンを回している。これから車体での実験が開始されるという
2023年1月にも水素普及における問題点を記事化したが、それからわずか2カ月後の展示会では水素関連のビジネスがここまで活発化していたことに驚かされた。であれば、次にやることは水素の生産と供給を早急に脱炭素化することだ。
再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を作り出すのは、再び水素と酸素を反応させて電気を取り出す効率を考えると、相当に再生可能エネルギーが安く豊富にならなければ実現できない。
それよりもオーストラリアの褐炭利用水素だけでなく、現在の天然ガスから水素を取り出す際に発生するCO2を、CO2分離膜やDAC(ダイレクトエアキャプチャー=大気から直接CO2を回収する技術)を使う。
それを回収し、炭酸飲料や合成燃料、野菜工場や微細藻類の培養に利用するなどの活用をすることで実質的な脱炭素社会を構築していくことだ。
水素は金属のほとんどを透過し、脆化(強度を低下させる)させてしまう特性がある。
しかし水素に対する耐性と密閉性を高めた特殊な合金もある。そうした金属やケミカルのノウハウ、水素ステーションで使われるディスペンサー(充填機のノズル部分)の構造など、日本は世界でも屈指の水素関連技術を有する。
そうした日本企業がこれまで培った水素利用の強みを活かすのは今しかない。
100年に1度の大転換期であるクルマの脱炭素、中国や欧州が仕掛けてきたEVシフトへ対抗するために本当に水素を活用しようと思うなら、これまでとは比べものにならない開発スピード、導入決定への決断スピードが求められる。
やりかた次第で、日本の水素産業は一気に発展する可能性もあるのだ。
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みんなのコメント
水素を含む全方位での方向性は認める。
ついでにレクサス店もね
地方はスズキとダイハツ任せなんだろな