■伝説を生んだ6つのエピソード
ポルシェは2021年6月18日、以降の数か月間にわたり、ポルシェブランドの歴史における重要なテーマである「ル・マンにおけるポルシェのサクセスストーリー」を掲げた、巡回展示を世界10か国、14か所でおこなうと発表した。
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ポルシェのル・マンにおける輝かしい歴史は、軽合金製クーペ「356 SL」でクラス優勝を果たした1951年から始まり、その後107回のクラス優勝と19回の総合優勝を遂げている。
そんな初めてのクラス優勝から70年後となる2021年、ポルシェはル・マンにおけるポルシェのサクセスストーリーという重要なテーマに、6つのエピソードを捧げる新シリーズ「ポルシェモーメント(Porsche Moment)」を公開した。
ポルシェヘリテージ&ミュージアムの責任者を務めるアキム・ステイスカル氏は、次のように述べている。「私たちは、新しいフォーマットであるポルシェモーメントを通じて企業、製品、またはレースの歴史を築いてきた過去の特別な瞬間に、今日の観点からハイライトを当てます。
我々は同時代の証人たちによって、これらの瞬間を可能な限り忠実に再構築し、ソーシャルメディアを介してこの特別なポルシェモーメントを再び体験することをファンに促します」
そして、ル・マンの覇者で世界耐久選手権チャンピオンのティモ・ベルンハルト氏が、ホストとしてファンをこれらのエピソードに誘うという。彼がツッフェンハウゼンとヴァイザッハで、興味深い同時代の証人たち(クルマと人物)に出会うところからエピソードはスタートする。
ポルシェモーメントの最初のエピソードでは、ティモ・ベルンハルト氏が、2年間会うことのなかったポルシェモータースポーツ副社長のフリッツ・エンツィンガー氏を招き入れる。エンツィンガー氏は、ル・マンでポルシェを3回総合優勝に導いた人物である。
会場となるWerk1の歴史的なレンガ造りの建物での再会は、ル・マンの伝説をツッフェンハウゼンまで運んできたような光景となっている。「信頼と友情はレースで成功するために重要です」と「356 SL」から降りながら、エンツィンガーは口を開いた。
SLはアルミニウム製ボディによってクーペの重量はわずか680kgで、1949年11月にシュトゥットガルトでロイター社が製造したスチールボディの「356クーペ」よりも約120kg軽量だったのだ。「当時のポルシェワークスチームのヴィルヘルム・ヒルトは、356 SLに“アルミ缶”のニックネームを付けました」とエンツィンガー氏は笑いながら話した。なお、社内では、このクルマには「Type 514 Porsche Sport for Le Mans 1951」という名前が付けられている。
その後ポルシェは、1948年からオーストリアのカリンシア地方にあるグミュントで44台の「タイプ356/2クーペ」を製造。これらとは別に11台のボディシェルがシュトゥットガルトに運ばれ、そのうちの数台に手が加えられたという。
ポルシェモーメントの最初のエピソードで紹介されるクルマは、クラス優勝を飾った歴史的な「No.46」より1年遅れの1952年に製造されたモデルである。
「50ps未満のクルマが、ル・マンの2840.65kmを、平均速度118.36km/hで走る姿を想像してみてください。それも1951年に!このクルマは道路を走ってレース場へと移動し、田舎道を走ってツッフェンハウゼンまで戻りました」とエンツィンガーは説明した。
優勝したNo.46のドライバーは、フランスのポルシェ輸入業者であったオーギュスト・ヴイエ氏とエドモン・ムーシュ氏のペアである。24時間レースにふたりのドライバーで参加することは、当時は珍しいことではなかったのだ。
Werk1前でのベルンハルト氏とエンツィンガー氏の出会いは、ツッフェンハウゼンから始まりル・マンでのクラス初優勝に続くポルシェの旅を象徴する。
当初のチームは、コーチビルダーであるロイター社のビル内で発足された。「今日では、道路を走ってル・マンまで競技用車を運転することは考えられません」と、ベルンハルト氏は、1951年6月16日のサーキットへ向けた危険な11時間の旅について話し始めた。「出発は午前7時15分で、フェリー・ポルシェがチームを送り出しました」とエンツィンガー氏は、当時のチーフデザイナーのカール・ラーベ氏の日誌に収められたこの瞬間の歴史的写真と記述を見せながら話し始めた。
レーシングドライバーのヴイエ氏とル・マン24時間レースディレクターのシャルル・ファルー氏は、フェルディナンド氏とフェリー・ポルシェに、前年のパリモーターショーでル・マンに参戦するよう説得したという。そして1951年6月24日、3台の競技用車とトレーニングカーのうちの2台がレース開始前にアクシデントに見舞われ、残った1台の軽量で排気量を増やした46PSの水平対向4気筒エンジンにすべての期待が寄せられことになったのだ。
「ポルシェでル・マン優勝を果たすと、それは会社全体に影響を与えます。当時の優勝も同じだったに違いありません。ル・マンは魔法の場所です」とエンツィンガー氏は回想する。
そんなエンツィンガー氏にとってのル・マンでの最高のポルシェモーメントは、2015年の優勝である。「最初のフリー走行から言葉ではいい表せない感情でいっぱいでした。心の高ぶりは、ゴールラインでピークに達しました」。そしてティモ・ベルンハルト氏の個人的なポルシェモーメントは、2017年の総合優勝だといい「3連覇は、最高のチームでのみ可能です。21か国から集まった私達は、全員が同じ目標を持っていました」とコメントした。
余談ながらフリッツ・エンツィンガー氏は、2014年から常に同じホテルの424号室を利用していたとの逸話があり、気持ちを落ちつかせるために習慣を大切にしているという。
■ポルシェが持つ、今日まで変わらない伝統
ポルシェのもうひとつ伝統が、モータースポーツから市販車への技術のフィードバックである。
これは今日まで変わることなく当てはまっており、「サーキットは、ポルシェのテクノロジーの開発研究所です。ポルシェでは、革新的なソリューションはもっとも厳格な条件下で実証されなければならず、その時初めて公道仕様車に移すことができます。いい伝えた逸話によると、優勝した356 SLがレースを終えてツッフェンハウゼンにたどり着いた時、そのエンジンはル・マンに向けて出発した時より、4psパワーアップされていたようです」と40歳のベルンハルトは話した。
ポルシェは、ル・マンでのポルシェのサクセスストーリーを世界中で称えるために、ポルシェモーメントに加え、2021年6月から2022年1月まで巡回展示をおこなうとしている。
計画では、フランス、オランダ、英国、米国、中国、日本、アラブ首長国連邦、ドイツを含む10か国の14か所で開催されることになる。ポルシェ愛好家たちは、歴史的なコレクションから20台以上のオリジナルの優勝車の静的および動的な外観を楽しむことができる内容だ。
世界中のポルシェエクスペリエンスセンターでは、巡回展示と並行して、ヘリテージコーナーが設置され、その歴史をより深く探求することもできる。さらに、カリフォルニアのモントレーカーウィークなど、さまざまなクラシックカーイベントが計画されているという。
また、新型コロナウイルス感染拡大の状況に応じて、ライブまたは仮想での当時のドライバーの参加も予定されており、彼らはポルシェファンとモータースポーツ愛好家にエキサイティングな経験についての見識を提供する。
ポルシェミュージアムは、2021年6月16日にティモ・ベルンハルト氏とフリッツ・エンツィンガー氏が出演する最初のポルシェモーメントを公式のインスタグラムアカウントに投稿した。
その後毎週、さらに5つのエピソードが続き、ポルシェモーメントはヴァイザッハへと移ることになる。
ティモ・ベルンハルト氏はそこで、ノルベルト・ジンガー氏、ヴァルター・ロール氏、ハンス=ヨアヒム氏、シュトリーツェル氏、シュトゥック氏などのスターや、同時代の証人たちとの出会い、そして917 KH(1971年)、936/81と924 GTP(1981年)、962(1987年)、911 GT1(1998年)、および919ハイブリッド(2017年)も登場する予定となっている。
そこには、ポルシェのル・マン伝説を明らかにし、それぞれの勝利の歴史的重要性を物語る数多くのエキサイティングな逸話が来場者を待ち受けているのだ。
さらに、特別な見識を得ることができる巡回展示は、ポルシェのソーシャルメディアでも広く紹介されている。
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