フォルクスワーゲンのTSIエンジンを搭載した現行「ポロ」に世良耕太が試乗した。小排気量エンジン+過給機の組み合わせを世に広めたTSIエンジンの最新仕様はいかに?
価値観を大きく変えたTSIエンジン
フォルクスワーゲン(VW)はガソリン過給ダウンサイジング・エンジンを送り出して排気量神話を打ち崩した。その昔は(今でも引きずっている人はいるだろうが)、排気量が大きいエンジンの方がエライとされた。1.0リッター3気筒より2.0リッター4気筒、2.0リッター4気筒より3.0リッター6気筒、3.0リッター6気筒より4.0リッター8気筒の方が胸を張れた。確かに、排気量が大きいエンジンの方が勇ましい音がしたし、馬力もあった。引き換えに燃費は悪かったが、気にする人は少なかった。
Sho TamuraVWが2005年に「TSI」と名づけた過給ダウンサイジング・エンジンをゴルフに投入したことで、価値観が大きく変わった。排気量は小さいのに走りは充分で(力強いとまではいかない)、燃費が良かったからだ。VWがTSIを投入してからというもの、排気量の大小とエンジンの価値は必ずしも結びつかなくなった。むしろ、小さな排気量のエンジンで大きなクルマを動かす方がエライという風潮も一部では生まれている(メルセデスEクラスに1.5リッター4気筒ターボエンジンの設定があるのは、その象徴)。
当時のゴルフ(いわゆるゴルフV)は2.0リッター直列4気筒自然吸気エンジンを積んでいたが、VWはこれを1.4リッター直列4気筒直噴ツインチャージャーエンジンに置き換えた。ツインチャージャーとは、過給機を2基搭載しているという意味で、スーパーチャージャー(エンジンの動力で駆動)とターボチャージャー(排気のエネルギーで駆動)を指す。ターボは応答遅れ(ターボラグ)が発生するので、応答性を高めるために反応のいいスーパーチャージャーを組み合わせた。2008年に新型に移行したゴルフ(ゴルフVI)からはターボチャージャーのみのシングルチャージャーに一本化した。スーパーチャージャーの助けを借りなくても、応答性を高めることができたからだ。
Sho TamuraSho Tamura排気量が3割も減ったエンジンを積んだゴルフはしかし、自然吸気エンジンよりも良く走って燃費が良かった。1980年代から1990年代にかけてもターボエンジンが流行ったが、あの頃のターボは高出力を狙っていた。ターボチャージャーで大量の空気をシリンダーに入れ、その大量の空気に見合った大量の燃料を噴いたので、高出力と引き換えに燃費が悪くなったのだ。
同じターボ過給エンジンでも、ダウンサイジング・ターボは高出力を狙わず、常用域のトルクアップを狙う。加速の鋭さや最高速を追いかけるのではなく、巡航スピードに達するまでの扱いやすさを重視した。ターボの使い方が控え目なのだ。だから、小さなタービン(排気側)とコンプレッサー(吸気側)で済み、エンジン回転が低い状態でも素早く過給が立ち上がる。
Sho Tamura常用域で扱いやすい
今回試乗したポロTSI R-Lineが搭載する1.4リッター直列4気筒直噴ターボエンジンは、2012年にMQBと呼ぶ新世代プラットフォームの導入に合わせて登場したユニットだ。
エンジン名称は「EA211」で、VWの過給ダウンサイジング・エンジンとしては2世代目である。ゴルフでいえばVII、ポロならVIから導入されたもので、最高出力は150ps/5000~6000rpm、最大トルクは250Nm/1500~3500rpmだ。
Sho TamuraSho TamuraSho Tamura注目すべきは最大トルクの発生回転数で、2.5リッター自然吸気エンジン相当の太いトルクを極めて低い回転数で発生させている。高出力は狙っていないが、高トルクは狙っているのだ。しかも、低い回転数で。だから、常用域で扱いやすい。高回転まで引っ張らなくても充分に力が出るので、静かで快適だ。
過給ダウンサイジング・エンジンの燃費がいい理由のひとつは、低い回転数を保ったまま走れる点だ。専門的にはこれを“ダウンスピーディング”と呼ぶ。100km/hで3000rpmなど昔はザラだったが、ポロは2000rpm+αでこなしてしまう。他メーカーには、1500rpm前後で100km/hをこなしてしまう過給ダウンサイジングエンジンもある。機械抵抗(フリクションロス)は回転数の上昇に応じて加速度的に増えていくので、エンジン回転を低く抑えて走るほど、燃費の向上に効く。
そもそも、過給ダウンサイジング・エンジンは排気量が小さいので回転運動系の部品が小さくて軽く、置き換え対象となる自然吸気エンジンより機械抵抗が少ないぶん燃費に有利に働く。過給ダウンサイジング・エンジンは、排気量のダウンサイジングとエンジン回転数のダウンスピーディングの2つの効果で、良好な燃費を実現している。
Sho TamuraSho Tamuraエンジンだけではない燃費対策
圧縮比も見逃せない。かつてのターボ・エンジンは、燃焼室の圧力と温度の上昇によって引き起こされるノッキングを防ぐために、圧縮比を高くすることができなかった。
たとえば、高性能ターボ・エンジンの代表格だったBNR32型日産スカイラインGT-R(1989年発売)が搭載する2.6リッター直列6気筒ガソリンツインターボ・エンジンの圧縮比は8.5だった。EA211の圧縮比は10.5である。ひと昔前の自然吸気エンジン並みであり、これも、燃費がいい理由のひとつだ。エンジンは原理的に圧縮比が高いほど熱効率は高くなり(すなわち、無駄が少なくなり)、燃費は向上する。
Sho TamuraSho Tamura現代の過給ダウンサイジング・エンジンで高い圧縮比を設定することが可能なのは、直噴システムを採用しているからだ。燃料噴射の方式にはポート噴射と直噴の2種類がある。ポート噴射は吸気ポートで燃料を噴射するのに対し、筒内直接噴射の略である直噴は燃焼室内で直接燃料を噴射する。
これの何がいいかというと、ガソリンを霧吹きのようにパッと噴くので、周囲の熱を奪って混合気を冷却するのがいい。新型コロナウイルス対策でアルコール消毒すると手がひんやりするのとおなじ原理だ。専門的には「気化潜熱」というが、この気化潜熱の効果で混合気が冷やされてノッキング限界が高まり、圧縮比を高くすることができるのだ。
Sho TamuraSho TamuraSho TamuraVWがTSIを出してからというもの、ヨーロッパの自動車メーカーはこぞって過給ダウンサイジング・エンジンの開発に乗りだした。どこのメーカーがどんなエンジンを載せているとはいちいち拾い上げないが、メルセデスもBMWもアウディも、プジョーもDSもフィアットも、ジャガーもランドローバーも、ボルボもルノーも、過給ダウンサイジング・エンジンをラインアップにくわえている。始まりはVWだった。
現行ポロには1.0リッター直列3気筒直噴ガソリンターボ・エンジン(95ps/175Nm)の設定もあり、どちらかというとこちらがポロにとっては標準だ。TSI R-Lineが搭載する1.4リッター直列4気筒直噴ガソリンターボ・エンジンは、大きく重たいパサートやティグアンを過不足なく動かしてしまうほどだから、小さくて軽いポロにとっては十二分で、常用域の扱いやすさはそのままに、力強さも味わえる。
Sho TamuraSho TamuraSho Tamuraそして、燃費の良さはそのままだ。同クラスの国産車より燃費がいい、と、感じられる理由のひとつは、トランスミッションに、伝達効率に優れたMTベースの自動変速機、DCT(VWの呼称ではDSG)を搭載しているからだ。くわえて車軸に、転がり抵抗の少ないハブベアリングをおごっているのが挙げられる。エンジンだけでなく、動力伝達経路にも目を向けてきちんと損失の低減を図っているため、気持ちいい走りと良好な燃費を生むのだ。
逆にエンジンだけで頑張っても、VWの過給ダウンサイジング・エンジン搭載車ほどには、走りと燃費は良くならないはず。VWは“徹底”しているのだ。
文・世良耕太 写真・田村翔
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みんなのコメント
中身が入ってこないw
まともに自動変換できないなら配信するなよ。
乗用域は使いやすく、燃費も良いです。燃費は街乗り12、高速100キロだと18くらいです。
DSGがイマイチですが、抜群の実用車だと思いますよ。