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世に衝撃を与えた初代NSX。生誕30周年を期に開発責任者・上原 繁は何を語った?

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世に衝撃を与えた初代NSX。生誕30周年を期に開発責任者・上原 繁は何を語った?

1990年9月のホンダNSX誕生から30周年を迎え、2020年11月21日に「NSX 30thアニバーサリー トークショー」がホンダウエルカムプラザ青山で開催された。

30年前の当時において、スーパースポーツの概念、価値をすべて塗り替えるほどの革新性を生み出した初代NSX。当時、開発の陣頭指揮を執った開発責任者の上原 繁氏に当時の夢への挑戦を伺った。(一部内容を要約・割愛しています)

なぜタイプRは生まれた? 上原 繁氏が明かしたNSX タイプR開発秘話

初代NSXとはどんなクルマだったのか

MC:まずは30周年おめでとうございます。
上原:ありがとうございます。
MC:どんなお気持ちですか、30周年と聞いて。
上原:30周年は長いようで短かったですね。案外ね。いろいろ苦労したこととか、工夫したこととかね、あのころのことは鮮明に覚えているんです。
MC:それでは、今日はいろいろ質問してもお答えいただける感じですね。まずは初代NSXがどんなクルマだったのか、おさらいしてみたいと思います。初代NSXは1990年に発売され、日本のみならずアメリカ、ヨーロッパでも発売。ホンダにとっては初めてのスーパースポーツでした。当時はホンダにとって、ちょうどF1第2期のチャレンジで勝ち続けていた時期。そのなかでも世界に通用するホンダの顔を持ちたいという夢を実現したクルマとしてデビューしました。どうですか、当時の思いとしては?
上原:当時の思いですね。たくさんあるんですが、一番は“ついに出したな”という感じですね。その前に、研究開発から実車開発まで6年間かかった。一般的には長いですね。当時はだいたい4年サイクルですからね。初めてのホンダがやるミッドシップのスポーツカーなので、しっかり研究しないといけないということで、その期間が長かったですね。

コンセプトは「快適F1」

MC:90年当時は、スポーツカーの黄金期。そういった意味でもいろいろ研究されたのですか?
上原:一番はね、やっぱりホンダが出すスポーツカーはどういうスポーツカーかというのを一生懸命考えて作りました。コンセプトは案外短くて1カ月足らずで出来ちゃったんですよ。要するにクルマのコンセプトはね、あんまり言っていないんですけれども、『快適F1』というコンセプトだったんですよ。F1だけど快適。当時ね、F1の活動が再開して第2期F1ですね、成績を上げてきてウィリアムズホンダが、コンストラクターズチャンピオンを獲得して、それから1990年にかけてアイルトン・セナがね、マクラーレンのF1で活躍して絶頂期のころのクルマなんですね。
MC:F1でまさに大活躍しているDNAというのを生かそうと。

上原:そうですね。そのイメージはね。ただ、ミッドシップにしたのはそれ以前の話で、4気筒のアンダーフロアのエンジンを研究していたんですね。その研究でどうやったら普通の人が乗って快適に安全に操縦できるか、というのを2~3年研究して、本格的なミッドシップのスポーツをやりはじめたんですよ。
MC:快適なスーパースポーツカーを作るということが難しかった。
上原 そうですね、それにはね、いろいろ当時やっていた技術を足していたんですよ。例えばね、エアバッグは当時レジェンドが日本で初めて付けて、その後のNSXも付けました。しかもエアバッグってこんなデカいステアリングホイールじゃないとダメだったのを、スポーツカーの小さなステアリングホイールの中に入れるとか。格納するのが難しかったですね。あと、このクルマに付けなかったんですけれども、4WSの研究もやっていたんです。今はポルシェが付けたりとかしていますけれどね、1984年か85年ごろにそれをやっていたんです。

人間中心で開発された初のスーパースポーツ

MC:なぜ快適というキーワードが大事だったんですか?
上原:当時のクルマに乗ってみるとね、一部の人しか乗れないクルマだった。運転が難しいというのはそうですし、ギヤチェンジも難しくてね、ハンドルもハンドル切ったら重くて、曲がるのも苦労したりとかね。それからエンジンの音がうるさいとか、エアコンがしっかり効かないとか。ヨーロッパ車に多いですけれどもね、そういうのでとても快適とは言えなかったんですよね。それで、快適なクルマにするにはどうしたらいいかというのを、ずいぶん入れ込んで研究しました。
MC:快適になりすぎちゃうと今度スポーツカー的ではなくなってしまう。
上原:その辺のバランスがけっこう難しかったですね。

MC:人間中心というコンセプトがあったと伺いましたが。
上原:当時のクルマはマシン・オリエンテッド。マシンが中心になってクルマが出来ていた。だから、人間なんかちょっとうるさくて熱くて、窮屈だけどガマンしてよという感じのクルマが多かったですよね。ところがホンダが作るスポーツカーなので、そういうのは一切ガマンしない、それでいて性能は第一級。F1並み。F1並みにはいかないけれどね、F1のように素晴らしい「走る・曲がる・止まる」という性能を、究極の次元までもっていこうと。だから、一般の人が乗れて性能が究極なものを目指したクルマ、というのはたぶん初めてだと思います。

反対意見を押しのけて

MC:そういったクルマはこれまでの概念を変えるということですから、社内でもいろいろな意見があったのでは?
上原:いろいろな意見がありましたけれども、ホンダは基本の人間中心というフィロソフィがあって、そこからクルマをまとめるという話にもっていくと、きちんとまとまるんですよ。先ほど1週間ぐらいでコンセプトをまとめたという話をしましたけれども、みんなそういう方向にもっていくと、「おおやろう、やろう」ということになって、反対する人がいなくなりましたね。むしろトップの人とか、社長を含めて、それでいこうということになっちゃうんですよ。
よくホンダの開発で“2階に上げてハシゴを外す”と言いますけれど、あれなんですよね。非常に高いところを目指してやるんですが、それを普通のレベルで高いところじゃなくて、それを超えたところを実現して、すごいレベルのクルマになるんです。よくあのころは世界一って言っていましたよね。世界一のものを目指さないと、やれって言ってくれないんですよ。2階に上げてハシゴを外す。もっと悪い人がいて、“火を付けて下から燃やす”という(笑)。最高のものを作るというので、ある程度あきらめるというのかな、まあ覚悟を決めてやるということがホンダのやり方で。その結果、こういうふうな普通の常識では考えられないようなものができる、と思っていますけれども。

軽さを求めたオールアルミボディ

MC:一番苦労した点はどんなところですか?
上原:できるまでは苦労は沢山したんですが、あまり(覚えてい)ないんですよね(笑)。まず、基本をきちっとすることね。それには「走る・曲がる・止まる」という性能をきちっとやって。それから高性能なクルマを造るために軽いボディが必要だということでアルミボディを使い始めた。そして快適なクルマにするということでエアバッグをはじめ、エアコンから、4WALBから、みんな重量のかかるものをドンと載せてクルマを造るわけですけれども、当然、競合他車に対して重くなる。だからアルミを使わざるをえない。このクルマのコンセプトを成り立たせるためには、軽量化だと。だから、アルミがNSXの基本を成り立たせているんですよ。

MC:量産車では初めてのオールアルミボディ。アルミにしてもそれ以上の軽量化のためにボディにも秘密があったんですか?
上原:ありますね。ただね、一番最初のオールアルミボディの量産車なので、短い時間で完成させないといけないということで、昔社長だった伊東(孝紳)さんがやったんですけれども、目新しい飛び道具は使わなかった。あまり飛び抜けた冒険はしていないと思います。というと怒られるかもしれないけれど。アルミでやること自体、冒険なんですけれどね。アルミというのは鉄と変わりがないんですよ。じつは普通に設計して、溶接して車体を構成すればアルミはできちゃうんですよね。だけどアルミボディは1つだけすごいことがあって、まあ軽いことはもちろんだけど、もう1つはね、軽くて丈夫なんです。鉄と同じ性格を持っていて、鉄より何割増しという強度を持っています。だからNSXは長く走ってもやれない。劣化しないというよさをもったボディだと思います。

●量産車世界初オールアルミボディ

世界のスーパースポーツに衝撃を与えた!

MC:そして世に出ました。当時のスーパースポーツカーの概念を変えた車ですから、出てからいろいろご意見もあったのではないかと思います。
上原:昔のポルシェ、フェラーリの世代でこういうスーパースポーツを見ている人にとっては、それらがつくった世界に対して違うモノは悪いモノだと。そんなご意見は多かったですね。音なんかうるさくていいと。狭くてもいいとかね、トランクルームは不要だとか。そういう意見が多かったですね。
MC:いかがですか、それを聞いて。
上原 それはそれでその通りなんでね。「まあそんなもんですよ」なんて言ったんですよ。「そのうちにわかります」という返事で。あまりそのことに対して深い議論はしなかったですね、その方たちとは。
MC:でも結果的には他のスーパースポーツカーたちもNSXの影響を受けることになるわけですよね。
上原:そうですね、こういうスーパースポーツの評価基準と、車両の設計基準に影響を与えたというのはどうも確からしいですね。
MC:それはやっぱり誇らしく思いますか?
上原:そうですね。新しいモノ、新しいところを開拓して1つの答えを出したという者にとってはね。私だけじゃなくて、ホンダ全体として誇りに思えるところだと思います。

アイルトン・セナにも意見を求めた

MC:一般のファンの方もそうなんですが、初代NSXはクルマをよく知っている著名人などにもファンがいたというところも素晴らしいことですが、そういう点も自信の後押しになりましたか?
上原:そうですね。最初にじつはアイルトン・セナなんかに乗ってもらっているんですよ。マクラーレンF1のテストで鈴鹿に来たときに、ついでだから乗ってもらおうということで乗ってもらったんですよ。とてもいいコメントをもらいましたね。“剛性がない”というので。それを鍛え上げるために、ニュルブルクリンクというね、すごいハイスピードなレースコースに行くんですけれども。
まあそういうようなところとか、彼は初代タイプRを出したときに、ちょうど鈴鹿に行って、F1グランプリが終わった後ですけれども、鈴鹿の西コースで乗ってもらってね。「タイプRだけれどもセーフティ&コンフォート」と言っていた。コンフォートというのは、要するにNSXって使われる場所でコンフォートを考えていたんですよ。サーキットを走って一番コンフォートな形というのはタイプRの形なんですよ。それがたぶんいろいろな今までのタイプRに受け継がれていると思うんですけれどもね。
そういう話とかね、誇りに思っているのは、発売前にクルマが完成してから、ポール・フレールさんにニュルのオールドコースで乗ってもらったんですよ。その時は「ベストハンドリングカー・イン・マイ・ライフ」と言っていた。F1も乗っていてル・マンの覇者ですしね、1988年でしたね。
MC:ポール・フレールさんはジャーナリストとしても活躍されましたけれども、その方が一番、ハンドリングのいいクルマだと。発売の2年前にはすでに高い評価を得ていたんですね。

●NSX GT2(1995年ル・マン24時間耐久レースクラス優勝車:手前)とNSX GT3 EVO(2019年:奥)

〈文と写真=ドライバーWeb編集部〉

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みんなのコメント

5件
  • 本当に上質、上品という言葉がぴったりの車だったな。
    シフトを入れてアクセルを踏んでふけ上がる過程が限りなく繊細というか。
    かっちりしていて思いのままに動くみたいな。
    軽量だし、この前久々公道で見たらコンパクトだった。
    タイプR運転したことないけどサーキットで乗ったら今でも最高に気持ちいんだろうな。
  • 開発者の狙い通りに仕上がり、世界のスーパースポーツがこれまた狙い通りの快適路線となった。
    イージースポーツはありがたいが、一方で男臭いクルマを消すことにもなった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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