ジェイ・ケイも愛用したP400SVが、ミウラ最高値記録を更新
世界の自動車界に「スーパーカー」という分野を規定したパイオニア、ランボルギーニ「ミウラ」。ことに最終進化形の「P400SV」は、2010年代以降のクラシックカー市場をけん引してきた超人気モデルで、その市場動静は、業界ではつねに注目の的となります。今回は、2024年5月31日~6月1日にRMサザビーズ北米本社が開催した「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたミウラP400SVの車両解説と、世界が注目したオークション結果についてお伝えします。
レストア済みの「ミウラP400S」が1億5000万円! エンジニアたちの業務時間外の活動はレース活動を夢見ていたからでした
ミウラの最終進化形は、もっとも魅力的な量産型ミウラ?
「スーパーカー」とは、今日における最高性能の自動車に与えられる称号であるが、ランボルギーニ「ミウラ」に初めてこの単語が適用されたのは、英国の著名なモータージャーナリスト、L.J.K.セットライトが1967年に寄稿した『Car』誌の記事で、新型ミウラをモデナからロンドンまで約1000マイル(約1600km)走らせるという伝説を記した時とされている
彼はスーパーカーという言葉を直接的には使わなかったが、よりエレガントな文章でこう語っている。
「サラブレッドのV12が放つ歓喜の咆哮は、モータースポーツにおいて他に類を見ない。それは即効性があり、切迫感があり、強烈だ。リッターあたり約87.5bhpのパワーを発生するかたわらで、800rpmでスムーズにアイドリングし、2000rpmあたりまでR-Rシルヴァーゴーストのようになめらかに引っ張ることができる。これは明らかに“驚異的なモーターカー”になるだろう」
それは、彼のいうとおりだった。
「自由落下のパラシュートも、おそらく同じ感覚を何分の1かの費用で得られるだろうが、ミウラの運転はより快適で、終端速度もかなり高い」
リアミッドシップにエンジンを搭載し、ベルトーネとマルチェロ・ガンディーニの彫刻が施されたオリジナルのミウラを愛していたセットライトは、1971年のジュネーヴ・ショーで発表された究極の市販モデル「SV」も、きっとお気に召したに違いあるまい。
特別注文でのみ入手可能とされていたこのモデルは、シャシーの強化やワイドなウィッシュボーンで改良されたリアサスペンション、たくましく膨らんだリアフェンダーに収まる大径ホイール、独自のエアインテーク、大径キャブレター、異なるカムタイミングを備えた385psのチューニングエンジンなど、大幅なリエンジニアリングが施されていた。
総計で約750台が生産されたといわれる(756台説や765台説など諸説あり)ミウラのうち、P400SVはわずか150台。すべてのミウラが偉大な存在である中でも、とくにこのモデルは最も希少なスタンダード・ミウラであり、洗練されたコスメティックスと最高時速180マイル(約288km/h)という究極のパフォーマンスを併せ持つこのモデルは、すべての市販型ミウラの中でももっとも魅力的なモデルとみなされているのだ。
超高値安定のミウラSVの市場を塗り替えるハンマープライスとは?
フェラーリとランボルギーニのスペシャルショップを主宰するジョー・サッキー氏が著した『ランボルギーニ・ミウラ・バイブル』にも記載されている、サンタアガタ・ボロネーゼ工場での生産記録によると、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたシャシーナンバー4972は1971年12月13日に完成。「ロッソコルサ」のボディカラーにゴールドのロッカーパネルとアロイホイール、「タン・ナトゥラーレ(ナチュラルタン)」レザーのインテリアで仕上げられた。当初はランボルギーニの正規ディーラー「ペレッタ・ミラノ・ペッリ」社を通じて、旧西ドイツ在住のイタリア人オーナーに販売されていた。
そののち、1974年にイギリスの愛好家ピーター・オーツが入手し、1980年代初頭にノッティンガムの「グレイポール・モーターズ」社によって右ハンドルに改造された。オーツ氏からの数多くの手紙や請求書が、現在もファイルに残っている。
この個体が右ハンドル化された直後、モータースポーツ・コンサルタントとして知られるヒュー・R・ダンダスに売却され、彼の所有となったこのP400SVは「HRD 41」として登録され、数々の英国イベントで活躍した。
1990年代初頭、このシャシーナンバー4972は香港在住のコレクターによって入手され、「モデナ・グループ」にフルレストアを依頼した。その後、このクルマは著名なミュージシャンにしてヴィンテージ・スーパーカーの世界的コレクターである「ジャミロクワイ」のジェイ・ケイの手に渡り、彼の愛車として2004年のBBC『Top Gear』のエピソードに登場している。
ジェイ・ケイはカメラの前でこのミウラをドライブ。「素晴らしい、素晴らしいものだ……!」とコメントした。そののち間もなく、この個体はジェイ・ケイから同じく有名なイギリスのコレクター、マイケル・コッターに譲渡される。
さらに2015年、シャシーナンバー4972は別の英国人オーナーが手に入れ、伝説的なランボルギーニの元ファクトリー・テストドライバー、ヴァレンティーノ・バルボーニ氏に評価を受けている。その後、このクルマは母国に輸送され、著名な「カロッツェリア・クレモニーニ」社によって、オリジナルの左ハンドル構成に戻すなど新たにレストアされた。
この作業のかたわら、ミウラは「ランボルギーニ・ポロストリコ」による審査も受け、エクステリアの色とコンポーネントがオリジナルのデリバリーに適合していることを確認する鑑定書が発行された。ただし、インテリアはオリジナルのナチュラルタンとは異なる、ブルーのレザーで仕上げられてはいるものの、ロッソのボディワークとのコントラストは、とくに魅力的で効果的ともいえよう。
それよりも重要なのはナンバー「4972」のシャシーとエンジン、そしてオリジナルの「771」と刻印されたボディパネルがナンバーズマッチングを保っていることだろう。
これまでのヒストリーファイル付き
さらにその次のオーナーが2016年にこのクルマを入手し、レストアの完了を監督したのち、このミウラSVは「The Dare to Dream Collection」の一角に加わり、もっとも貴重な目玉の1台として現在に至っている。
レストア完了後、ほとんど使用されることなくコレクションに保管されていたため、全体を通してコンクール級の素晴らしいコンディションが保たれている。また、1980年代までさかのぼるレストアの請求書や、前オーナーやそのサービス施設との詳細なやり取りなど、とくに印象的なヒストリーファイルとともに提供される。
このミウラSVの典型例のような個体に、RMサザビーズ北米本社は275万ドル~350万ドル(約4億2540万円~5億4170万円)という、今なお継続しているミウラ人気を裏打ちするようなエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところで、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件。したがって、たとえ入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう可能性もある。
しかも、エスティメートの段階からけっこう高価だったこともあって、「リザーヴなし」ではしばしば起こりうる安価な落札も出品者サイドでは危惧しただろうが、極上のミウラSVが叩き売りされるなんて虫の良い話はあり得なかったようで、競売が終わってみればエスティメート上限を大幅に上回る490万ドルで落札されるに至った。
このハンマープライスを現在のレートで日本円に換算すれば、約7億7200万円という恐るべきもの。そして公の場で販売されたミウラP400SVの価格としては、史上最高値を更新したのである。
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