■ブガッティのオートクチュールの世界へようこそ
ブガッティのエンスージアストにとって、その歴史のなかでもっとも崇拝すべき1台ともいえるのは、1934年から1940年までの間に、710台も生産されたT57(タイプ57)ではないだろうか。
【画像】エルメスが仕立てた上品で美しいブガッティ「シロン」をチェック!(22枚)
エットーレ・ブガッティの長男であるジャン・ブガッティによってデザインされたタイプ57には、美しいボディが4タイプあった。2ドア4シーターの「ヴァントー」、カブリオレの「ステルヴィオ」、クーペの「アトランテ」、そして4ドア4シーターの「ギャビリエーレ」である。エンジンはいずれも3.2リッター直列8気筒DOHC。最高速は当時すでに153km/hに達していた。
だがこのタイプ57がさらに大きな魅力としていたのは、スタンダードモデルをベースに、さらにカスタマーのリクエストによる強化型のエンジンや独自のボディを組み合わせる、いわゆるオートクチュールの世界がその先に用意されていたことだった。
カスタマーのリクエストに応えたタイプ57の魅力的なスペシャルモデルが、次々と生み出されることとなった。もっとも有名なところでは、3台のみが製作された「クーペ・アトランティーク」であろう。
このクーペ・アトランティークのような特別なブガッティを追い求め、現代のエンスージアスト──しかもその頂点に位置する人物たちは、ブガッティの本社があるモルスハイムのアトリエを訪れるのだ。
「私は真のブガッティのエンスージアストです。息子が生まれた時には、エットーレという名前を与えたかったのですが、それには妻は同意してくれませんでした」
そう語るのは、ここで紹介する特別なブガッティ・シロンである「Chiron habille par Hermes(シロン・アビール・ペル・エルメス)」をオーダーしたアメリカ在住の事業家であり、また不動産投資家のマニー・コシュビン氏である。
ブガッティとエルメスとによるコラボレーションいえば、2008年にも「fbg par Hermes」などが、当時のヴェイロンをベースに製作されているが、コシュビン氏もまた、このふたつのフランスを代表する高級ブランドの関係を復活させることに大きな興味を抱いたのだ。
ちなみに、「fbg」はフォーブル・サン・トノレ通りの略。1879年にエモール・モーリス・エルメスが、その通りの24番地に工房を移転し、現在もエルメス本社が置かれている。
話をコシュビン氏に戻そう。2015年にシロンが発表されると、氏はビルドスロットを予約した世界で最初のカスタマーのひとりとなり、おそらくはもっとも早くシロンのデリバリーを受けた人物となったが、ここから彼の夢は始まることになる。
それは、かつてのT57のように、ブガッティがもっとも強みとするところであるひとりのオーナーだけの特別なカスタマイズやサービスの限界に挑戦することにほかならなかった。この挑戦は、ほかのブガッティオーナーや、あるいはほかのブランドをどれだけ刺激することができるのかということでもあった。
コシュビン氏は、そのクリエイティブプロセスを通じて、何年間にもわたって積極的に協力したあと、自分のアイデアによるシロン・アビール・ペル・エルメス案を提供することになった。
その複雑で特別な配色や生地などは、そもそも際立った存在であるシロンをさらに特別なものにし、同時にブガッティに不可能なことはないことを示す典型的な例でもあった。
■ブガッティとエルメスのコラボによる至高の1台
シロン・アビール・ペル・エルメスのディテールを見ていこう。エクステリア、インテリア、ユニークなディテール等々を見れば、モルスハイムとパリのチームが、カスタムカラーやファブリック素材の使用を可能とするために多大な情熱を持ってその開発に取り組んできたことすぐさま理解できる。
基調色は、エルメスの伝統的なバッグや、ほかの高級アイテムで有名になった「クレイエ」である。オフホワイトのチョーク由来のこのカラーは、シロンのエクステリアを完全に包み込み、きわめて上品なフィニッシュを見せている。
このメインのエクステリアカラーに加えて、リアバンパーやすべてのメッシュカバー、トリムパーツ、ブガッティの「クラッシック」ホイールといったアイテムも、すべてクレイエ・カラーで仕上げられている。
フロントの馬蹄型グリルは、エルメスの「H」モノグラムでカスタマイズされたものだ。ほかのグリル類もオリジナルのシロンのそれとは異なり、エルメス流の美しい造形でまとめられている。
リアウイングの下面には、これもエルメスの伝統的なモチーフである上品な曲線と馬が描かれており、リアミッドに搭載される1500ps仕様のW型16気筒+4ターボエンジンの比類なき性能を象徴するために、コシュビン氏自身が馬とともにエルメスの製品でよくモチーフとされる「Courbette(曲線)」の文字を選択。ここにエルメスのひとつの偉大な作が完成した。
インテリアに使用されているパーツのほとんどすべては、エルメスによって個性にさらに磨きがかけられた。
ボディカラーのクレイエが使用されるのは、シート、ミドルコンソール、インナーシグネチャーライン、ルーフ、リアパネルなど。コシュビン氏はオプションの「スカイビュー」ガラスウインドウを選択しているので、車内は常に明るく開放的な雰囲気に満たされる。
そのほかのインテリアまわりの「エクリュ」(ベージュ)色のレザーも、もちろん世界最高品質のものである。カーペットもベージュ系の色で仕上げられ、広範囲に及ぶテストが製造過程では繰り返され、最高品質の基準を満たしていることが確認されている。
コシュビン氏は、この特別なシロンの製作過程を振り返り、こうコメントした。
「このシロンのオーダーには、パリのエルメスに2回足を運ぶことになりました。自分が理想とするデザインとインテリアの実現、そして進歩を確認することが、その目的には含まれていました。
私自身、エルメスのチームとブガッティのデザイナーの間で、何百ものメールを交換しました。結果的に時間をかけてクルマを手に入れることになりましたが、それは英断でありました。
このクルマはいつか息子に引き継ぐことになり、また何世代にもわたって引き継がれることになるでしょう。これを実現してくれたブガッティとエルメスのチームには心から感謝しています」
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