2025年をメドに自動運転レベル5を目指しているスタートアップのTURINGを率いる山本一成CEO。まだ、昨年12月に立ち上がったばかりの同社がターゲットとしているのは、イーロン・マスク率いるテスラなのだが、リアルワールドにおいてカメラが動作しなくなった場合はどうするのか? 果たしてソフトウェアだけで対処できるのかどうか、本音を聞いてみた。
インタビュアー/国沢光宏、写真/平野 学、中島仁菜、日産
「テスラに追いつき、追い越します!」 AIで将棋の名人を破った天才がクルマの自動運転に挑む!!(後編)TURING代表、山本一成CEOインタビュー
■大前提として自動運転が信頼性を高めていく必要がある
日産はタイヤが急に飛んできても避けられる技術を開発している。今年4月にメディアにも公開していた
国沢光宏(以下、国沢)/先日取材した自動車メーカーでは、対向車線からタイヤが飛んできても避けられる技術を見せてもらいました。やはり事故ゼロを目指すことを真剣に考えています。
山本一成(以下、山本)/事故ゼロを目指す話と、原理上ゼロにできないって話は共存できることだと思います。
国沢/私もそう思っています。最終的にはそこをどうするかですね。起きちゃった時に免責をどうするとか、そういうことを自動車メーカーは考えて、誰が悪いのかって話をするワケだけど、山本さん的には諦めるしかないと?
山本/実際には事故率をすごく下げて自分たちで受け止められるくらいにはなる必要があるんじゃないかと思います。人間だって突然心臓発作で死んじゃって、隣のクルマが突っ込んできたらもう避けられないじゃないですか。
国沢/わかります。それをよくメーカーとも話してるんですよ。「人間が心臓発作で死ぬ可能性は例えば3%あるけど、この薬を飲めば2%に下がります。でも2%は必ず死にます」となった場合、その薬を飲むのか、飲まないのかという話になるんですよ。それを飲むっていう人が多ければ社会には認知されるだろうけど、「俺はいやだ」っていう人がいたら成立しない。自動運転ってそういうことだと思うんですけど、そういう点についてはどうでしょうか?
山本/全部が自動運転になるってことはないんじゃないかと思っています。まず、自動運転が信頼を高めていく必要があるワケです。それはもう絶対そのままプロセスを避けては通れません。ちゃんとみんなから「例えば人間より10分の1の事故率だね」みたいな感じにならいいと。
国沢/全部が自動運転になるという以前にクルマは加害性も考えないとなりません。事故現場の最後尾にバイクが停まっていて、そこをドライバーが居眠りしたまま自動運転中のテスラが突っ込んで轢いた悲惨な事故は私も自動車メーカーもあり得ないと考えています。AI業界の人はどのように認識しているのか興味深いです。
■AI業界がついにミッションクリティカルな分野に到達したのはいいが……
テスト中のTURING開発車両、エスティマをチェックする国沢氏。辛口で鳴らす国沢氏は「このくらいのテストは自働車メーカーでは20年以上前にやっていたレベル」と一刀両断
山本/今のAI業界ってそこが悪いところかもしれません。今までいわゆる人命に関わる世界に出たことがなかったんです。将棋のAIを私は一生懸命プログラムしましたが、いわばゲームなワケです。人の生き死にに関わる話じゃなかった。それがついに人の生き死にに関わるような、そういったミッションクリティカルなところにもついに到達できるようになったっていうのが誇るべきところですが、「次にそこでどうするか」って話については議論としてはまとまっていないです。
国沢/そこも興味深いです。
山本/私としては人よりもはるかに安全っていうものを作るしか社会に受け入れられないって思っています。例えば「事故率が3%から2%になりました」くらいだと社会に受け入れられない。
国沢/今の話を聞くと、例えばワクチンなんかも、副作用がありますし、もしかしたらそれで死ぬかもしれない。だけど、それが200万人にひとりだったら、まあしょうがないねというところまでやっていけば、それは認知されるという判断ですね。圧倒的に安全が担保できればいいと?
山本/そうですね。その安心に対する安全だけじゃなくて、それをこの先コモンセンスにしていく、常識にしていくっていうプロセスについてもすごく興味があります。
国沢/そういう意味ではやっぱりハードウェアが大事になってくる気がします。
山本/いえ、私はソフトウェアだと思っています。Liderですとcm級の誤差もわかりますが、それが安全な自動運転につながるワケでもないんです。
国沢/確かにつながらないんですよね。それも自動車業界みんな思ってます。人間もそうだけど、能力のない人にいろんな情報を渡しても何の判断もできないから、それはもう総合的に見なきゃいけないし。
山本/そうですね。
■リアルワールドで想定できないパターンへの対処は?
昨年デビューした現行型WRX S4に採用されているフロントのステレオカメラ
国沢/例えば、スバルはカメラをADASに使ってるんですけど、そんなにカメラ性能がいいわけじゃないんです。それでも情報としては充分だっていいます。カメラがうんと高性能になったってコンピュータがもう処理できない。何が言いたいかと言いうと、やっぱりイレギュラーケースみたいなのが出てくるわけです。そうすると、カメラで見えていても、AIがそれに対してどうしたらいいかわからない。今まで何度か起きてることがあればAIは処理できるんだけど、まったく新しいものに対してはたぶん処理はできないし、悪意のあるものに対してはなかなか対処が難しいと思います。すでに一般的な事故を見てると、どの自動車メーカーはもう90%以上防げると言います。AIじゃなくディープラーニングですよね。想定外のパターンは無理だと言います。そういった面に関してはどうですか?
山本/それはもう諦めるしかないです。例えば、最近出た論文で、信号をごまかすみたいな悪意ある攻撃をされるってのがあって、それに対して何か騙されてるみたいな話があったんですけど、具体的な攻撃に対しては人間も別に強いわけじゃないので諦めるしかないかと。
国沢/自動運転ってことはドライバーが周囲に注意を払っていません。自分の方向の信号が青で、向こうから直進したまま止まらない認知症のおじいさんが運転するクルマが来たようなケース。なかなかセンサーとしては判断が難しいものがあります。センサーの精度も必要だし。人間だったらとりあえず運転してれば、交差点まで行って「おかしいな」と思ってブレーキをかけられるワケです。そういうぶつかった時に自動運転でどうするかということになると思います。
山本/現状の話でですか?
国沢/いえ、山本さんが考える自動運転での話です。AIの精度を上げようとすると、やっぱりカメラだっていっぱい必要になってきますよね。そのカメラだって、ロバスト(頑健性)のために2個とか3個とか数が増えるわけじゃないですか。そのあたりを自動車メーカーはやっていますが、そこも同じように考えていますか?山本/ああ、なるほど。私自身はロバストのために冗長系を二重にするっていうのは、あまりいいところがないんじゃないかと思っています。どういうふうに壊れるかって話があるんですけど、内部でやっぱりチェックし続ける機構が必要だと思っていて、そのカメラも要は「壊れた」「壊れてなくて中途半端に壊れた」「壊れそう」とかいろいろあると思うんですけど、そういうのを検知できるような何か機械学習システムを作りたいなと思っています。けど、いきなり急に壊れちゃうかもしれないから、それはわからないです。だから人間の心臓麻痺が起きる確率よりは下げたいと思っています(笑)。
■10年後には自動運転が実現できる!?
自動運転レベル3を世界初で達成したホンダのレジェンド。Honda SENSING Eliteを搭載している
国沢/飛行機でいうと今、旅客機だと車輪が出なくなった時、出す方法が4系統くらいあります。それもまったく違うロジックで。クルマはそこまでいらないんだけど、とりあえず最低でも壊れた時に安全の確保しながら止まれるくらいのものは必要だと思います。山本さんは自動運転が何年後くらいに実現できると考えていますか?
山本/TURINGができるかどうかは置いておきまして、どこかの会社は10年以内に必ず達成すると思います。
国沢/私は日本と米国、欧州の自動車メーカーには無理だと思います。中国だったらできるでしょうが、たぶん日本、米国、欧州、交通状況がカオスな東南アジアでは難しいですね。
山本/それでも私はいけると思っています。先ほどお見せしたデモンストレーションはカメラ1個の情報でAIが走らせているんです。
国沢/運転で最も大切なのは命を預けている点だと思っています。そこがAI業界と最も違うところです。運転の場合は、危害を加えてくる相手もいます。それに対する回答を皆が求めている。
山本/私たちも楽観的にできるんじゃないという認識は持っています。ただ、チャレンジも大事なことだと思っています。誰かがやらないといけない。本当にそう思っています。そこをAIの未来にベットするということです。
国沢/その考え方や姿勢は大事だと思います。とりあえず、この業界にいるメディアの爺さんとしてボクは山本さんを自動車メーカーとつなぎたいと思っています。自動車メーカーで実現できているところからスタートしたほうが技術の進化も早い。
山本/よくわかりました。ぜひよろしくお願いいたします。2年後には我々がすごくなった姿を国沢さんにお見せしたいと思います。
国沢/期待しています。頑張ってください。
※インタビュー前編はこちら(https://bestcarweb.jp/feature/column/439855)
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元気そうだな