現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > トヨタ「中国資源大手」と協業発表 決断は賢明か愚昧か? 地政学的リスクと経済合理性のバランスを考える

ここから本文です

トヨタ「中国資源大手」と協業発表 決断は賢明か愚昧か? 地政学的リスクと経済合理性のバランスを考える

掲載 14
トヨタ「中国資源大手」と協業発表 決断は賢明か愚昧か? 地政学的リスクと経済合理性のバランスを考える

トヨタが中国ビジネスを強化

 米中の間では半導体を巡る覇権競争が激化している。

【画像】えっ…! これが自衛官の「年収」です(計10枚)

 バイデン政権は2022年夏、中国が先端半導体を軍事転用する恐れから、同分野での対中輸出規制を強化し、2023年からは先端半導体の製造装置で高い世界シェアを持つ日本とオランダも米国の要請に応じる形で同様の輸出規制を開始した。

 しかし、依然として対中規制が十分に効いていないと不満を強めるバイデン政権は最近、両国に対して

「さらに踏み込んだ規制」

を要請し、同盟国の韓国やドイツにも中国への輸出規制を実施するよう促している。中国に進出する日本の製造業にとって、この問題は大きな懸念事項だ。

 そのようななか、日本の大手自動車メーカーは中国ビジネスを強化している。トヨタ自動車は4月8日、中国国有資源大手の中国五鉱集団と電気自動車(EV)など電動車の使用済みの車載電池の再利用で協業することを発表した。今後、明和産業とも協力し、現地に合弁会社を設立するという。

 また、トヨタ自動車は2023年、中国の自動車メーカー小馬智行(ポニー・エーアイ)と自動運転タクシーを手がける合弁会社を設立すると明らかにし、現地法人のトヨタ中国、広州汽車集団との合弁である広汽トヨタ、小馬智行が日本円で198億円以上を出資し、自動運転車両の導入や運行管理などの事業を2024年以降に開始することを目指すという。

中国を巡る地政学リスクへの警戒感

 中国を巡る地政学リスクへの懸念が広がるなか、トヨタ自動車のこういった動きに懐疑的な意見も上がるかもしれない。

 キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長は以前から、外国における生産拠点では地政学的リスクが高まっており、時代のニーズに合わせて工場配置などの体制を見直すべきだと発言している。

 また、中国や台湾についても言及し、企業の経済活動が影響を受ける国の生産拠点を放置することはできず、安全な第三国への移転か日本に戻すかのふたつの道しかないとの認識を示した。

 日立製作所の河村芳彦副社長も以前、中国や台湾などを巡る地政学リスクについて懸念を示し、サプライチェーンの拠点を国内や同盟国へ移すことを検討しているとした。

 河村氏は価格重視のサプライチェーンは潮目が変わり、今後は安定性や継続性を重視し、中国との経済関係が深まる東南アジア諸国連合(ASEAN)だけでなく、中国との関係が薄い国々を含め計画を作っていると明らかにした。

 このような経営者たちの懸念は、大手自動車メーカーでも見られる。ホンダは2022年8月、国際的な部品のサプライチェーンを再編し、中国とその他地域のデカップリングを進める方針を打ち出した。マツダも同月、中国経由などで調達する部品への依存度を引き下げるための検討をはじめたことを明らかにした。

 2社の動きは新型コロナなどの要因も影響しているため、地政学リスクにどこまでウエートが置かれていたかはわからない。しかし、冒頭で挙げた半導体覇権競争や経済的威圧など、中国に進出する日本企業の間で地政学リスクへの懸念が広がっていることは間違いない。

安全保障と経済のバランス

 政治や安全保障の分野に携わる人々の間では、依然として「企業はどのように地政学リスクに対処するか」といった視点で問題を捉える風潮が少なくない。要は、安全保障に関わる問題であるから企業はそれに対して自制をするべき、行動を変えるべきといった固定観念みたいなものがあり、

「安全保障は経済に勝る」

といった風潮がある。

 しかし、安全保障分野の研究者として企業向けのセキュリティーコンサルティングに従事する筆者(和田大樹)は、地政学リスクは海外進出する企業にとって考慮するべきひとつのリスク以上のものではないと考える。

 無論、地政学リスクが重大なものであれば、それによって企業は経営方針や戦略を変更せざるを得ない状況もあろうが、

「潜在的な地政学リスク」

があるというだけで経営戦略を大幅に変えることは難しいのが企業の実情だ。

経済合理性と対中規制

 近年、中国依存からの脱却がさまざまな場所で議論され、インドやASEANなどグローバルサウスへのシフトにかじを切る企業の動きが以前より増えているが、

「中国にはない特有のリスクがある」
「テロや暴動、犯罪などが心配だ」
「そもそも代替先が確保できない、見つからない」

などといった企業の声を筆者は聞く。そういった企業にとっては、いかにリスクを回避する形で中国でのビジネスを継続するかが重要な課題になっている。

 トヨタ自動車の協業の決断の背景はわからない。しかし、トヨタ自動車のケースのように、潜在的な地政学リスクがあるなかでも中国へのビジネス強化を目指す企業の動きは今後も続くことだろう。

 日本は米国からの要請に応える形で、2023年7月から半導体製造装置など23品目で中国への輸出規制を開始したが、これは米国が求めるほど強い規制ではなく、日本の経済合理性とのバランスを取ったレベルの規制である。

 これと同じように、多くの対中懸念事項が叫ばれるなかでも経済合理性を意識した日本企業の中国ビジネスは続く。

こんな記事も読まれています

さすがにやりすぎ? バイデン政権が「中国製EV」に100%関税を課す理由
さすがにやりすぎ? バイデン政権が「中国製EV」に100%関税を課す理由
Merkmal
クルマを巡り米中の殴り合い勃発! 中国[EV]に関税100%アップ表明で始まった[米中自動車戦争]の行く末は!?
クルマを巡り米中の殴り合い勃発! 中国[EV]に関税100%アップ表明で始まった[米中自動車戦争]の行く末は!?
ベストカーWeb
BEVが急速に普及したタイで成長鈍化の予想! それでも中国メーカーが押し寄せるのは日本進出への布石か
BEVが急速に普及したタイで成長鈍化の予想! それでも中国メーカーが押し寄せるのは日本進出への布石か
WEB CARTOP
米バイデン政権が中国製EVに現行4倍の関税100%、過剰生産に対抗措置[新聞ウォッチ]
米バイデン政権が中国製EVに現行4倍の関税100%、過剰生産に対抗措置[新聞ウォッチ]
レスポンス
「ハイブリッド車」アフリカでも大人気! 日産はエジプト市場20%席巻、ファラオも驚く“無双ぶり”か
「ハイブリッド車」アフリカでも大人気! 日産はエジプト市場20%席巻、ファラオも驚く“無双ぶり”か
Merkmal
BYDはなぜ、新エネルギー車を「ガソリン車並み」の価格にできるのか?
BYDはなぜ、新エネルギー車を「ガソリン車並み」の価格にできるのか?
Merkmal
EV開発で大注目! 結局「全固体電池」は何がスゴいのか
EV開発で大注目! 結局「全固体電池」は何がスゴいのか
Merkmal
ホンダ「脱ガソリン」実現へ、EV苦戦の中国でも人員削減[新聞ウォッチ]
ホンダ「脱ガソリン」実現へ、EV苦戦の中国でも人員削減[新聞ウォッチ]
レスポンス
過去最高業績!「バイクで絶好調のスズキ」に死角はないのか? 肩身狭かった二輪の躍進
過去最高業績!「バイクで絶好調のスズキ」に死角はないのか? 肩身狭かった二輪の躍進
乗りものニュース
自動車大手7社の“通信簿” お家芸のHV好調、歴史的な円安と値上げ効果で過去最高[新聞ウォッチ]
自動車大手7社の“通信簿” お家芸のHV好調、歴史的な円安と値上げ効果で過去最高[新聞ウォッチ]
レスポンス
中国EVアイウェイズ、国内市場から「撤退」 価格競争で経営難 欧州へ軸足移す
中国EVアイウェイズ、国内市場から「撤退」 価格競争で経営難 欧州へ軸足移す
AUTOCAR JAPAN
ブレンボグループ2024年第1四半期連結業績を発表 売上高は前年比4.4%増の1,004.6 百万ユーロ
ブレンボグループ2024年第1四半期連結業績を発表 売上高は前年比4.4%増の1,004.6 百万ユーロ
AutoBild Japan
インド乗⽤⾞市場でEVの出荷量が倍増、全体の2%を占めるまで成長
インド乗⽤⾞市場でEVの出荷量が倍増、全体の2%を占めるまで成長
@DIME
中国EV、タイで存在感を発揮。日本車は今後どう立ち向かうべきか……【バンコク国際モーターショー】
中国EV、タイで存在感を発揮。日本車は今後どう立ち向かうべきか……【バンコク国際モーターショー】
くるくら
【本田宗一郎DNAは息づいている】 型破りで破天荒なホンダの目標 EV化の裏には現実的な考えが
【本田宗一郎DNAは息づいている】 型破りで破天荒なホンダの目標 EV化の裏には現実的な考えが
AUTOCAR JAPAN
「停車前に立たないで」 バスドライバーを精神的に苦しめる“乗客転倒事故”の危険性、解決策はあるのか?
「停車前に立たないで」 バスドライバーを精神的に苦しめる“乗客転倒事故”の危険性、解決策はあるのか?
Merkmal
6/26申込締切「ロボタクシー」サービスの今とこれから~市場と主要企業の最新動向~
6/26申込締切「ロボタクシー」サービスの今とこれから~市場と主要企業の最新動向~
レスポンス
追いつめられるバスドライバー! なぜバス会社は従業員を守らず、乗客クレームに加担するのか?
追いつめられるバスドライバー! なぜバス会社は従業員を守らず、乗客クレームに加担するのか?
Merkmal

みんなのコメント

14件
  • *******
    なぜかいつもの中国嫌いがこの話題になるといなくなるよな
    なんで?
  • bub********
    協業=中国ビジネス強化なのか?むしろトヨタ単独では投資せず、協業で済ませているだけだと思うが。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

133.7213.2万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

35.0231.0万円

中古車を検索
コロナの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

133.7213.2万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

35.0231.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村