「10年ひと昔」とはよく言うが、およそ10年前のクルマは環境や安全を重視する傾向が強まっていた。そんな時代のニューモデル試乗記を当時の記事と写真で紹介していこう。今回は、テスラ モデルSだ。
テスラ モデルS(2011年:プロトタイプ)
アメリカの西海岸、サンフランシスコの郊外にある、GMとトヨタの合弁工場だったNUMMIの跡地。そこにテスラ・モーターズが新工場を建設し、新型のEV(電気自動車)セダン「モデルS」を発表するという。しかもプロトタイプの助手席だが、試乗もできるというのだ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
EVのベンチャーとして名が売れたテスラだが、現在(編集部註:2011年9月)までに2000台余りを販売した程度。そんな会社の新型車が世界的な注目を集めるのには理由がある。
第一に、IT業界の企業家たちが「自分たちが乗りたくなるようなカッコいいエコカーを作ろう」と考えて、資金を集めて創業したこと。IT業界らしい資金調達や意思決定の速さを武器に、ゼロから自動車を生産するまでに成長してきた。
第二に、IT業界によるEVベンチャーという従来の自動車産業に敵視されてもいい立場にもかかわらず、大手自動車メーカーから資本を得ている点。2009年にダイムラー、2010年にトヨタやパナソニックが資本を投入したことで、EV作りに必要なノウハウを手中に収めた。
そして、第三の理由が今回発表されたモデルSの価格だ。電池の容量=1回の充電で走行可能な距離で価格は異なるが、160マイル(約256km)走行可能なベーシックモデルで5万ドル(編集部註:当時のレートで約380万円)以下。オプションで電池容量を増やせば、最大で300マイル(約480km)まで走行距離を延長できる。さらに4ドアの利便性に加えて、イマドキなクーペ風のスタイリングを持つ。
スポーツカー並みの加速だが乗り心地はいい!
助手席への同乗ながら、ついに試乗がかなった。プラットフォームはモデルS用に完全に新設計。ロードスターではT字型に搭載されていたリチウムイオン電池は床下に広く薄く搭載される。重心を低めたことにより、コーナリング時の姿勢は驚くほど安定している。
一方で、前ストラット/後マルチリンクとした足まわりがサルーンらしい乗り心地の良さを提供する。直線路では、0→60mph(約96km/h)加速は4.5秒!というセールストークどおり、スポーツカー並みの加速で体がシートに押し付けられる。運転してくれたエンジニアいわく、ステアリングの応答性がすばらしく、アクセルの開閉へのレスポンスも高いという。こう聞くと、自らステアリングを握れなかったことが悔やまれるが、少なくともモデルSがプラットフォームをゼロから設計したEVならではの魅力が満載されたクルマであることは実感できた。
正直なところ、初期のロードスターと比べると、格段にクルマ作りに手練れた人間の仕事に思える。それもそのはず、現在テスラの副社長のひとりは元ジャガーのエンジニアであり、ともに仕事をするのはロータスでハンドリングを担当したり、フォードでGT40の設計に携わった人物だという。しかも、生産現場をまとめるのはトヨタでレクサスを担当した人物だ。CEOのイーロン・マスク氏いわく、「最高の仕事ができる人を集めた」というだけあって、まさにクルマ作りのドリーム・チームだ。
汎用品を使えるところは、それで十分。各国の自動車作りのトップエンジニア、最新のロボットや機材といった投資が必要な部分には、資金を惜しみなく投入する。約5万ドルのスポーティサルーンを生んだのは、こうしたテスラ流の経営の賜物である。
日本でも2013年夏には市販開始が予定されており、すでに発注が入っているという。上陸が待ち遠しい1台だ。
テスラ モデルS(プロトタイプ) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4978×1963×1435mm
●ホイールベース:2959mm
●車両重量:2253kg
●モーター最高出力:416ps/5000-8600rpm
●最大トルク:61.2kgm/0-5100rpm
●駆動方式:RWD
●0→96km/h加速:約4.5秒
●最高速度:約200km/h
●最大航続距離:約256km(オプションで約370km/約480km)
●充電所要時間:45分(急速充電)
●乗車定員:5名(オプションで7名)
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