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あと10年で新車のすべてが電動化されると3ペダルMTが消滅するのか?

掲載 更新 71
あと10年で新車のすべてが電動化されると3ペダルMTが消滅するのか?

 EUの欧州委員会が2035年までにHVを含むエンジン車の新車販売を禁止する方針を固めた。そのほかの各都市や自動車メーカーも2030年~2040年にかけて、電動化が加速している。

 ここでふと、クルマ好きにとって心配なことが1つある。HVを含め、EV、FCVなどの電動化車両だと、3ペダルのMT車が絶滅してしまうのではないかということだ。

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 特に欧州ではMT車が好まれており、不満は出ないのだろうか? マニュアル操作ができるといっても、2ペダルのDCTや10速ATなどの多段化ATでは、3ペダルのMT操作による運転する楽しさは味わえない。

 はたして、このまま3ペダルのMT車は、電動化時代に向かって消滅していくのだろうか、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。

文/高根英幸
写真/日産、ホンダ、マツダ、ポルシェ、ベストカーweb編集部

【画像ギャラリー】まだ希望はある! クルマが電動化しても多段MTが存続する可能性を写真でチェック!!

■実は電動化とMTの相性は悪くない

 クルマの電動化が急がれている。2021年の欧州燃費規制の厳しさや、迫り来る日本の2030年規制、そして欧州では2035年にはエンジン車の販売を禁止する法案まで審議されているほどだ。

 その一方で、欧州ではMT車の人気は依然高い。それは、自分でクルマを操っているという満足感、安心感があることと、日本に比べクルマの生涯走行距離が長く、メンテナンスコストなどの点でもMTが選ばれているようだ。

 しかし件の燃費規制は電動化を半ば強制的に進めていくことになるから、MT車が絶滅するという予測も起こっている。電動化とMTは共存していけるのか、運転するならMT派の筆者がMTの将来性を考えてみた。

 かつて、ホンダがパラレルハイブリッドでP1タイプ(エンジンのクランク軸後端にモーターをマウント)を採用していた初代インサイト、フィットHV、CR-ZにはMTの設定もあった。

1999年に発売された『初代インサイト』。ハイブリッド、空力、軽量化と、ホンダが徹底的に燃費にこだわったスペシャルマシン(5速MT)

2010年に登場した『フィットハイブリッドRS』。1.5L iVTEC+IMAのHVでも6速MTが用意されていた

2010年に発売された『CR-Z』。第31回カーオブザイヤー受賞と業界からの評価は高かったが販売が振るわず一代で生産終了となった(6速MT)

 特にCR-ZはCR-Xの再来としてコンパクトなFFハンドリングマシンという性格が与えられ、モーターのアシストによりターボのようなパワフルな加速感が味わえたことから、ハイブリッドスポーツという新感覚のジャンルさえ生み出したのだ。

 しかしハイブリッドという割りには燃費が伸びず、ホンダもIMAと呼ばれたP1レイアウトの薄型モーターから2モーターのe:HEVへと路線変更した結果、MTとの両立は消滅した。

 ではハイブリッド車のMTはもう実現しないのか、と問われればそうとは言い切れないだけの可能性は存在する。というのもハイブリッドとMTを組み合わせるには、様々な方法が考えられるからだ。

 スズキのSエネチャージなどのP0タイプ(ベルト駆動の発電機にモーター機能を追加してアシストするマイルドハイブリッド)は、現時点でもラインナップされているだけに当然、今後もMTと組み合わせることは可能だ。

 マツダ3にはSPCCI(火花点火制御圧着火)と、P0タイプのマイルドハイブリッドシステムM-HYBRIDを組みわせていたe-SKYACTIV-Xが設定されている。これに6速MTを組み合せることで、力強いトルク、リニアで正確なレスポンス、高回転までスムーズに伸びていく爽快な加速感が味わえる特徴を持っている。

e-SKYACTIV-X搭載のMAZDA3。SPCCI(火花点火制御圧縮着火方式)の制御を最適化し、最高出力を従来型の180ps、22.8kgmから190ps、24.4kgmにアップさせた

世界で初めて実用化したSPCCI(火花点火制御圧縮着火方式)を搭載したe-SKYACTIV-Xと190ps、24.4kgmの2L、直4に 6.5ps、6.2kgmのMハイブリッドを搭載。これに6速MTが組み合わせられる

 前述のP1タイプはEVモードでの走行や回生充電の効率が悪い(エンジンと切り離せない)ため、今後登場する可能性は高くない。

 しかし変速機の前にモーターを組み込むP2タイプ、変速機の後端に組み込むP3タイプや、前輪をエンジン、後輪をモーターが駆動するパラレルハイブリッドであれば、MTと組み合せることは可能だ。

 技術的には可能でも、環境対策を推進するための電動化であるから、燃費性能が高い変速機のほうが選ばれる可能性は高い。この点がMTの存続を危うくしている大きな要素だ。

■MTの構造上、6速以上の多段化は難しい

 MTは平行軸歯車だけのシンプルな構造から、駆動損失が少なく耐久性が高い(クラッチは消耗品で、乗り手で寿命が左右するが)のがメリットだが、ドライバーが変速操作を確実に行なうことを考えると、Hパターンのシフトでは6速までに限定されてしまう。

 ポルシェはDCTとの共用を狙って7速MTを開発(アストンマーチンとコルベットにも採用例あり)したが、操作性を考えれば今後も6速MTが主流になるのは変わらないだろう。

欧州で2020年4月に911カレラSとカレラ4Sに設定された7速MT

 しかしエンジンのトルクやモーターのアシストには限度がある以上、変速機の各段の減速比の差(ステップ比と言う)は限界がある。つまり8速や10速を誇るATには、変速比幅では敵わない、ということだ。

 冒頭の欧州ユーザーが好むMTのメリットにおいて、燃費性能に優れているというのは、最新のATと比べると当てはまらないのである。

 巡航時にはエンジン回転をいかに下げるか、ということがエンジンの燃費性能を引き出す大きな要素となる。であれば今や多段ATのほうが燃費性能に優れていることは明らかだ。

 シフターをシーケンシャル化して、シフトレバーを前後に動かすだけでシフトアップ/ダウンできる機構にすれば7速以上に多段化したMTも可能だが、既存のMTのシフトワークに慣れ親しんだドライバーにとっては、理想のシフト操作とはいえなくなるだろう。

 そもそもシーケンシャルシフトはドグミッション(ノンシンクロのMTで、走行中のシフト操作はクラッチ操作を省いて変速時間を短縮)のためにあるようなものだった。

 パドルシフト同様、クラッチ操作を伴うシフトワークとしては何だか異端なイメージがある。これも慣れれば問題ないだろうが、現在MTを支持しているクルマ好きは、フロアシフトのHパターンを操って運転したいのだ。

 副変速機を備えて、ドライバーのシフト操作を検知して副変速機を自動で制御すれば、Hパターンのまま8速や10速、12速といったMTを作り出すこともできる。

 しかしそこまでしてMTを存続させようとするメーカーや支持するフリークが現われるだろうか。

■CVTの進化も侮れない、MTの未来は厳しい…

ジャトコが開発したCVT-X。加速時の反応やロックアップの応答性など高トルクのターボエンジンに、より適したCVTに仕上がっている

日産キャッシュカイに搭載されているXTRONIC(エクストロニック)CVTはジャトコ製のCVT-Xが採用されている

 それにガラパゴス変速機とまでいわれたCVTも、驚くべき進化を遂げている。ジヤトコは今年になってCVTの新型CVT-Xを発表した。

 これは欧州で販売されている日産キャシュカイに搭載されているCVTで、横置きながらチェーン式を採用して、ついに伝達効率90%を達成したのだ。

 これはMTのおよそ97%、遊星歯車を使った一般的なATの95%前後と比べればまだ低いが、シンプルな構造でコストやスペース性も8速以上の多段ATより優れているとなれば、今後もパラレルハイブリッド用として使われ続ける可能性は高いだろう。

 CVTでも変速や加速のフィールはかなり改善されており、燃費性能も優れているとあって欧米でも日本車のCVTは受け入れられつつある。

 そうなるとMTはドライバーが運転を楽しむためだけの仕様となり、存続していくのはますます難しいだろう。

 だが、これがモーターだけで走るEVとなると、また事情が変わってくる。なぜならモーターだけのバッテリーEVでは、多段変速機やCVTの必要性は薄い。モーターはトルクがあるから、ステップ比を大きくしても加速が鈍ることは少ないからだ。

 加速における負荷が同じであれば、回転数が違っても消費電力はそれほど変わらないため、多段化するメリットはあまりない。

 EVのレーシングカーであるフォーミュラEも当初は4速の変速機を搭載していたが、現在は2速しか搭載していないマシンも多く、変速機を搭載していないマシンも登場している。

 そもそも変速機は、エンジンのトルクを増大したり、巡航時に燃焼回数を減らすことで燃費を向上させるためのデバイスであり、モーターを原動機とした場合、変速機による燃費(この場合は電費)の削減効果はあまり期待できないのである。

 むしろATやCVTは動作させるために油圧を必要とすることから、油圧ポンプの駆動損失がEVにとってネックになりそうだ。ちなみに2速ATを採用しているEV、ポルシェ・タイカンは電動で多板クラッチを制御している。

アウトバーンの国ドイツのメーカーであるポルシェのタイカンは、BEVとしては技術的にチャレンジングな2速変速機を採用して、最高速と電費を伸ばしている

 それでもモーターの回転数には限度があり、出力の大きな大型モーターほど高回転域が厳しくなる(コイルの長さが長くなると、高速で回転させるのに限界がある)ため、変速機を組み合せたほうが幅広い速度域でモーターを効率良く使うことができるのも事実。

■EVなら4速MTのEVが登場する可能性がある

 今後はタイカンのように2速、3速の機械式AT(油圧制御ではない遊星歯車式AT)を採用するEVは登場する可能性は高い。

 であれば、平行軸歯車を使った4速MTのEVなども登場しても良さそうなものだ。モーターのトルクをエンジン車並みに小さいものとして、クラッチとシフトレバーを操作して快適に走らせる、そういうEVスポーツが登場する可能性はある。

MT操作での運転は楽しいが、そもそもトルクのフラットなモーターには変速機自体の必要性がない。特に最高速120Kmの日本では

 筆者はMTを操作して運転することがクルマの楽しみにおいて大きな要素だと感じていて、世の中に購入できるMT車が軽トラしかない状態になったなら、迷うことなく軽トラを購入しようと思っている。しかしながら、こんな考えは極めて少数派なのも事実。

 マツダロードスターも次世代モデルは電動化されると言われているが、ハイブリッドであればMTは用意されると思うが、その次の世代はEVスポーツとなるのであれば、MTを採用するだろうか? 

「人馬一体」を標ぼうするマツダロードスターは、非力なエンジンのトルクバンドをMT操作で維持しながら走るという、車との一体感を楽しめる

現行ND型ロードスターのコックピット。MTシフトノブや3連アナログメーターなど、現代ではすでにレトロな雰囲気となりつつある

マツダのM-HYBRIDなどP0タイプのマイルドハイブリッドは、48Vになっても2030年には通用しないだろう。マイルドハイブリッドのアシストでは2030年の燃費基準、2035年の欧州基準をクリアすることはほぼ不可能だ。

 フルハイブリッドとMTで2030年規制は何とかクリアできても、2035年に欧州の規制が厳しくなるとMTでは燃費基準が通らない可能性が高い。なので2世代後のロードスター(2035年前後?)が登場するとすれば、EVしかなくMTを採用するかは不透明、というのが筆者の予測だ。

 もしMTではなく、ATの2、3速の変速機を搭載するようになっているなら、それはスポーツカーもクルマを操る楽しみが従来とは異なるものへと進化している、ということになるのではないだろうか。

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みんなのコメント

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  • 10年後解る。
  • こうやってMT乗りの不安を煽って「今ならまだ買える」と新車を買わせようったって そうは問屋が卸さない!…欲しい&条件に合う車が無いから、まだまだ今の愛車に乗り続けてやる!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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