商用車ゆずりの広さと便利さと人も快適に乗れる実用性の高さを武器に、初代モデルが1997年にデビューしたカングー。以来、2世代に渡ってヨーロッパではLCV(ライト・コマーシャル・ヴィークル)という、商用的な使われ方も含めて“便利で快適なクルマ”として人気を集めてきた。そして今回、14年ぶりのフルモデルチェンジを受けて登場した3代目は、まさに全面刷新と呼ぶにふさわしい“進化した実用”を携えているという。その真実とは私たちの生活をどのように整えてくれるのだろうか?
商用車が日本でお洒落な乗り物へと変身してきた
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初代カングーを初めて目にしたのは、というか乗ったのは2001年の初秋だった。パリを中心に取材した後、西に走り、シェルブール、モンサンミッシェル、そして西部の主要都市のレンヌを回りパリに戻る、一週間ほどの取材だった。レンタカー代をケチるならルノーとかプジョーのコンパクトハッチで十分。だが、さすがにカメラマンやコーディネーターと一週間過ごすとなると、少々窮屈。そこで思い付いたのがルノーのLCV、カングー。日本未導入と言うこともあったのだが、とにかく荷室が広く、人も乗れるという実用性を優先してのセレクトだ。ただ、実用のプライオリティが高いフランスだけに、レンタカー代がそれなりに高額だった記憶がある。
そしてシャルル・ド・ゴールで受け取ったのはディーゼルエンジンにマニュアルミッションを組み合わせた白いボディのカングーだった。いまでも覚えているが、そのクルマを見た現地在住のコーディネーターは「これじゃ、電気工事の業者だな……」とちょっぴり浮かない顔。どうやらこの仕様、こちらでは商用車そのもの、といった佇まいらしい。
だが荷物をたっぷりと積み込んで、いざ走り出してみると、これがなんとも快適だった。ディーゼルエンジンはトルクフルで、速くはないがじれったさを感じるまでではない。なにより、日本では5ナンバー枠に入るボディの扱いやすさは、駐車車両がぎっしりと、まさにひしめいているパリ市街の裏通りでも、スクエアなボディは見切りも良く、実に扱いやすかった。
そして西に向かうオートルート。ビジネスエクスプレスよろしく、ぶっ飛ばす! というわけには当然いかないが、それでも走りにおいてストレスはない。確か20km/l前後だったと思うが燃費が驚くほど良好で、旅費を節約できたことを覚えている。なにより、地方の田舎道を走っているとき、小さな凸凹を上手くいなしながら走り抜けていく感覚も悪くなかった。ひょっとしてドライバー1人で、荷物を積んでいなければ、もう少しサスペンションの硬さを感じたのかもしれないが、取りあえず大人3人にカメラ機材やトランク3個を搭載して走るには、ほぼ不満がない状況だった。
ただ1点だけ、キャビンに侵入してくるロードノイズを含めた走行中の騒音はストレスとなる事もあった。我慢できないほどのレベルではないのだが、長時間その音の中にいると「さすがにLCVとなると、致し方ないか」と、自分を納得させる状況だったのだ。それでも取材を終えて1週間ほど過ごしたカングーを返却する頃には「日本でも乗りたいなぁ」という気分になっていた。そして迎えた2002年の春、カングーは本国デビューから4年以上遅れて日本に上陸。するとその個性的なスタイルとフランス車ならではブランド力が醸し出す雰囲気と、そして高い実用性がほどよくバランスしたカングーはヒット作となっていった。
価格の上昇分をも吸収する乗り味の魅力
2022年の10月、ルノー・カングーのユーザーやフランス車好きなどが山梨県の山中湖交流プラザに大集合して「カングー・ジャンボリー」というイベントが開催された。2009年から始まったこのイベントは、3年ぶりのリアル開催ということもあり、参加車両1900台、参加者は5千人を越えるほどの盛況ぶりだった。すでに国内最大級のオーナーズイベントのひとつにまで成長している。フランス本国においてもLCVが、ここまで人気となっている現状は、驚きを持って受け取られているという。しかし、LCVも日本に来るとお洒落なMPV(マルチパーパスヴィークル)と呼ばれるようになり多くの支持を得るのだが、なんとその理由を探るために、本国フランスのルノー本社から関係者が、このジャンボリーを見学に来たほど。
もちろんインポーターのルノージャポンもイベントには全面協力。昨年の会場では3代目の新型カングーをこの場でお披露目しているのである。日産との共同開発によるCMF-CDと呼ばれるプラットフォームを使い、ガソリン仕様には1.3Lのターボエンジン、さらに嬉しいのは1.5Lのディーゼルエンジンも用意した点だ。すでにBEV(バッテリーEV)へのシフトを急ぐ、という姿勢を鮮明にしているルノーだっただけに、新しいカングーのカタログからはディーゼルが落とされても止むなし、との予測もあっただけに、嬉しい誤算ともいえる。
さて14年ぶりに新型となったことで、追求した変化といえば最新のADAS(,先進運転支援システム)装備と、商用車的な乗り心地を「フランス車らしい乗用車レベルの快適で軽快さを感じるレベル」にまで向上させることだ。実際に走らせてみても、14年前のクルマとはまさに“隔世の感あり”なのである。荷物のために用意されたスクエアで広々とした荷室からも、不快なガタピシとした振動やドタバタとした音も、ほぼ聞こえてこない。なにより、フランス車の特徴である足のしなやかさと軽快感を、町中でもワインディングでも、そして高速でもしっかりと味わえるのである。
そして実用面で言えば右と左のドアの大きさが違う観音開きのリアドアを、これまで同様に採用し、狭いスペースでも開閉可能とし、実用性をしっかりと維持している。荷室やリア席などのスペースについては文句なし。アウトドアだけでなく、移動オフィスのような使い方も車中泊でも、そして商用的な使用にもすぐに対応できる。
もちろん日本での支持率の高さを証明するように「イエローのボディカラー」と「キズにも強い黒バンパー」の組み合わせを選択出来るのは、日本だけだという。つまり日本専用仕様であり、本国では選ぶことさえ出来ないのだ。これほど日本は優遇されているが、一方でステランティスからは、プジョー・リフター&シトロエン・ベルランゴ、そしてフィアット・ドブロという兄弟車による強力な布陣が待ち構えている。こうしたライバルの追撃に対して懸念があるとすれば価格。新型カングーはガソリンモデルが384万円~、ディーゼルが419万円~。これまで200万円台もあったことを考えると、少しばかりユーザー層も変化するかもしれない。その上で、カングーが20年以上に渡って築き上げてきた圧倒的な安定感、安心感によるアドバンテージを、しばらくは維持していくのだろうな、と思いながら快適な乗り心地を楽しんでいた。
インパネを見る限りインテリアの質感はルノーのハッチバックと遜色ない上質な仕上がり。
ファブリックと合成皮革の組み合わせたシート表皮によってアウトドアなどでも気兼ねなく使えそう。
2:1の分割可倒式のリアシート。足元も広くロングドライブでの使い心地も良さそう。
リアドアはスライド式、フロントドアは乗降性も考慮してほぼ90°まで開いてくれる。
リアは跳ね上げ式のハッチバックではなく、両開きのドアを採用。好みもあるが荷物の出し入れでは使いやすい。
デュアルクラッチ式ATの「EDC」は7速で、スムーズな心地いい加速感を実現。
荷室は通常時は775L、リアシートを完全に倒すと2800Lのスクエアで広大な荷室スペースが出現する。
コモンレール式の1.5L直列4気筒直噴ディーゼルターボエンジンはレスポンス良く、じれったさはない。
リアシートの乗員用に装備された折りたたみ式のピクニックテーブル。
カングーの伝統的魅力、オーバーヘッドシェルフなど、収納スペースはかなり工夫が施されている。
(価格)
4,190,000円~(カングー・クレアティフ・ディーゼル/税込み)
(スペック)
全長×全幅×全高=4,490×1,860×1,810mm
ホイールベース:2,715mm
車重:1,650kg
最小回転半径:5.6m
最低地上高:未公表
トランスミッション:7速AT
駆動方式:FF
エンジン:直列4気筒ディーゼルターボ 1,460cc
最高出力:85kW(116PS)/3,750rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1,750rpm
燃費:17.3km/ℓ(WLTCモード)
問い合わせ先: ルノーコール 0120-676-365
文/佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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みんなのコメント
車のターゲット層は価格と使い方で決まると思うのだが。