フィアット・パンダ4x4は1983年、シュタイア ダイムラー プフの全輪駆動技術を搭載し、まったく異なるリアアクスルを採用した。BONSAIオールホイーラーに乗る。
一見するとただの箱だが、この忘れ去られた80年代のベストポケット型全地形対応車には、登山能力にまつわる伝説がある。
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ヴェスターヴァルト地方ヒルシャイトの森林管理官ベルント ニュッケル(59歳)は、エクスペディション サービス ヴェヒタースバッハがプロ用マシンに改造した1994年製の高所作業車を長い間愛用していた。「冬に30~40センチの新雪が積もると、重いオフロード車はみんな埋もれてしまうが、パンダは車重が軽いからほとんど沈まないんだ(笑)」。
遅くとも2006年までには、ベルントのパンダ4x4はパリパリに錆びていた。その間、13インチの小さなホイールに合うタイヤもなかなか見つからなかった。
G-メルセデスの生みの親による新しいリアアクスル
この小さなアクスルの主な欠点は、「横風に弱い」ことだ。しかし、俊敏性と経済性はすべてを補って余りあるものだった。メルセデスゲレンデヴァーゲンやオフロード用ハフリンガー、ピンズガウアーを開発したシュタイア ダイムラー プフ(現マグナ シュタイア)は、この小型車にまったく異なるリアアクスルを採用した。
コイルスプリングの標準的な独立サスペンションは廃止され、リーフスプリングのリジッドアクスルが採用された。リアアクスルのディファレンシャルの下には、220mmという印象的な最低地上高があるが、エンジンとギアボックスの下に保護パイプがあるため、その分フロントは150mmに縮小されている。
パンダ4x4は19年間の生産期間中にわずか7,000台しか販売されなかった。古いイタリア車の典型的な弱点であるサビや電気系統の不具合以外にも、フロントアクスルのサスペンションジョイントが摩耗していたり、ヘッドライニングがたるみやすかったりすることが予想される。むき出しの金属、きしむようなプラスチックのスイッチ、耳鼻咽喉科医がのどをチェックするために使うような木の棒の形をしたコントロールレバーを多用したパンダのミニマリズムは、際立っていた。1992年以降のモデルは、1.1リッターエンジンが大型化され、ボーデンケーブルギアスティックが採用された。
ファイヤーエンジンを搭載したパンダ4x4
私たちが乗った車は、ヴィースバーデンのフリーデマン デルガー フォン シュタイン(72)が所有していたもので、パンダはその後売却された。引退した経営コンサルタントの彼は、仕事人生をファッション業界に捧げてきた。彼のミニマルな車への憧れは、イタリアへの出張をきっかけに発展した。彼は750ccのスタンダード「パンダ」も所有していた。
ファイヤーエンジンはキーを回した瞬間に始動する。部品点数が少なく、オーバーヘッドカムシャフトを備えたこの1リッターエンジンは、当時としては先進的なロボットによって製造された(FIRE=Fully Integrated Robotized Engine)。
この「4x4シスレー」(ファッションブランドから命名)の場合は洗練されていた。背もたれは調整できないが、部分的にレザーになったシートや、チルトゲージ、傾斜角計などオフロード車特有の追加計器類を備えていた。
集中力を要する3速ギア
5段ギアのうち1段目は、オフロード用リダクションに代わるオフロード用クロールとして機能する。そのため、一般道では2速発進した方がスムーズだ。狭いギアスティックレバーは正確なガイダンスで感動を与えるわけではないが、少なくともシフトトラベルはかなり短い。
3速ギアにはちょっとした集中力が必要だ。慎重にクラッチを踏み込み(ペダルが近く、中央に向かってオフセットしているため、できればスリムなイタリア製の靴を履いて)、ギアスティックレバーを慎重に前に押し出す。
この馬力インフレの時代に私たちを驚かせてやまないのは、このような80年代の用心棒の運転がいかに軽快であるかということだ。4気筒エンジンは非常にレスポンスがよく、高速道路を外れてもパワー不足を感じることはない。パワーアシストは不要で、ダイレクトなステアリングも楽しい。パンダのオーナーは言う。「通行人は楽しそうに見ているし、時には手を振ってくれる」。交通量の多いヴィースバーデンでは珍しいことだそうだ。
この「パンダ」は15万4,000kmを走破している。その利点は、シールがもろくならないことだ。しかし、ドアとリムの錆を落とす必要があった。新しいドライブスリーブも4つ必要で、安価な部品だが取り付けには時間がかかる。だが、整備の結果は納得のいくものだった。本当に消耗していたものはすべて交換されたが、助手席側とリアのオリジナルのシートカバーなど使える部品は残されたことで、34年前の車がそのストーリーを語ることができるようになった。
初代「パンダ」が登場したのは、1979年から80年にかけての第2次石油危機の時期だった。この時期は、エネルギー価格が高騰し、グリーンな世界観が台頭していた時期であり、私たちの時代とは異なっていた。当時の自動車メーカーは、過剰なハイブリッド技術の代わりに、何もないクリアで薄いシートのミニマリズムで対応した。
大林晃平: 私の大好きなパンダ(もちろん初期のパンダのことだ)には4輪駆動があり、それが今回の4×4シスレーである。シスレーとは何かをちょっと解説すると、イタリアの洋服ブランド「ベネトン」の上級ブランドで、言ってみればGAPに対するバナナリパブリックのような、お姉さんブランド、それがシスレーである。
4輪駆動のパンダとシスレーがどういう関係にあるのかはわからないが、とにかくこの4×4のパンダも格好良かったし、ちょっとほしい車の一台だった。オリジナルのパンダから比べると黒いビニールで張られたシートはちょっとスパルタンな雰囲気ではあったが、それもまた4輪駆動らしかったし、細かい装備品や内装の違いなども、いかにも自動車好きをくすぐるディテールを持っていて、ああやっぱりイタリア人はマッキナが好きなんだなぁ、と実感できるような自動車である。
メカニズム的にも、あのシュタイヤプフが開発に携わった、ということは古くはピンツァガウアーやゲレンデヴァーゲンとは歳の離れた兄弟であったとも言えよう。そんな考え方はやや強引かもしれないが、当時はシュタイヤプフが開発に携わったという事実は、パンダ4×4に大きな付加価値を与えていたと思う。今のマグナシュタイヤという形になってからは、自動車の開発も生産もすべて引き受けるようになり、無数に様々な自動車を開発する巨大企業となって現在にいたるのは言うまでもないし、今トヨタのショールームに並んでいるスープラも、生まれ故郷はココである。
さてパンダ4×4の良さは、もちろん軽さと小ささとシンプルさで、そういう意味ではジムニーのように悪路での走行性能は物理的に有利なものとなっている。戦車のように重く、恐竜のようにでかいサイズのSUVよりも、ずっとスイスイと水を得た魚のようにイタリアンアルプスの細い道をカッとんでいたことであろう。
だが噂ではパンダ4×4の使い方として注意することの一つは、4輪駆動のまま舗装路面を走っては(絶対に)いけないらしい。走るとどうやら壊れちゃうらしいのだが、どこがどういう風に壊れるのかは不明である。まあおそらく駆動系にストレスがかかり不具合が発生するらしいのだが、そういう意味では4輪駆動の使い方を徹底しないといけない一台なのだろう。また本文にも記されている通り、錆に関しても、決して強くはないし、塗装ももはやはげちょろになっている場合が多い。ゴムだってプラスチックパーツだって、おそらく賞味期限切れになっている可能性もあるし、それなりに気を使い、いたわりながら接してあげなくてはいけない年代の自動車である。
特に海沿いの地域に住んでいる人は言うまでもなく、たまに海に行った方も帰ったら洗車してあげるべきだし、軽くてズンズン行ってしまえるからと砂浜に乗り込んだりするとしっぺ返しを食らう、そんな防錆性能だし、そもそもものすごくタフな機構を持っているかと言えば、ベースはパンダなのだから無理は禁物である。
だから悪路などを本気で走るのならば新しいジムニーを心置きなく使うべきで、パンダ4×4でオフロードコースに乗り込むのは、個人的には心が痛むし、おそらく車も傷む。それでもちょっとしたオシャレな一台として、昔を懐かしみながら4×4シスレーに街中などで乗ることは、やっぱり楽しいだろうなぁとも思う。どうしてそんな気持ちになれるのだろうか?
それはオリジナルパンダが素晴らしく魅力的だったことと、パンダ4×4が全盛期だった頃の時代が(きっと)青春時代だったからである。パンダは今見ても少しも古くさくないばかりか、今のどの2ボックスカーよりも魅力的なスタイルと内容であると思う。40年も前にこんなデザインが完成したことには驚くしかない。
そしてパンダという名前がまた素晴らしい。誰がどう選んでつけたのかはわからないが、名前って大事だなぁと思う。エックス(X)なんとかとか、イー(E)なんちゃらという名前ばかりの今、パンダとかトッポリーノとか、実に多くの人に愛されそうな響きではないか。ネーミングって大事だし、今の自動車にかけているのはそんな部分なのではないかな、とも考えてしまう。
Text: Rolf Klein Photo: Holger Neu / AUTO BILD
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