現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 苦手なもてぎを克服したGRスープラ。ブレーキング時のリヤスタビリティアップが果たした功績

ここから本文です

苦手なもてぎを克服したGRスープラ。ブレーキング時のリヤスタビリティアップが果たした功績

掲載
苦手なもてぎを克服したGRスープラ。ブレーキング時のリヤスタビリティアップが果たした功績

 2021スーパーGT第4戦もてぎを2位で終えた宮田莉朋は、泣いていた。

「ピットに戻ってきて『すみません!』ってね。だから言ったんです。『(マックス)フェルスタッペンになれと。(ルイス)ハミルトンにずっと負け続けてもチャンスが来たんだから、お前にも来る。山本(尚貴)選手はチャンピオンだし、後ろから見ていて操作も分かっただろう』とね。正直、僕も悔しかったですけど」

2022年のスーパーGT開催スケジュールが発表。鈴鹿で2戦が開催

 WedsSport ADVAN GR Supraの坂東正敬監督は、第2スティントの激戦を微妙な表情で振り返った。宮田は、山本がドライブするSTANLEY NSX-GTの背後にピタリとつけ、何度も横に並びかけた。しかし、最後まで昨年のチャンピオンを抜き去ることはできなかった。

「抜けなかったのは予選での100分の5秒差、まさにそのものだったと思います。莉朋も言ってましたけど、去年こんなに悔しい思いってなかったんですよ。でも、悔しいと思えるところに来れたというのは、1歩階段を上ったということだし、次もっといいレースをすれば勝てるねって。自分としては、今日は(国本)雄資を褒めてあげたい。スタート後牧野(任祐)選手をどこで抜くか、昨晩遅くまでシミュレーションしていたと思うんですよ」

 予選2番手からスタートした国本は7周目、トラフィックに詰まり一瞬スピードが鈍った牧野を、5コーナーでアウトから鮮やかに抜き去った。その直後「オレかっこいいでしょ」と、無線で声を弾ませたという。国本はその後もリードを保ち、実質首位で自分のスティントを走り切った。

「レースなんでそう簡単には勝てないですし、今日の2位はうれしいです」と国本。「牧野選手よりも、そのさらに前のGT300を見ながら走っていました。5コーナーでは去年立川(祐路)さんにアウトから抜かれていて、抜くための材料はありました(笑)。今回はタイヤもクルマも良かったですし、いいレースができました」

 STANLEY NSX-GTとWedsSport ADVAN GR Supra。サクセスウエイトではSTANLEY NSX-GTが12kg重かったとはいえ、実力はほぼ互角だった。ピットでWedsSport ADVAN GR Supraがタイヤ交換ミスをせず、給油時間もわずかに短かったら、勝負どころでFCY(フルコースイエロー)が2回も出なかったら、最後の対戦相手が山本ではなかったら……。考え得る敗因がひとつでも少なかったら、WedsSport ADVAN GR Supraが優勝していた可能性は充分にあっただろう。

 ではなぜ、昨シーズン一度も6位以内に入れなかったWedsSport ADVAN GR Supraが、優勝争いをできたのだろうか? GRスープラの中では軽いほうだとはいえ、ウエイトを10kg積んでいた。国本が言うように、タイヤとクルマの両方が良かったことが、躍進の理由である。もちろん、ドライバーの力量も忘れるべきではないが。

 タイヤについては6月にヨコハマがもてぎで行ったテストで、高い路面温度にマッチするタイヤを見つけた。新しいコンパウンドを採用し、ピークグリップだけでなく耐久性の面でも長足の進歩を果たしたと坂東監督はいう。

「予選に関しては前回ポールでしたし、今年3戦中2戦でスープラ勢トップでした。『決勝ではどうせタレるんでしょ』と思われていたかもしれないですし、確かに最後はリヤをセーブしないとダメな状況でしたが、それはFCYが2回入ったせいもあると思います」

 ヨコハマの新タイヤはウォームアップにやや時間を要し、内圧が上がり完全に発動するまでに5周程度要した。だからこそ、前半国本は7周目まで待ちベストな状態で勝負を仕掛けたのだが、後半で首位山本を追いかけていた宮田は、重要な場面でFCYによりスピードを落とし、タイヤの温度が下がってしまった。FCY明けで差を拡げられ、再び追いつくまでに5周程度かかったのは、タイヤの特性によるものだ。

 また、山本との接近戦が続き、直後を走り続けたことでダウンフォースを充分に得られず、後半はタイヤのデグラデーションが進んでしまったのも事実。前半トップに立ち、クリーンエアで走り続けた国本は「タイヤのタレはなかった」と証言する。

 ただし、それについては、あえて宮田の接近を許した山本の知略と精神力を称えるべきだろう。山本は宮田を抑え続けるなかでタイヤと燃料をセーブし、最後の要所でパフォーマンスをフルに発揮して突き放した。長いあいだ山本の真後ろにつき、タイヤとブレーキを酷使しただけでなく、エンジンの冷却性能も下げてしまった宮田は、山本から学ぶことが多かったに違いない。

■「ショックだった」5%負けていた燃費差
 次に、GRスープラの進化について見ていきたい。昨年のもてぎでの2戦、とくに11月の2戦目は、ウエイトハンデを考慮してもGRスープラが決勝でもっとも苦しんだ1戦だった。その理由としては、ブレーキスタビリティの不足、中低速コーナーでのダウンフォース不足、燃費性能が挙げられる。

 それについては各チームだけでなく、車両開発を担うTCD(トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)も危機感を覚え、オフのあいだに「もてぎ対策」に重点を置き開発を進めた。

 トムスの東條力エンジニアは「昨年は、規則変更で失われるであろうフロントのダウンフォースを取り戻そうとした結果、思った以上に空力バランスが前に寄りすぎてしまったようです。そうなると、ブレーキングのエネルギーが大きく、トラクションも重要なもてぎでは厳しい。エアロは変えられないので、いろんなアイテムを組み合わせながら改善を進めてきました」という。

 つまり、リヤタイヤのグリップが薄くなりやすかったということだ。もてぎはそもそも路面のグリップが低く、予選などタイヤがいい状態ならばカバーできるが、決勝で摩耗が進むとリヤがどんどん弱くなっていく。ブレーキングでは突っ込めず、立ち上がりでトラクションもかかりにくいというのが、昨年苦戦した大きな理由である。

 ブレーキスタビリティを高めようと、ウイング角度やレーキアングルで空力バランスをリヤに移すと、フロントが軽くなりコーナーではアンダーステアが出やすくなる。それを補うためにTCDと各チームはシミュレータも駆使し改善に努めた。90度コーナーで走りを観察したところ、ブレーキスタビリティも、立ち上がりのトラクションもNSX-GTと遜色なく見えた。また、中速区間でも回頭性、スタビリティともに一部のGRスープラを除けば非常に良かった。

「今年のクルマはリヤの安定感を出しつつ、しっかり曲げられます。低速コーナーにボトムスピードを上げて入っていけるし、うまくトラクションもかかる。曲がりながらリヤがドシッとしている感じがあります」と、国本のコメントもポジティブだった。

 車両開発を担うTCDの湯浅和基氏は、次のようにレースを振り返った。

「昨年のもてぎに比べたらだいぶ良くなりました。ヨコハマとブリヂストンではタイヤの潰れ方が違うのですが、走っているときの車高はかなりそろったと思います。リヤの車高を下げた状態で、なんとか曲げられるようなセットを目指しました。S字のアンダーも昨年より出ていなかったですし、この方向で間違いないと思います。ただ、ブレーキングでまだドーンと行くことはできず、そこは今後の課題です」

「車体屋さんを褒めてあげてください」と、同じくTCDでエンジン開発を担当する佐々木孝博氏は言う。

「昨年は減速時に、レーキがついていて後輪が空転してしまうためロックしやすく、オフスロットル状態でもアンチラグを強めてトルクを入れることで後輪を回してあげる必要がありました。でも、そうすると燃費は悪くなります。昨年、ホンダさんが21、22周目でピットに入ったのを見てショックを受けました。計算すると、厳しく見て5%負けていたと思います。そこで、オフの間に燃費の改善に努めましたし、今回のもてぎではアンチラグをあまり強めないで走ることができました」

 5%という大きな差をよく取り返したといえるが、それでもWedsSport ADVAN GR Supraの分析によると、STANLEY NSX-GTのほうが給油時間は若干短かったという。

「パワーはどちらも変わらないと思います。うちはドラビリ(ドライバビリティ)を重視するため常にアンチラグを使っていますが、ホンダさんはアンチラグを弱めたり使わなかったりしていると思います。後半にFCYが2回入って彼らはかなり燃費を稼ぐことができ、アンチラグを使える領域に入ったんじゃないかなと思っています。だから、抜き切れなかったというのもあると考えています。我々は最初からアンチラグを常に使う前提なので、FCYはあまり関係ありませんでした」

 つまり、NSX-GTは2回のFCYで燃費がかなり楽になり、終盤アンチラグをアドバンテージとして使うことができたという見立てである。

「改善の余地はまだあると思います。今年もう1回もてぎがあるので」

 以上のように、昨年鬼門だったもてぎで、GRスープラはNSX-GTと対等に勝負ができるレベルまで総合力を高めたといえる。11月開催の2回目のもてぎ、そして高負荷サーキットの次戦鈴鹿で、力関係がどのようになっているのか、タイトル争いを考えると非常に興味深いところである。

※この記事は本誌『auto sport』No.1557(2021年7月30日発売号)からの転載です。


こんな記事も読まれています

新型「“R36”GT-R」まもなく登場か!?  4.1リッターV6搭載で1000馬力発揮!? 旧型デザイン採用の「和製スーパーカー」生産状況を公開
新型「“R36”GT-R」まもなく登場か!? 4.1リッターV6搭載で1000馬力発揮!? 旧型デザイン採用の「和製スーパーカー」生産状況を公開
くるまのニュース
TANABEのカスタムスプリング2製品にレクサス『IS500』用など3車種のラインナップが追加
TANABEのカスタムスプリング2製品にレクサス『IS500』用など3車種のラインナップが追加
レスポンス
JMIAが2025年を目指し『NEXT-FORMULA-PROJECT』をスタート。コンセプトカー開発に着手
JMIAが2025年を目指し『NEXT-FORMULA-PROJECT』をスタート。コンセプトカー開発に着手
AUTOSPORT web
宮田莉朋、イモラで試した新しいアプローチ。間一髪の接触回避で飛び出した自己考察/FIA F2第4戦レビュー
宮田莉朋、イモラで試した新しいアプローチ。間一髪の接触回避で飛び出した自己考察/FIA F2第4戦レビュー
AUTOSPORT web
純正を超える走りと快適性を追求! HKSの車高調「HIPERMAX S」に40系ヴェルファイア2WD専用が登場
純正を超える走りと快適性を追求! HKSの車高調「HIPERMAX S」に40系ヴェルファイア2WD専用が登場
くるまのニュース
【auto sport web/auto sport キャリア採用】一緒に仕事をしたい方、募集します
【auto sport web/auto sport キャリア採用】一緒に仕事をしたい方、募集します
AUTOSPORT web
マッスルカー『チャレンジャーSRTヘルキャット』、ドゥカティと加速競争…映像公開
マッスルカー『チャレンジャーSRTヘルキャット』、ドゥカティと加速競争…映像公開
レスポンス
好調の角田裕毅、モナコでの初ポイント獲得へ「まずは昨年と同じように予選Q3進出を目指す」
好調の角田裕毅、モナコでの初ポイント獲得へ「まずは昨年と同じように予選Q3進出を目指す」
motorsport.com 日本版
大人“6人”乗れるレクサス「高級ミニバン」初公開! 1500万円の豪華仕様、反響は?
大人“6人”乗れるレクサス「高級ミニバン」初公開! 1500万円の豪華仕様、反響は?
くるまのニュース
マクラーレン、アイルトン・セナを称える…800馬力スーパーカーをカスタム
マクラーレン、アイルトン・セナを称える…800馬力スーパーカーをカスタム
レスポンス
後席の広さで選ぶミッドサイズ以下の国内メーカーSUVランキングTOP10
後席の広さで選ぶミッドサイズ以下の国内メーカーSUVランキングTOP10
@DIME
RB、上位入賞妨げる“スタート問題”解消へ。原因はタイヤとクラッチ?「安定感のあるレッドブルとは同じエンジン」と角田裕毅
RB、上位入賞妨げる“スタート問題”解消へ。原因はタイヤとクラッチ?「安定感のあるレッドブルとは同じエンジン」と角田裕毅
motorsport.com 日本版
ランボルギーニ初のプラグインハイブリッド スーパーSUV「ウルス SE」を日本初公開!
ランボルギーニ初のプラグインハイブリッド スーパーSUV「ウルス SE」を日本初公開!
Webモーターマガジン
未来の新幹線? いいえ、トラックです…米ケンワースがプロトタイプを発表
未来の新幹線? いいえ、トラックです…米ケンワースがプロトタイプを発表
レスポンス
レッドブル重鎮マルコ、F1モナコGPでの最大の敵はフェラーリと予想。一方ホーナー代表はマクラーレンを警戒?
レッドブル重鎮マルコ、F1モナコGPでの最大の敵はフェラーリと予想。一方ホーナー代表はマクラーレンを警戒?
motorsport.com 日本版
京急バスが東急バスを運行! 会社間の垣根越え初タッグ 横浜本社から遠隔監視
京急バスが東急バスを運行! 会社間の垣根越え初タッグ 横浜本社から遠隔監視
乗りものニュース
ポルシェジャパンが若者の夢に投資する「Porsche.Dream Together」プロジェクト
ポルシェジャパンが若者の夢に投資する「Porsche.Dream Together」プロジェクト
Webモーターマガジン
トヨタ「アルファード」が欲しい! けど“現行”は高すぎ… 「先代アルファード」なら200万円程度で買える!? 狙い目の「お買い得中古車」とは
トヨタ「アルファード」が欲しい! けど“現行”は高すぎ… 「先代アルファード」なら200万円程度で買える!? 狙い目の「お買い得中古車」とは
くるまのニュース

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2695.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1640.03258.0万円

中古車を検索
GTの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2695.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1640.03258.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村