車のニュース [2023.03.10 UP]
これからのモビリティのかたち
環境とお財布に優しいクルマ購入のスタンダード<br>エコカーの現在地
MaaSで広がる移動の最新事情
『MaaS』というワードを多くのメディアで聞く、あるいは見るようになり、数年が経過したが現状はどうなっているのか。また、クルマを含めたモビリティの変化が今後の私たちの生活にどのような影響をもたらすのかをレポートする。
●まとめ:イーグル ●文:楠田悦子(Q&Aの解説文)
(掲載されている内容はグー本誌 2023年3月発売号掲載の内容です)
あらゆる「移動」がひとつのサービスに統合され、シームレスな予約・支払い・決済などが実現できれば、ユーザーにとってはありがたいことだ。
話を聞いたのは……
モビリティジャーナリスト
楠田悦子さん
心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について考える活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。
皆さんも一度は聞いたことがあるであろう『MaaS』(マース)というワード。Mobilityasa Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の略語で、これはフィンランドで初めて実現した概念。あらゆる「移動」をひとつのサービスに統合することで、ユーザーの利便性を大幅に高めることを目的としている。MaaSによる「移動の効率化」や「公共交通の積極的な利用」などにより、都市部での交通渋滞を減らしたり、高齢者や公共交通が脆弱な地域での移動のサポートなど、多くのメリットが考えられる。
日本では政府が「未来投資戦略2018」を掲げ、自動運転の発展や交通機関同士の統合などに関する施策が盛り込まれた。現在、鉄道会社や自動車メーカーなどを中心にさまざまな取り組みが進められている。
About MaaS! 01
MaaSって、いつ頃から始まった動きですか?
MaaSの定義はフィンランドで作られました。もともとは、あらゆるモビリティサービスを組み合わせて、新たな価値を提供するサービスモデルをとらえる概念でした。時間とともに定義が変わり、公共交通でのデジタル活用、新しいモビリティサービスの創造、自動運転など、『モビリティサービスのデジタル活用』として広くとらえられるようになっています。
日本では、トヨタが2018年1月の世界最大級の家電見本市CESで「自動車をつくる会社からモビリティ・カンパニーへ変革する」と決意表明をしたことで、MaaSが着目されるようになりました。
モビリティカンパニーへの変革を宣言した際、クルマの概念を越えて、新たな価値を提供できるモビリティとして発表されたトヨタのe-Palette。実用化に向け進化している。
About MaaS! 02
日本でMaaSはどのくらい進んでいるのか?
ライドシェアや電動キックボードのシェアリングなど、一般的に日本では規制が多いため、デジタル活用が遅れているといわれています。
一方で、電動キックボードシェアリングをいち早く取り入れたパリでは事故などが多発し、その賛否を問う市民投票を行うまでの状況になっています。
新しいモビリティサービスの成果がどのようなものかわからないから、とりあえず試してから考えようとする国。多少遅れても、安全性などを大切に既存のサービスとの共存を図りながら慎重に進める国など、さまざまです。日本は後者といえます。
人々が生活を送るリアルな環境のもとでMaaSを導入・検証できる実証都市を新たに作る、トヨタの「コネクティッド・シティ」は注目のプロジェクトだ。
About MaaS! 03
国としてはどのようにサポートして推進していくのか?
取り組みが遅れているといわれる日本ですが、私たちが日常的に使っている鉄道、バスやタクシーは世界最高水準の安全性とサービスレベルを誇ります。
「MaaSはコロナ禍で打撃を受けた公共交通を再デザインするには欠かせないのではないか?」、「公共交通のない地域では高齢者や観光客に対して新しいモビリティサービスを創造しては?」、「自動運転サービスやスマートシティの素地となるのではないか?」。
このような考え方で、国はデジタル活用を進める地域に対して、補助金を出したり、企画に対してアドバイスをするなどサポート体制を強めています。
About MaaS! 04
都市部においてMaaSがもたらす恩恵って何?
都市部では、“移動手段の選択肢が増えてきている”と感じることがありませんか? 既存の公共交通だけでは賄いきれない移動需要に対して、自転車や電動キックボードなどのシェアリング、送迎サービスなどが検討、導入されています。人手不足解消のために、ドライバーなしでも公共交通が運行できる仕組みづくりの検討も進んでいます。 また九州・関西の一部地域や富山県では、MaaSをキーワードに競合してきた事業者が連携を進めています。いずれもデジタルを活用し、他社やモビリティサービスと連携することで公共交通の利用者をより増やそうとしています。
実証実験により、電動キックボードや自転車のシェアリングサービスの設置箇所を見かけることが増えている。
MaaS【事例紹介】
公道を定常運行する自動運転バス ~茨城県・境町~
利根川沿いの「河岸(かし)の町」こと茨城県境町。鉄道の駅がなく、路線バス網も
不十分なため、生活にはマイカーが必須。2015年に圏央道境古河ICが開通したものの公共交通の脆弱さが境町の課題となっていた。そんな町に自動運転バスが導入された。
気軽に買い物に行けるようになった
習い事の送迎がいらなくなった!
免許を返納しても生活できる見通しがついた
高速バスとの接続で利便性が向上した
境町に来る人が増えた!
自動運転バスは、町が抱える課題を打破し、『誰もが生活の足に困らない町』を目指すため導入された。まずはじめに2020年1月に町民向けに試乗会を実施。その後、同年11月26日から、自治体としては全国初となる公道での自動運転バスの定常運行を開始した。第1ルートとして始点と終点のバス停2か所(河岸の駅さかい~シンパシーホール)を設定。21年2月には、病院や郵便局など、生活に欠かせない場所にバス停を6か所追加した。さらに同年8月には、第2ルート(道の駅さかい~高速バスターミナル)の運行も開始した。
バスの運行は基本的には自動だが、信号や路上駐車している車両や後続車の状況などに応じて、同乗するオペレーターが手動で操作を行っている。その運営方式もすばらしく、料金は無料。事業の運営費は国からの補助金やふるさと納税を活用し、町の持ち出しをゼロにする「境町モデル」で賄っている。
運行開始から2年以上が経過し、生活の足としてはもちろん、モデルケースとして各地の自治体、多くの団体や企業が視察に訪れ、バスの累積乗車人数は14,319人、走行便数は12,890便(2023年2月16日運行終了時点)と、境町の活性化に大きく貢献している。これまで事故はなく、自動運転バスの社会実装の取り組みが認められ「第1回クルマ・社会・パートナーシップ大賞」を受賞。住民と一体となった事業の取り組みが高く評価されている。
境町では、近い将来での完全な無人化を目指し、今後も自動運転バスを『横に動くエレベーター』として育てていくとのことで、同じような問題を抱える地方自治体などにとっても境町の実績は絶好のお手本となるだろう。
About MaaS! 05
MaaSが地方にもたらす恩恵は?
クルマ移動に頼っている地方では、そもそも使える公共交通自体がなかったり、あっても限定されがちです。高齢者の免許返納後の移動手段が問題となっている昨今、自宅から病院やスーパーなどへの送迎サービスを試行錯誤しながら作り始めています。
トヨタグループのアイシンが提供する「チョイソコ」や、日産自動車が福島県浪江町で実証実験を行う「なみえスマートモビリティ」、博報堂とスズキが富山県朝日町で展開する交通サービス「ノッカルあさひまち」などは、MaaSにより地域の利便性を向上させる取り組みとなっています。
About MaaS! 06
MaaSのこれからの展望と課題は?
利便性の追求だけでは持続可能な社会は作れません。利用する側の理解や協力も必要です。
モビリティサービス分野のデジタル活用や新しいサービスの創造は、簡単なものではありません。動画配信サービスなど、インターネット上で完結するサービスとは異なり、人の命を預かり安全に利用してもらうための車両の購入や維持、人のマネジメント、システムの維持など、コストがかかるためです。
まずはコロナ禍により大打撃を受けた、公共交通を地域でどのように再建していくか、再デザインしていくかが問われています。
About MaaS! 07
クルマとその他のモビリティとの今後のあり方について
クルマは私たちに自由な移動、新しい出会いや体験など、たくさんの可能性を与えてくれます。一方、その可能性と引き換えに、排気ガスによる大気汚染、交通事故の発生、鉄道などの公共交通の衰退など、失ったものもあるといえます。一部地域では、クルマがなければ特に高齢者や子どもを持つ家庭は、生活が難しい社会になっているのも事実です。
デジタルをうまく活用して、環境や安全性にも配慮したクルマと新たなモビリティサービスを組み合わせることで、それらの問題を解決できる、持続可能な社会が実現するのではないでしょうか。
地域に密着し、生活に欠かせない住民の足として大活躍!
境町には歩道がほとんどなく、路上駐車もある、電柱もあるといった、どこにでもある道路で自動運転が行われている(オペレーターが1名乗車)。自動運転バスの導入から運営、監視はソフトバンクグループのBOLDLY(ボードリー)が担当している。
開放感のある大きな窓が印象的な車内。万が一の状況に備え、緊急停止ボタンも用意されている。
バス停や渋滞緩和のための待避所は、住民の皆さんの協力により、無償で貸与されている。地域住民と一体となった事業の取り組みは高く評価されている。
運行ルートは住民のニーズに合わせ順次拡大していく予定。現在は、生活に必要な施設や高速バスとの接続を配慮したバスターミナルなどを結ぶ。
使用する車両は走行実績の高いフランスの「NAVYA ARMA(ナビヤ・アルマ)」。境町では3台を所有し、常時2台が稼働している。
2023年7月1日からの道路交通法改正……
電動キックボードがもっと身近なモビリティに変わる!?
現時点で電動キックボードは道路交通法上の「車両」に該当し、電動式モーターの定格出力に応じた車両区分に分類されます。電動式モーターの定格出力が0.60kW以下の電動キックボードは、道路交通法上の原動機付自転車(道路運送車両法上の第一種原動機付自転車)となるため、道路交通法の車両区分に応じた運転免許が必要です。当然、走行は車道のみとなり、ヘルメットの着用が必須です※1。(令和3年4月から一部のエリアでは、国の認可を受けた事業者が貸し出す電動キックボードの実証実験※2が行われており、ヘルメットの着用が任意等の特例が認められています。)しかしながら、2023年7月1日に予定されている道路交通法の改正以降は、新たに「特定小型原動機付自転車」という新区分(原付のうち電動で定格出力が0.6kW以下、長さ190cm、幅60cm以下かつ最高速度20km/h 以下のものが特定小型原動機付自転車に分類)が作られ、電動キックボードに新しいルールが加わります。
「特定小型原動機付自転車」では……
◎16歳以上であれば運転免許証は不要
◎ヘルメット着用は努力義務での運転が可能
◎最高速度は20km/h以下
◎自転車専用レーンや路側帯も走行可
(時速6kmモードで自転車が走行可能な歩道を限定的に走行可)
◎ナンバープレートは今までの原付と同じで必要
◎個人所有でもシェアリングでも同じルールが適用
目的地への「ラストワンマイル」の移動手段として有効だが、安全に運転するための知識が求められる!
※1 警視庁ホームページ(電動キックボードについて)より
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/torikumi/kickboard.html
※2 警視庁ホームページ(特例電動キックボードの実証実験の実施について)より
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/doro/dendosukuta.html
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みんなのコメント
まとめって書いてるならもっと簡潔に出来ないのか。