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AMG SLは原点回帰してリアルスポーツカーになった【石井昌道】

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AMG SLは原点回帰してリアルスポーツカーになった【石井昌道】

車の最新技術 [2023.09.11 UP]


AMG SLは原点回帰してリアルスポーツカーになった【石井昌道】
文●石井昌道 写真●メルセデス・AMG

メルセデスAMG F1マシンをオマージュした「SL63」コレクターズモデル発表

 メルセデス・ベンツSLといえば優雅なオープンカーというイメージが強かった。

 オープンでもクローズドでも快適なバリオルーフ(リトラクタブル・ハードトップ)を採用し、オープン時でも風の巻き込みが少なく、首元を暖めるエアスカーフなどの装備も充実し、大人のための優雅なモデルだった。ところが、昨年日本でも発表となった7代目はまったく違うモデルへと変身した。オープンカーであること以外はすべて違うと言っても過言ではなく、運動性能優先の硬派なモデルとなったのだ。

 これまでのSLはメルセデス・ベンツ・ブランドだったが、7代目はメルセデスAMGブランドであり、開発もAMGが行っている。新開発されたアルミスペースフレームのプラットフォームはSLが初出で、すでに発表されている2代目AMG-GTにも採用。これだけでも7代目SLが生粋のスポーツモデルになったことがわかるだろう。従来に比べるとねじり剛性18%、曲げ剛性40%、横曲げ剛性50%も向上しているという。軽量化、低重心化が図られるハードトップからソフトトップへと変更されたのも運動性能を考慮してのことだ。


メルセデス・AMG SL43
 目新しいのはSL43のエンジン。車格に相応しくないという声が聞こえてきそうな直列4気筒2.0Lターボなのだが、市販車初のEEGT(エレクトリックエキゾーストガスターボチャージャー=電動ターボ)を採用している。F1のMGU-H(モータージェネレーターユニット・ヒート)と同じような仕組みで、タービンと同軸に電気モーターが備えられる。特徴はターボラグを抑制することで、低回転域でターボの立ち上がりが鈍いときでも電気モーターで過給圧を上げられる。MGU-Hは排気エネルギーが余剰のときは回生して電気を生み出す機能もあるが、EEGTにそれはない。過給圧を常に高く保てるのでレスポンスに優れること、一般的なターボでは高出力だがレスポンスは悪い大型タービンを採用できることが最大のメリットだ。


メルセデス・AMG SL43
 マイルドハイブリッドでもあるのでEEGTの作動も48V電源を使用しているが、他のメルセデスのようにISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)ではなくBSG(ベルトドリブンスタータージェネレーター)を採用している。効率やアシスト能力としてはISGのほうが上だが、SL43はトルクコンバーター式の9Gトロニック(9速AT)ではなく、トルクコンバーターのかわりに湿式多板クラッチを採用し素早いシフトチェンジやレスポンス向上が図れるAMGスピードシフトMCTだからだ。最高出力381PS、最大トルク480Nmと2.0Lでは最強クラスを誇る。EEGTは採用していないもののエンジン本体は同様のA45 Sは421PSまで絞り出しているが、SLは4WDではなくFRなのでバランスをとったということだろう。

 パワーが十二分であれば、エンジンは軽量コンパクトなほど運動性能に有利なのは当然で、AMG開発の7代目SLにとって理想的とも言えるだろう。実際にワインディングロードで試乗すると、旋回能力の高さに驚かされる。ノーズが軽く、ステアリングを操作し始めた瞬間から鋭くインへ切れ込んでいくのだ。ボディの剛性感もあきれるほどに高く、ステア操作に対する遅れがまったくなく、スタビリティも十二分だ。

 エンジンのレスポンスも凄まじくクイックなハンドリングと絶妙にマッチしている。コーナーでは素早く曲げて素早く立ち上がっていくのだ。


メルセデス・AMG SL43
 ワインディングロードで乗っているだけならば、さすがAMG開発と絶賛したいところだが、従来のSLユーザーにはオススメしづらい気もする。低速域ではゴツゴツとした乗り心地であり、AMGスピードシフトMCTはたまにガクガクとする。エンジンも仕事はきっちりとこなすが官能性などはなくて事務的。飛びきりに硬派になったことで、優雅なモデルではなくなったからだ。

 とはいえ、初代SLはSport Leicht(英語でスーパーライト)を頭文字にした軽量スポーツカーであり、レーシングカーを市販化した超硬派なモデルだった。AMGに開発が委ねられたことで先祖返りしたというのが7代目の美しいストーリーなのだ。

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