この記事をまとめると
■BMWやアストンマーティンでデザイン役員を勤めたヘンリック・フィスカー
わずか1.5リッターエンジンの画期的スーパーカー「BMW i8」! 後継モデルも出ず「消滅」した理由とは
■2011年に自社ブランド初の市販車「フィスカー・カルマ」を発表したが2013年に経営破綻
■その後フィスカー氏は新会社を設立して新型EVモデルをデザインしている
2基のモーターで走行するレンジエクステンダー
1990年代にはBMWで、「Z8」や「X5」のデザインに携わり、その後、アストンマーティンに移籍。同社のデザイン担当役員に就任するまでに至ったヘンリック・フィスカー。彼の名前が自動車メーカーの名として最初に掲げられたのは2000年代を迎えてから。正確には2005年に設立されたフィスカー・コーチビルド社の誕生でのことだった。
フィスカー・コーチビルドはその後、2007年にはクァンタム・フューエルテクノロジー社と合弁し、新たにフィスカー・オートモーティブ社として再編。フィスカー氏はここで、将来の同社の主要なプロダクトを、レンジエクステンダーを搭載するPHEVとするという、きわめて先進的なビジョンを発表し世界から脚光を浴びるのである。
そのフィスカーから、最初のプロダクションモデルとなる「カルマ」が発表されたのは2011年のこと。実際にカルマのスタイリングを見て感じるのは、やはりフィスカー氏によって生み出される独特な抑揚が、そのデザインに力強さを演出しているのと同時に、未来的な感覚をも見事に表現しているということ。
※写真はカルマ・レヴェーロ
氏のデザインには、その前例を見れば明らかなとおり、常にレトロモダンのコンセプトが貫かれているが、それはこの自動車の将来をまず視覚で伝えるべきカルマにおいても変わることはなかった。
カルマのキャビンも同様に、そのクオリティは非常に高い。フィスカーはインテリアで使用する素材の選択にも、環境面での配慮に積極的な対応を見せ、ここにもPHEVベンチャーとしての、ひとつの哲学を主張していた。ちなみにキャビンは、完全に前席優先型のデザインで、2名分の後席は積極的にパッセンジャーを迎えるというサイズは正直なところ持ち合わせていない。それはあくまでもプラス2、あるいはラゲッジスペースと考えるべきだろう。
※写真はカルマ・レヴェーロ
センターコンソール上のスイッチで「D」モードを選択すれば、それだけでスタートの準備は完了。カルマでは完全ゼロエミッションモード、すなわちトータルで408馬力の最高出力を発揮する2基のエレクトリックモーターのみでの走行を行う、いやこのカルマの場合にはレンジエクステンダーとして使用されるGM製の2リッター直列4気筒ターボエンジンが始動しない状態での走行が行える「ステルス」と、レンジエクステンダーが作動する「スポーツ」の両モードが選択でき、最大航続距離は前者で約80km、後者では約480kmと発表されていた。
※写真はカルマ・レヴェーロ
また、搭載されたリチウムイオンバッテリーはABCシステムズ社製のもので、容量は20.1kWh。しかしこのABCシステムズ社の経営危機が、のちにフィスカーの経営にも大きな影響を及ぼす理由となったことも、忘れてはならない事実だ。
ホイールベースで3160mm、ボディーサイズは全長×全幅×全高で4998×2133×1330mmという大柄なスリーサイズと、2404kgのドライウエイトを持つカルマではあったが、0-100km/h加速は6.3秒、最高速は200km/hを実現した。前後の22インチ径ホイールの内側にはブレンボ製のブレーキシステムが備わり、それにはもちろん運動エネルギー回生システムが組み合わされていた。
※写真はカルマ・レヴェーロ
フィスカーを襲う厳しい状況からの経営破綻
カルマの第一号車はアメリカの俳優、レオナルド・ディカプリオに納車されたが、ここからフィスカー・オートモーティブ社が歩んだ道のりは、あまりにも厳しいものだった。さまざまな理由によるリコール続きや、前で触れたABCシステムズ社の経営危機に端を発する、5カ月にもわたるカルマの生産停止。
フィスカーはカルマの派生車種としてオープン仕様の「サンセット」や、ワゴンスタイルの「サーフ」、コンパクトセダンの「アトランティック」等々のデザインを次々に生み出していたが、それらの計画はすべて凍結。結果フィスカー・オートモーティブ社は2013年に経営破綻するに至ったのだった。
経営破綻したフィスカー・オートモーティブは、中国の自動車部品メーカーである万向集団に買収されるが、フィスカーの商標権はヘンリックの元に残り、それ以降も彼はカルマのボディにGM製の6.2リッターV型8気筒エンジンを搭載した「ディスティーノ」の生産にも携わった。
さらに2016年にはBEVを自社開発、そして自社生産する新会社のフィスカー・インク社を設立。個性的で持続可能な自動車の生産という夢は、いまも確かに続いている。
ちなみに「エモーション」とネーミングされたそのBEVは、テスラのモデルSなどを直接のライバルとするモデル。4枚のシザースドアを持ち、644kmの最大航続距離を持つなど、多くの魅力が詰め込まれた一台となっている。
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