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ファンティック副社長に訊く「キャバレロ700」にヤマハのエンジンを搭載する理由

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ファンティック副社長に訊く「キャバレロ700」にヤマハのエンジンを搭載する理由

ファンティックとミナレリ、両社の関係に迫る

「FANTIC MOTOR」(以下、ファンティック)は、1968年にイタリア北部のロンバルティア州バルザーゴで創業した2輪車メーカーです。1995年には不振に陥り、一時的に工場の操業が停止しましたが、新しいオーナーによって2004年に再スタートしました。

【画像】「FANTIC MOTOR」と「Motori Minarelli」の関係を画像で見る(14枚)

 現在のファンティックは、MotoGPアプリリア・レーシングの拠点でもあるノアーレに近い、ヴェネト州サンタ・マリア・ディ・サーラに本社と工場を置き、開発と製造を行なっています。

 ラインナップは「RALLY(ラリー)」、「MOTARD(モタード)」、「CABALLERO(キャバレロ)」、「ENDURO(エンデューロ)」、「MOTOCROSS(モトクロス)」というオフロード系モデルを主力としています。

 モータースポーツ活動も積極的で、モトクロス世界選手権、エンデューロ世界選手権、ダカール・ラリー、そして2023年からは2輪ロードレースの最高峰、ロードレース世界選手権のMoto2クラスに「ファンティック・レーシング」として参戦しています。ただし、Moto2クラスは公式エンジンであるトライアンフの排気量765ccの3気筒エンジンと、カレックスのシャシーを使用しての参戦です。

 先ほど挙げたファンティックのラインナップはオフロードモデルでしたが、Moto2参戦が示すように、今後、ファンティックはオンロードバイク市場へ本格的に参入していくということです。

 ファンティックのバイクは、日本では「MOTORISTS(モータリスト)」が輸入総代理店を務めています。

 そのファンティックが、2020年末に「Motori Minarelli」(以下、ミナレリ)を買収し、ミナレリの新たなオーナーとなりました。

 ミナレリの始まりは1951年のF.B.M.(Fabbrica Bolognese Motocicli)で、特に50ccクラスの小排気量エンジンの製造を行なってきたメーカーです。1980年代からヤマハとのパートナーシップが始まり、2002年にはヤマハの子会社となりました。

 ミナレリは過去、ロードレース世界選手権に参戦しており、1979年、1981年にはアンヘル・ニエトによって125ccクラスのタイトルを獲得しています。アンヘル・ニエトはMotoGPファンにはおなじみ、スペインGP開催地であるヘレス・サーキットの名称に冠されているレジェンドライダーです。

 今回、筆者(伊藤英里)はイタリアのボローニャにあるミナレリの本社、そしてヴェネト州サンタ・マリア・ディ・サーラにあるファンティックの本社を訪れ、話を伺うことができました。

ミナレリのファクトリーで見た光景

 最初に訪れたミナレリの本社、工場はボローニャ空港の近くにあります。初期のミナレリは、もっとボローニャ中央近くにあったそうです。と言っても、現在でもボローニャの中心部からそう遠いわけではありません。

 ファクトリーは2つに分かれており、ファクトリー1ではエンジンの製造が行なわれていましたが、ファクトリー2ではファンティックの「キャバレロ700」の組み立てなども行なわれていました。それだけではなく、「キャバレロ500」やエンデューロ、モトクロスのモデルもそのラインで組み立てられているとのことです。オーナーがヤマハだったときはエンジンだけでしたが、現在では車体の製造も行なっています。

 ファンティックは、新しい生産ラインを求めていました。ミナレリを買収した理由は、生産ラインを増やすことでした。

「ファンティックがリスタートしたときは、小さな工場での再開でした」と説明してくれたのは、ミナレリからファンティックの本社取材までアテンドを担ってくれた、エクスポート・マネージャーのアンドレア・ベナッティさんです。

「しかしその後、私たちはとても成長して、新しい施設を求めていました。私たちはイチから新しい施設を作るよりも、すでにあるこのファクトリーを購入した方が良いと考えたのです。私たちは少しだけテクニカル・プロダクションを変えただけで、ここで生産を開始しました。トレヴィーゾでは、私たちはひとつの組み立てラインを持っているだけですが、ここでは5つのラインがあります。ですから、自分たちが望む成長を維持できるのです」

 そう語っていたアンドレアさんは、ミナレリの人たちと会うなり、親密に握手して言葉を交わしていました。日本人とは違う気質を持つイタリア人だということを考慮しても、そのシーンややりとりからは、ファンティックとミナレリの関係性の深さが窺えました。

 ファンティックはミナレリにとってオーナーであり、ミナレリはファンティックに買収された会社ですが、ともに歩む“パートナー”と表現した方が、むしろしっくりきます。

 イタリアは中小企業が多く、大企業と呼ばれる規模の会社は0.1パーセントにも満たないと言われています。中小企業でさえ、全体の0.5パーセントほどだそうです。そんなカンパニーがイタリア経済を生み出しています。これは筆者の印象ですが、そうした状況もまた、会社同士の結びつきを強固にしているのかもしれません。

「私たちは同じメンタリティーを持っています」

 その印象は、ファンティックの本社でさらに色濃くなりました。ちなみに、ボローニャのミナレリからヴェネト州サンタ・マリア・ディ・サーラまでは約150km、クルマで約1時間半の距離です。遠過ぎるわけではありませんが、決して近いわけでもありません。

 日々のコミュニケーションについて、工場内を案内してくれた技術開発責任者であるフィリッポ・ローマンさんに質問しました。フィリッポさんは、後述のファンティック副社長、マリアーノ・ローマンさんのご子息です。

「チームワークがとても重要です」と、フィリッポさんは答えます。

「彼ら(ミナレリ)とは毎日ビデオ会議を行なっています。それに、とても頻繁に電話で話していますよ! しかし私たちは、R&D、車両開発のためだけではなく、日々、素材を運んだり、連絡を取り合っているんです。コミュニケーションはとてもうまくいっていますよ」

「週に1度、月に2度くらい、実際に顔を合わせてミーティングすることもあります。来てもらうこともあれば、こちらから行くこともあります。顔を合わせてのコミュニケーションというのはとても大事ですからね」

 フィリッポさんは「ファンティックとミナレリには、とても強いチームワークがあります。私たちは、同じ会社です。異なる2つの会社ですが、同じグループです」とも語っていました。それはまさに、筆者がミナレリのレセプションで感じたことでした。

 その後に、ファンティックの副社長であるマリアーノ・ローマンさんに話を聞くと、さらにファンティックとミナレリの深い関わりが見えてきました。あるいはそれは、ミナレリとマリアーノさん個人との、と言った方が良いかもしれません。

 まず、マリアーノさんはミナレリを買収した理由を簡潔に説明しました。

「私たちは量産エンジンのノウハウに欠けていると考えているからです。ミナレリを所有するということはエンジンのノウハウを持つことで、それを社内に持つということがとても重要なのです。私たちはミナレリを所有することで、ノウハウを完成したのです」

 筆者が「ミナレリとの関係性が2020年末に変わったことは、ファンティックにとってのターニング・ポイントに見えます」と言うと、マリアーノさんは「ええ」と穏やかに同意しました。そして、「しかし、私個人はミナレリとは40年前から仕事をしていますよ」と続けたのです。

「私は1985年にアプリリアで働き始めたんです。アプリリアのテクニカル・マネージャーでした。そして、ミナレリとたくさんのエンジンを開発したのです。50ccエンジンを一緒に開発しましたし、ほかのエンジンもね。私たちはミナレリ・ブランドと素晴らしい関係性を持っています。結局のところ、それが、私たちがミナレリを買収した理由なのです。1985年にミナレリとの仕事は始まっていたのです」

「わたしはミナレリのオーナー、ゼネラルマネージャー、そして社長と非常に強い関係性を持っています。ミナレリの人々はとても優秀です。そのうちの1人とは、40年前から一緒に仕事をしています。私はミナレリの社員の50パーセントを知っているんです。仕事の仕方や関係性という点において、問題はありません。私たちは同じメンタリティーを持っています」

 なるほど、ファンティックとミナレリの関係性は、すでにずっと以前から始まっていたということです。違う会社でありながら、同じメンタリティーを持っているということは、非常に興味深いところです。同じメンタリティーを持ってはいるけれど、違う会社であり続けている、ということでもあるからです。

「キャバレロ700」がヤマハのエンジンを搭載している理由

 もうひとつ気になったのが、「キャバレロ700」のエンジンについてでした。ファンティックが2022年11月のEICMAで発表して注目を集め、2023年7月に販売を開始した「キャバレロ700」には、ヤマハの「テネレ700」、「MT-07」のエンジンが使用されています。もちろん全く同じではなく、ファンティック独自のエアボックス、エキゾースト、ECUと、ミナレリが開発したキャリブレーションによって、馬力は変わらないながらも低中速域でのトルクが上がっているということです。

 しかし、エンジンカンパニーであるミナレリ製エンジンを搭載しなかったのはなぜでしょうか。

 マリアーノさんは、現状では従来のように、ミナレリは小排気量エンジンを製造する、と説明します。しかしもちろん、今後も同じではありません。

「全てのエンジンを開発することはできません。今年、私たちは50ccエンジンに集中しています。ユーロ5は大きな問題ですからね。私たちは300ccの2ストロークエンジンを開発しました。将来的にまた違ったものを開発できると思いますが、あまり多くのエンジンを開発することはできません」

 ファンティックにとってもミナレリにとっても、現在もヤマハはビジネスパートナーであり続けています。ファンティックがミナレリを買収することが発表された2020年10月のヤマハのプレスリリースでは「譲渡先のファンティック社は、イタリアで2輪車や電動自転車の製造・販売を行なっており、MM社も長期的なビジネスパートナーです。今回の株式譲渡は、ヤマハ発動機とファンティック社とのパートナーシップを強化することが狙いです。」とあります。

「ヤマハはこのエンジンを使用するチャンスを与えてくれました。このエンジンは市場でも最高のエンジンのひとつです。私たちはヤマハとの関係性を継続し、テネレのようなヤマハエンジンを使用していかなければならないと考えています」

「私たちのターゲットは、私たちが考える全てのエンジンを開発、製造することではないのです。必要なエンジンを製造、開発することです」

※ ※ ※

 話を聞くほど、ミナレリとのパートナーシップは、ファンティックのひとつの転換期だったのではないか、と思えます。長い時間で培われた関係性が、ファンティックのバイクをどう面白くするのだろうと、関心は高まるばかりです。

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みんなのコメント

2件
  • toi********
    ファンティックといえばトライアラーじゃないの?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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