MT-09の上級グレード「SP」は、KYB製フォークとオーリンズ製リヤショックを装備
ヤマハの3気筒ロードスポーツモデル・MT-09には、2018年型から上級仕様SPが用意されるのが通例となっている。最新型はスタンダードモデル発売から3ヵ月を経て、SPが7月に追加となった。
【画像13点】ヤマハ新型MT-09 SPの専用装備を写真で解説! スタンダードとの比較も
最新型──2024年型で第4世代へとモデルチェンジしたヤマハ MT-09だが、スタンダードモデルのサスペンションセッティングが従来型から改良されており、実際に乗ってみたところSPとの差が縮まるのではないかという感触を得ていた。
しかし、最新型のMT-09 SPに試乗してみると、やはりスタンダードとは明確な違いがあった。
SPに装備されるフロントフォークはKYB製、リヤショックは専用設計のオーリンズ製で、ともにフルアジャスタブルタイプ(プリロード、圧側減衰力、伸側減衰力の調整が可能)。バネレートや減衰特性は従来型SPとは異なる専用セッティングである。
エンジンの動力性能やフレームなど車体の基本スペックはスタンダードと変わりはないものの、グレードアップしたサスペンションによって、SPの車両重量はスタンダード+1kgの194kgになっている。
黒光りするフロントフォークのインナーチューブは従来型SPと同じくDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)コーティングが施されており、表面の面粗度の小ささと硬度の高さはスタンダードを上回っている。
その作動フィーリングがより滑らかなものになっていることは、SPに乗ってすぐに感じることができるだろう。スタンダードが何となく「ズズッ」と入る感じなら、SPは「スッ」と入っていく感じと言えばいいのだろうか。
また、フロントフォークほどではないが、リヤサスペンションもスタンダードよりスムーズな動きに思える。これは、路面の細かなギャップや凹凸を踏んだ時に分かりやすいものだし、ハンドルの高さが低めに設定されてライディングポジションも変化した新型MT-09では、より体感しやすいように思える。
このフィーリングは、フラットでコンディションも良好な路面では感じづらいかも知れないが、例えば冬期に積雪があるような山間部のワインディングに見られる、細かな凹凸があるような路面では、その違いが明確となる。したがってSPはスタンダードに対して、コーナー進入から立ち上がりまでの安定感に非常に優れているというわけである。
調整範囲の広さを活用し、自分仕様にすればもっと良いバイクに
前後サスペンションの詳細な調整幅は次の表を見てもらうとして(*画像ギャラリー参照)、フロントフォークの圧側減衰調整には「低速側」と「高速側」が設定されている。
これはどんな内容かというと、通常のストロークに対しては「低速側」で減衰力を調整し、「高速側」は瞬間的な大荷重がかかったとき、つまりストロークが非常に速く大きな状況で、オイルロックを抑止するダンパーのチェックバルブの作動を調整するものだ。
この仕組みはサーキット走行などで生じる高荷重に対応したもので、現実的に一般道走行で必要とする場面はほとんどないように思える。そういった意味では、オーバークオリティと言ってもいいかもしれない。
さて、実際にサスペンションセッティングを少々試してみた。筆者にとって出荷状態の標準セッティングでは、特にリヤが若干硬めのフィーリングに思えた。
そこで、もう少しソフトでしなやかなフィーリングの増大を狙い、まずリヤショックのプリロードをやや抜くと同時に、伸側減衰力をやや強めに調整してみた。これは、十分にサスペンションをストロークさせながら、戻りのスピードを少し抑制する方向で、コーナリング時の車体の沈み込みをやや促すと同時に、凹凸通過時の衝撃吸収性を向上させ、より接地感をアップさせようと目論んだことによる。
フロントフォークも、リヤに合わせて同じような方向でわずかに調整してみたが結果は上々で、コーナリング時の安定感が向上したように感じたし、全体的に滑らかな印象が増したのである。
例えば街乗りメイン、あるいはツーリングメイン、はたまたワインディングメインと、その目的や用途によってサスペンションの味付けも変えるのが本来だろう。
自分の知識やスキルに応じて、自ら試していくか、信頼できるショップやアドバイザーに依頼するかは別として、よりMT-09 SPのパフォーマンスと楽しさを拡大するために、ぜひ自分に見合ったセッティングを見つけてほしいものだ。せっかくのフルアジャスタブルサスペンションも、何もしなければ宝の持ち腐れになってしまう。これは非常にもったいない。
「足周りだけじゃない!」SP専用の装備、機能
このように、贅沢とも言えるほど充実した前後サスペンションだけでも、スタンダードから+18万7000円の価値はあると感じるのだが、SPの専用装備はこれだけではない。
スタンダードには5種類(基本3種類+ユーザー設定2種類)のYRC(ヤマハ・ライド・コントロール=走行モード)があるが、SPはサーキット走行を想定した4つのトラックモードが追加され、モード専用のメーター表示も用意。
これによって、SPではパワーデリバリーモードとトラクションコントロールシステム、スライドコントロールシステム、リフトコントロールシステムに加えて、クイックシフターとブレーキコントロール、エンジンブレーキマネージメントをそれぞれのトラックモードで個別に設定することが可能となっている。また、リヤのABSをオフに設定する機能もSP専用の装備である。
そして、フロントのブレーキキャリパーはブレンボ製となり、スマートキーも採用。加えて、SP専用のグラフィック&カラーリングとなっている。これはヤマハの最高峰スーパースポーツ・YZF-R1Mヘのオマージュであるのに加え、新たなデザインとなった燃料タンクの形状をより強調したものだ。
併せてスイングアームはバフ研磨&クリア塗装(スタンダードはブラック塗装)を施したものを採用。これにオレンジゴールドに輝く前後サスペンションを加えて、外観面でもSPならではの個性とグレード感が実現されている。
この内容を考えると、スタンダードとの約19万円の価格差は、ちょっとしたバーゲンプライスにも思えてくるのである。
ヤマハ新型MT-09 SP「ココが気に入った! ココが気になる」
■ココが気に入った!
充実した足周りによって、MT-09のエンジンやフレームが持っている本来のポテンシャルが存分に味わえることがうれしい。その仕上がり具合は、サーキット走行まで視野に入れている本気加減を感じられるものとなっている。加えて、所有欲を満足させる質感の高さや仕様が、モデルのアイデンティティを裏付けている。
■ココが気になる
カラーリングや質感がスタンダードとはひと味もふた味も異なる豪華仕様だが、ステンレスの地肌のままとなっているマフラーにもSPらしい質感向上のひと工夫があってもよかったのではと、その外観を眺めているときに思った。また、個人的な好みの話になるが、ハンドル幅は心持ち短い方が操作しやすいように思われた。
レポート●関谷守正 写真●柴田直行/ヤマハ 編集●上野茂岐
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