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1926年のダブルシェブロン シトロエンB12 ランドレー・タクシー 最後の現存車 後編

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1926年のダブルシェブロン シトロエンB12 ランドレー・タクシー 最後の現存車 後編

シトロエンから想像する以上に豪華な車内

丁寧にレストアされた、シトロエンB12のランドレー・タクシー。インテリアは、シトロエンからは想像できないほど豪華だ。かつてオーナーだった、モーリス・ベイリー氏の愛好家としての知識と創意工夫が発揮されている。

【画像】現存1台 シトロエンB12 ランドレー・タクシー 同時代のスポーツモデルと写真で比較 全83枚

「内装は、ウエスト・オブ・イングランド社製のウールです。リアシート側は、ブリッジ・オブ・ワイル社製のレザーで、フロント側はコノリー社製のレザーで仕立ててあります」と、ベイリーの友人で現オーナーのマーティン・デ・リトル氏が説明する。

「象牙が用いられたドアの装飾類は、オリジナルが残っていました。保護のために狩猟が禁止されているので、今では入手不可能です。ノブなどは、本物の象牙なんですよ」

スポンジのように柔らかいリアのベンチシートへ腰を下ろすと、細かな造形が施されたルーフ・ライトが最初に目に飛び込んできた。「もとは、小さな灰皿とランプです。ベイリーは2つを重ねて、当時風のライトに作り直したんです」

そんな細かな仕事が、クルマ全体をより良くまとめている。当時用いられていた、紙製のサインも復元されている。パリのタクシーの特徴だったとデ・リトルは話す。

小物類は、毎年フランスで開かれるクラシックカーショー、レトロモビルで手に入れることができた。四角いタクシー・メーターは、正しく取り付ければギアボックスでカウントするという。

今でも美しいと感じるディティール

このタクシーでもう1つ注目したいディティールが、弧を描くボンネットの後方に取り付けられた燃料計。「キャブレターの上にガソリンタンクが載っていて、重力の力で燃料がエンジンへ送られています。シンブルで、素晴らしい構造ですね」

「レトロモビルでは、他にも同じ部品を探しているフランス人がいました。ブースで見つけると、ベイリーは迷いなく手を伸ばして購入していました。ガソリンに浮かぶコルクとつながっていて、量に応じて上下し、メーター内のバーが動きます」

金属のカバーが覆い、ダブルシェブロン・マークがくり抜かれたテールライトも興味深い。ガラス細工のようで、今でも美しいと感じる。100年近くのクルマだが、場違いに見えないところも不思議だ。

唯一、ベイリーが選んだボディカラーはオリジナルではない。古いカラーチャートを持つショップを訪れ、暗いブルーを選んだ。「本来ならブラックであるべきです」。と、デ・リトルも認める。

シトロエンが2019年に100周年を迎えた時、このB12のランドレー・タクシーもメインスタンドに展示された。そこで新しい仕事が生まれた。結婚式の送迎でタクシーを走らせるというアイデアを、デ・リトルは思いついたという。

シトロエン側からは、英国のディーラーで開かれたイベントへの参加依頼もあった。「約100年前に作られた珍しいシトロエンだという事実は、参加者へはあまり響かなかったようですが」

このタクシーを購入したいという申し出も、シトロエンからあったという。だが、最終的に彼が希望する数字は示されなかったらしい。

1452ccの直列4気筒に3速MT

1920年代のシトロエンは、運転が簡単ではない。クラシックなロールス・ロイスと同様に、新婦を快適に運ぶことは難しいだろう。「このクルマには、当時の一般的なトランスミッションが載っています。3速MTに、バックギアが付いているだけです」

「力強く発進し、ステアリングホイールも軽く回せます。ですが、ガラス窓の大きいランドレーなので重心高が高く、ボディロールは小さくありません」

フロントに載るエンジンは、通常のシトロエンB12と同じ直列4気筒の1452cc。ボディには、コーチビルダーのシャペル&ジャブイユ社のプレートが貼られている。

速度を落とす装置は、フロント側のドラムブレーキと、ギアボックス側に取り付けられたドラムのハンドブレーキ。サーボの付いた4輪ブレーキが装備されたのは、次期型のB14以降だった。

快適な独立懸架式サスペンションも、登場以前。楕円リーフスプリングが前後を支え、ショックアブソーバーがリア側の揺れを抑えている。

「走行可能なB12の多くには、オリジナルの足まわりは残っていません。簡単に取り外すことが可能で、わざわざ元通りの部品で直す人は少ないのでしょう。現代では役に立たないと考えて」。デ・リトルが推測する。

ブランドへの強い想いと深い友情

運転席に座り、シトロエンのタクシーを出発させる。後ろへ大きく傾き、サスペンションの柔らかさをうかがわせる。舗装が充分ではなかった1920年代の道路へ対応した、貴重なセットアップだ。

足まわりの調整段階では、サーキット走行もある程度は視野にあったようだ。「当時のハンドブックを読み返しても、締め上げるトルク値の表記はなく、サスペンションの設定にも触れられていません」

「そこで、古いMGと同じ手法で組んであります。クルマを水平にした状態でフリクション式のショックアブソーバーを硬く締めて、シャシーを持ち上げ、アスクルがゆっくり下がり始めるまで緩めるという方法です。それが当時の一般的なものでした」

亡くなった友人、ベイリーが抱いたビジョンの達成を目指し、デ・リトルはシトロエンB12を現代の道路環境にも耐えるクルマとして仕上げた。そして、彼が希望した通りに、英国の公道を走っている。「技術的には古いですが、今でも機能します」

ベイリーの古いシトロエンは、万人受けしないとしても、素晴らしい。それ以上に、彼のフレンチ・ブランドへの強い想いと、デ・リトルとの深い友情も素晴らしい。たとえ目には見えないものだとしても。

協力:カー&クラシック社、オクステッド・クラシック社

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