デザインから設計まで仲間と作った本格レプリカマシン
クルマ好きだけに限らず、趣味が高じて「本物を買えないなら造ってしまえ」と考えるエンスージアストがいる。ここで紹介するK4GP参戦車両「アルファロメオ・ティーポ33/TT12レプリカ(エントリー名:マツバTT12)」を創出してしまったオーナーたちも“造ってしまった”熱き人々だ。
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軽自動車の車体やエンジンを改造したレース車両によって争われるK4GPは、気軽にエントリーできる参加型モータースポーツのひとつとして親しまれている。身近なレースだが、往年のレーシングカーと見た目がそっくりなレプリカマシンまで走っていることもあり、年々注目度が増しているといっていい。 なかでも、その完成度の高さから話題となったのが、今回ピックアップしたアルファロメオ・ティーポ33/TT12レプリカだ。
1975年のワールドチャンピオンに輝いたマシンを制作
70年代にスポーツカーによる世界選手権で活躍した本物は、エンジンを新設計のチューブラーフレームにボルト留めしていた。チューブラーフレームはイタリア語で書くとTelaio Tubolareなので、その頭文字をとってTTと呼ばれていたのだ。12とは、名エンジニアのカルロ・キティが設計した水平対向エンジンの気筒数のことである。
1973年シーズンを前にした「排気量の上限を3Lとする」というレギュレーション変更により、ライバルたちと互角に戦いつつ、総合優勝も狙えるチャンスが到来したティーポ33/TT12。アルトゥーロ・メルツァリオをはじめとするレジェンドドライバーたちが1975年シーズンに全8戦中7勝し、アルファロメオは見事ワールドチャンピオンシップのメイクスタイトルを獲得。
モータースポーツ史にその名を遺した。本物はいまや博物館に展示されるような代物なので、個人が買うことは困難。そこでティーポ33/TT12のことをリスペクトしているアルファロメオ好きのオーナーたちが一念発起し、完成度が妙に高いレプリカを造ってしまったのだ。
寿司屋で話した「K4GP」がきっかけでレースチームが発足
今回、アルファロメオ・ティーポ33/TT12レプリカの製作に携わった工業デザイナー氏に「どういうわけでK4GPに参加しようと思ったのか?」という段階から話を伺ったところ、このように話してくれた。
「そもそものきっかけは、マツバ寿司というお店で話が盛り上がったそうです。私はそのとき現場にいなかったのですが、ティーポ33ストラダーレを手造りしてK4GPに参加している友人チームがいたのと、K4GPに参加したことがあるメンバーがいたことがきっかけで、スクーデリア・マツバというチームが発足しました」。
「その後、旧いイタリア車を所有するメンバーが私も私もということでどんどん増えていき、最終的には十数人のメンバーが集結。これだけ人数がいれば製作費や参加費その他もろもろを折半できるんじゃないか? とのことで、クルマを造って参加する方向で話が進みました。K4GPの間口が広かった一因は、クルマを造って参加するという発想ですし、K4GP代表でありマッドハウス主宰の故・杉山さんが造ったポルシェやジャガーの出来が素晴らしかったということも関係しています」。
ベース車両はザウルスからフォーミュラに変更
どうせK4GPに参戦するなら、みんなが大好きな夢のクルマでサーキットを走りたい、という想いが強かったことに加え、ティーポ33ストラダーレを自作したチームのブログ等を見ていたこともあり、そこへの対抗心もあったという。K4GPに参加することを決めた2007年の秋から実際に造り始め、メンバー内のデザイナー数名でスケッチを描いてから一年近く経った2008年8月に完成。
「納車されたのがレースの2週間前で、サーキットで試走する時間もありませんでした。メンバー全員でカラーリングを仕上げ、ぶっつけ本番で参戦しました。いま思えばヒヤヒヤですね。当初、日産がワンメイクレース用に生産したザウルスをベースとして、ボディを造る予定でした」
「実際に車両を購入して試走までしたのですが、参加する年から排気量の制限が厳しくなって、軽のエンジンに載せ替える必要があったのと、ホイールベースやトレッドのバランスで、どうにもカッコ良くならないので思い切って売却。エンジンを載せ替える必要がなく、フォーミュラ・シャーシのためサブフレーム製作等のモデファイが容易で、なおかつプロポーションのバランスがいいスズキのフォーミュラKeiを探して購入しました。余談ですが、最初に買ったザウルスは、翌年、他のチームがポルシェ956風のボディを造り、K4GPに参加していましたね」
スズキのフォーミュラKeiをベースとしてアルファロメオ・ティーポ33/TT12レプリカを具体的にどうやって造ったのか? が気になるところだが、そのあたりについても詳しく話してもらった。
実車のような手順で製作されたマシン
「メンバーの中には、私を含めて数人の工業デザイナーがいました。その中のK氏がスケッチを制作し、それをもとに私がラフなスケールモデルやCGを作って検討。ある程度の形を決定しました。最初はティーポ33ストラダーレのチームのように、自分たちで原型からFRPボディの製作までをやるつもりでしたが、時間もないですし、それぞれ仕事を抱えていたこともあり、自作は断念。改めてFRP業者に発注することになりました」。
「詳細図面等の制作管理は私が行いました。まず、カウル等を外したベース車をFRP業者に運んで、そのシャーシに木と発砲材で原型を作ります。細かいラインやディテールは実際に形を見ながら調整していきました。原型ができたら雌型を造り、FRPのボディを製作。当初はFRP自体に色を付け、磨いて仕上げるつもりでしたが、完成したFRPパーツはパテ等で修正する必要があり、磨き仕上げは断念。塗装仕上げにすることになりました」。
「ボディカラーの塗装は、FRP業者に頼みました。次に完成したFRPパーツを別の工場に運んでフィッティング作業をしました。ベースのシャーシにサブフレームを組んで、FRPのボディが載せられるようにするのと、ヘッドライト・テールランプ等の補器具を組み込んでもらいました。フィッティングを頼んだ工場は、他にもK4GPの車両を造ったことがある経験豊富なファクトリーでしたので、細かいことはお任せでした。でも、この作業が一番大変だったようです」。
レース前日に仕上がったマシンの注目度は抜群!
出来上がったときの感想についてはこのように話してくれた。「フィッティングが済んで、完成したときは興奮を抑えられませんでしたね。想像はしていましたが、思ったより出来がよく遠目では本物なのでは? と思うほど、形のバランスがよかったです。他のメンバーも感想は同じようで、みんな興奮していました」。
「ステッカー等で仕上げたらさらに雰囲気抜群で、製作陣一同万歳したい気持ちでしたね。ただ、レース車両なので公道にて試走することができず、サーキット走行に不安を抱いていたのも正直なところです。最初にK4GPでお披露目したのはレース前日の練習走行でした」。
「当然注目度は高く、カーグラTVの取材も受けました。オリジナルの車両で参戦していた由良拓也さんからも、よく出来てるってお褒めの言葉をいただいたそうです。残念ながら私はその場にはいませんでしたが……。成績は途中でカウルを壊したり、いろいろありましたが何とか完走。レース後、その年のクルマ仮装賞をいただきました」。
アルファロメオ好きにとってティーポ33という車名は、いつの時代にも特別なものとして捉えられてきた。世界一美しいクルマのひとつとして知られるティーポ33ストラダーレのみならず、1975年シーズンに8戦中7勝してアルファロメオに悲願のチャンピオンシップをもたらしたティーポ33/TT12も、同社の輝かしいヒストリーを語る際に忘れることのできない存在だ。 よくできたレプリカは、本物のカッコよさを後世に伝える役割を果たしてくれるので、マツバTT12が再びサーキットで走ることに期待しよう。
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