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R32型スカイラインGT-Rは、一体なにが凄かったのか?

掲載 更新 10
R32型スカイラインGT-Rは、一体なにが凄かったのか?

今も根強い人気を誇る日産「スカイラインGT-R(R32型)」について、その技術的トピックを世良耕太が解説する。

約16年ぶりに復活したGT-R

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1990年頃に新車から30年経過したクルマといえば、十分にクラシックカーの域に入っていた。スカイラインでいえば「プリンス」だった時代の初代「スカイラインスポーツ」(1962年)が該当したし、ダットサン「フェアレディ1500」(1961年)やホンダ「S500」(1963年)がほぼ30年前のクルマで、当時もまだ魅力的ではあったけれども(現在の視点でもそうだ)、労るようにして乗る存在だった。

2020年代的な視点で30年前のクルマを振り返ってみると、“現役バリバリ”の魅力を放っているモデルが多いことに気づく。1989年は国産車のビンテージ・イヤーといってよく、スポーツカーに限ってもユーノス「ロードスター」(NA)が生まれ、トヨタ「MR2」(SW20)が一段とスポーティに生まれ変わり、ホンダ「CR-X」にVTECを搭載したSiR(EF8)が追加され、ラリーで活躍していたトヨタ「セリカGT-FOUR」(T180)がモデルチェンジしてより戦闘力を高め、日産「フェアレディZ」(Z32)は一気にモダンになった。

白眉は8代目スカイラインをベースに開発されたスカイラインGT-R(BNR32)だ。約16年ぶりに復活した第2世代GT-Rは1995年にBCNR33型、1999年にBNR34型へと進化するが、総生産台数はBNR32が4万3934台だったのに対し、BCNR33は1万6422台、BNR34は1万1345台で、BNR32スカイラインGT-Rの人気が圧倒的だったのだ。現在の人気ぶりも同様である。

BCNR33とBNR34は、BNR32をベースに時代進化分の技術を加えただけなので、突然あらわれたBNR32ほどのインパクトを感じにくい。元オーナーとしてバイアスのかかった発言を許してもらえば、第2世代GT-RのなかではBNR32が1番カッコイイと思う。

常識外れのスペックとカッコ良さが相まって、ベース車の倍近いプライスタグを付けていたにもかかわらず、BNR32 GT-Rは大人気を博した。30年経過しても魅力が色あせないのは、作り手の強い意志が当時最高・最強の技術となって実を結び、ひと目で高性能とわかる個性的なスキンの下に収まっているからだろう。

全日本ツーリングカー選手権を意識した仕様

BNR32 GT-Rは第1世代のGT-Rと同様、レースに参戦する車両のベース車として開発された。

BNR32の場合、基準車となったのは5ナンバー・サイズの8代目スカイラインである。1980年代前半、日産社内では「次世代の高性能4シーターは4WDであるべき」とする議論がなされていた。

当時、アウディ「クワトロ」がセンターデフ付きフルタイム4WDを引っ提げてWRC(世界ラリー選手権)を席巻していた。エンジンを高性能化していくと、駆動力の伝達が後輪だけではカバーしきれなくなる。足りない分はフロントで補うべきとの考えだった。

8代目のスカイライン開発の早い段階で、当時国内で人気を集めていた全日本ツーリングカー選手権への参戦が決まり、グループA規定でおこなわれていたこのシリーズを制するだけの性能を確保すべく、ベース車の仕様検討が実施された。

ベンチマークは当時最強だったフォード「シエラRS500」で、後輪を駆動する2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンは500psを発生すると伝わっていた。このシエラを圧倒するためには600psは必要で、かつこの大パワーを使い切るには4WDは欠かせないと判断されたのだ。

基準車のスカイラインは2.0リッター直列6気筒と1.8リッター直列4気筒のエンジン設定があった。スポーティな位置づけの「GTS-t」は、215psの最高出力を発生する2.0リッター直列6気筒ガソリン・ターボ(RB20DET)を積んでいた。

一方、GT-Rは専用に開発した2.6リッター直列6気筒ガソリン・ツインターボ(RB26DETT)を積んだ。最高出力は、当時存在した自主規制枠いっぱいの280ps/6800rpmを発生した。グループA仕様に仕立てた際には600psを発生するだけのポテンシャルが与えられていたのだ。

新開発の4WDシステム

500cc刻みで上がる日本の税制を考慮に入れた場合、排気量を増やすなら2.5リッターか3.0リッターにするのがセオリーだ。BNR32 GT-Rが2.6リッターの中途半端な排気量になったのは、グループA規定による。1.7のターボ係数を掛けたときに排気量4.5リッター以下のクラスに収めるのが狙いだった(2.6×1.7=4.42)。

開発当初はフォード・シエラとおなじ4.0リッター・クラスを狙って検討していたが(その場合、2.35リッターになる)、4WDシステムを搭載すると1180kgの最低重量をクリアするのが困難になるため、最低重量が1260kgになるひとつ上の排気量クラスを選択することにした。

4.5リッタークラスを選択すると最大タイヤ幅が1インチ(約2.5cm)増えるため、大きなパワーを接地面積の広いタイヤで負担することになる(しかも4輪に分散できる)。駆動力の伝達の面でメリットが生まれ、重量増を補って余りあるとの判断に至った。

太いタイヤを収めるため、GT-Rは前後のフェンダーを拡幅。基準車のGT-RはGTS-tの205/55R16に対し、225/50R16サイズのタイヤを装着した。エンジンの冷却性能を確保するため、フロントグリルとバンパーは開口部を拡大。このように、レースで勝つために必要な対策を施した結果、GT-Rは基準車をドーピングして鍛えたような(もちろん合法的に)、筋骨隆々のたくましい姿になった。

真骨頂は新開発した電子制御トルクスプリット4WDの「ATTESA(アテーサ)E-TS」である。トランスファーに組み込んだ油圧多板クラッチの押し付け力を変えることで、後輪駆動をベースにしながら、走行条件に応じて前輪に駆動力を配分するシステムだ。

百戦錬磨のドライバーたちは、「ラリーならともかくサーキットで4WDはどうなの?」と、疑問視していたが、いざ走り出してみると新しい4WDシステムの虜になった。コーナー進入時は前後輪の差動制限によって姿勢が安定し、立ち上がりは前輪が引っ張ることで抜群のトラクション性能を発揮したからだ。

BNR32スカイラインGT-Rは、1990年に実戦デビューした途端にシリーズを席巻。あまりに強すぎてライバルを失い、ついにはシリーズを消滅に追い込んだ。こうした伝説ならぬ実話が、BNR32 GT-Rの存在を神格化させた。

それに実際に運転してみると、GT-Rは基準車とはまったく違っていた。音も、加速も、制動も、シートの座り心地も、何もかもがスペシャルで、アイドリングしているだけで異次元のクルマであることを乗り手にひしひしと伝えてきた。

BNR32 GT-Rでしか味わえないこの独特の感覚も、普遍的な人気の理由だろう。

文・世良耕太

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みんなのコメント

10件
  • 嗚呼、100マン掛けて大体復調する個体が100マンで買えた時代はもう来ない・・・
  • 何が凄かった?

    もの凄い高級外車ならいざ知らず、国産車に445万円(前期型登場時の価格)もの金を出すって発想が、そもそも凄かった。だってAE92が150万で買えた時代だからね。

    そしてそんな高価な車なのに、4万3千台を超える数が売れているんだよ!
    そう考えると、何が凄いって、バブル景気ってのがもの凄かったんだな!



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