日産自動車の欧州部門はこのほど、「ジューク」をベースした1台かぎりのラリー仕様車、ジューク・ハイブリッド・ラリー・トリビュートを発表した。
同車は2021年6月、ダットサン240Zのアフリカ・サファリラリー優勝50周年を祝してレンダリングイメージが公開されていた。それが好評だったことから、今夏のジュークハイブリッドの欧州発売に合わせ、1台かぎりで実車化されることになったのだ。
日産のSUVならキックスよりこっち!? ジュークを日本導入すべき理由
ところが、この新型ジュークは日本導入のアナウンスがない。日本市場にも、現在欧州専売車となっているジュークを入れないのだろうか?
日産のコンパクトSUVといえばキックスがあるものの、筆者としてはキャラクターが異なり、棲み分けができているように見えるという。そこで今回、日本市場導入への熱いラブコールを送ってもらった!
文/清水草一
写真/日産ヨーロッパ
■Eテックハイブリッドを搭載する新型ジューク
『ジューク・ハイブリッド・ラリー・トリビュート』については、個人的には特にグッと来るものは感じない。新型フェアレディZがベースならともかく、かつての240Zとは似ても似つかない新型ジュークをラリー仕様に仕立て、しかも1台かぎりというのだから、あまりにもイメージも存在も遠すぎて、ピンとこない。
写真はジューク・ハイブリッド・ラリー・トリビュートとダットサン240Zラリー。SUVではあるが、ジュークは運動性能の高さを重点的にアピールしているようだ
しかし、新型ジュークについては、大いに気になっている。理由はただひとつ。新しいハイブリッドシステムを積んでいることだ。
新型ジュークに積まれたのは、日産得意のe-POWERではなく、ルノーと日産が共同で開発した「Eテックハイブリッド」。名前は似ているが、中身はまるで違う。
e-POWERはエンジンを発電専用とし、その電気を使ってモーターで走るシリーズハイブリッド。走行に関してはEVそのものなので、EVのような加速や強力な回生ブレーキが刺激的で、国内では非常に好評だ。
燃費ではパラレルハイブリッドのTHS(トヨタハイブリッドシステム)にかなわないが、走りの楽しさで上回ることで、ハイブリッド王国トヨタの牙城を切り崩すことに成功した。
■高速交通環境下に向いたハイブリッド
日本国内で乗っているかぎり、e-POWERに不満を感じることはまずない。高速巡行ではパワーも燃費も不利にはなるが、THSだって高速巡行はあまり得意とは言えない。低中速域での走りの面白さに徹したe-POWERは、しっかり一芸に秀でている。
だいたい日本では、高速道路の制限速度は70km/h(2車線対面通行区間)から100km/hで、それを超える区間は新東名の一部区間などわずかしかない。100km/hくらいまでなら、e-POWERの不利はほとんど問題にならず、むしろ一般道で力強いワンペダルドライブが楽しめるので、商品力は充分高い。
しかし、欧州ではそうはいかないという。欧州の高速道路は、フランス、イタリアなど主要国の多くが制限速度130km/h。ドイツのアウトバーンは総延長の約半分が速度無制限だ。一般道でも、制限速度100km/hという区間はかなり多い。
そんな高速交通環境下では、現在のe-POWERでは競争力がないと判断され、その部分をカバーすべく、ルノーは「Eテックハイブリッド」の開発を決定。アルカナやクリオに搭載して発売した。
一方、日産は新型キャシュカイ/エクストレイルに、パワーアップしたe-POWERターボを採用。欧州では従来型e-POWERは販売せず、ジュークにはEテックを搭載することになった。
■ドッグクラッチの量産車採用!
つまり、e-POWERのキックスは日本そのほか低速交通環境用で、欧州用のジュークとはっきり作り分けられるわけだ。ルノーはこのEテックハイブリッドを「ディーゼルの代替パワーユニット」と考えている。
と聞いても、日本人としてはややピンとこない部分があった。130km/h以上での高速巡行を得意とする低燃費のハイブリッドなんて、本当にあるのか? と。
スペックを見て、その疑念はますます高まった。Eテックハイブリッドのガソリンエンジンは、最高出力94hp/最大トルク148Nmの日産製1.6L直列4気筒。そこに日産製の駆動用モーター(49hp/205Nm)と、ルノー製のスタータージェネレーター(15kW)が組み合わされる。バッテリーは1.2kWhの水冷式だ。「水冷」はともかくとして、容量はキックスの1.47kWhを下回っている。
しかも、エンジンとモーターのパワー/トルクを合計すると、プリウスのソレと大差ない(スタータージェネレーターは動力源としては使用しない)。これで本当に高速巡行が得意なのか?
ルノーによると、キモはギアボックスにある。エンジン4段とモーター2段のギアを持ち、レーシングテクノロジー由来のドッグクラッチを使用して最適に制御する。なにしろドグクラッチだから滑りはゼロ。低速域ではモーター中心、高速域ではエンジン中心に駆動輪と直結する結果、パワーも燃費も現行のガソリンエンジン車に比べ、大幅アップを実現したという。
■数字で見るEテックハイブリッドの実力
このEテックハイブリッドを搭載したルノーアルカナと、日産キックスのWLTCモード燃費を比較してみよう。
●アルカナ
WLTCモード22.8km/L
市街地モード19.6km/L
郊外モード 24.1km/L
高速道路モード 23.5km/L
●キックス
WLTCモード 21.6km/L
市街地モード 26.8km/L
郊外モード 20.2km/L
高速道路モード 20.8km/L
確かにアルカナは郊外や高速道路モードが得意。さすがに市街地モードはキックスが上だが、総合でもアルカナはキックスをやや上回っている。サイズはアルカナのほうがひと回り大きく、重量もアルカナ(1470kg)のほうがキックス(1350kg)より重い。
それを考えると、Eテックハイブリッドの実力は本物かもしれない……。
■ダイレクト感のある痛快な加減速!
実際にアルカナに乗って見ると、その走りは衝撃だった。
写真はノーマルのジュークハイブリッド。Eテックハイブリッドは燃費の数値自体は驚くようなものではないが、「あの加速でこの燃費!?」という衝撃は充分あったとのこと
低速域ではほぼEVとして走り、加減速ともかなり痛快だ。さすがに「ほぼEV」のe-POWERには負けるが、遊星ギアを使ったTHSよりもはるかにダイレクト感があり、アクセルを踏み込めば、EV的な加速が味わえる。
そして高速域。これまたルノーの主張どおりだった。日産製の1.6Lエンジンは、ドグクラッチによって駆動輪に直結されている。パワーは94psなので大したことはないが、アクセルを踏み込めば4段ギアのキックダウンが行われるし、2段ギアを持つモーターのアシストもしっかり乗る。新東名の120km/h巡行中でも、アクセルを踏み込めばディーゼルターボのようにググッと加速してくれた。
それでいて、燃費もなかなか良好だ。平均して20km/L弱、新東名の120km/h区間で17km/L。数値自体は驚くようなものではないが、「あの加速でこの燃費!?」という衝撃は充分あった。
■国内導入してもバチは当たらないのでは?
アルカナと同じEテックハイブリッドを積んだジュークが日本に導入されれば、「欧州仕込みの高速型ハイブリッド」として、一部マニアにアピールできるのではないか?
サイズ的にはキックスと完全にバッティングするし、逆輸入ではコストが上昇するが国内生産するほど数が売れるか微妙……などなど、いろいろ難しい点はあるだろうが、ハイブリッドシステムが異なるので、棲み分けは可能なはず。
SUV市場は活況を呈していて、トヨタはSUVだけでフルラインナップを形成している。マツダも5車種あり、秋にはさらに1車種増える。対する日産はEVのアリアを数えなければ、キックスとエクストレイルのみ。
ここにEテックハイブリッドのジュークを加えもいいんじゃないか。それくらい国内市場にフンパツしてくれても、バチは当たらないのではないでしょうか……。
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みんなのコメント
ディーラーが売る車無い!って嘆いてたわ。