この記事をまとめると
■ホンダがインドから輸入販売するコンパクトSUVのWR-Vに中谷明彦さんが試乗した
海外製じゃん……とか色メガネで見るのはちょっと待て! 海外生産で国内販売される日本車はユーザーメリットを考えた結果だった
■1.5リッター直4DOHCエンジンは低速トルクが豊かでモーター付き車と比べても劣らない発進性の良さを感じた
■SUVデビューの第1歩にぴったりなパッケージングと走りに大ヒットの予感
見るからに実用性の高さを感じさせるコンパクトSUV
ホンダの最新型スポーツコンパクトSUV「WR-V」に試乗することができた。WR-Vはインドで生産され日本へ輸入されるモデルで、マイルドハイブリッドなどの電動化システムを一切持たない純ガソリンエンジン車として登場した。
車格的にはフィットやヴェゼルと似たような大きさだが、デザインやパッケージングなどはより実用性を重視した形になっている。
設計開発をタイのホンダが行い、インドの工場で生産、そこから日本へ輸入するという。グローバル戦略の一環として生み出されたモデルである。
パワーユニットには1.5リッターの排気量でi-VTEVCを採用。トランスミッションはCVTのみの設定である。これらはいずれもインドで製造され、従来のような日本の工場から部品を海外へ送って組み立てのみを現地で行うといったものとは異なり、部品調達から生産までを完全に現地で行うモデルとして成り立っている。
2650mmという長いホイールベースが設定され、競合と目されるトヨタのヤリスクロスよりひとまわり大きな印象を受けるが、ラジエターグリルを含めたボンネットの位置の高さや全体的なデザインの雰囲気がより大きさを誇張したような造形のためで、流行のシティクロスオーバー系SUV車よりもクロスカントリーSUVに近い印象を与えているのが面白い。
運転席へ乗り込むと、コンパクトカーとは思えない質感の高いダッシュボードにインストゥルメントパネルデザインが与えられているのがわかる。
メーター表示は液晶だが、コンベンショナルなスピードメーターとタコメーターによる表示であり、ダッシュボード上のセンターモニターにはナビゲーション機能はもたされていない。いわゆるApple CarPlayなどのスマホを活用することを想定とした設定で、そのぶんコストダウンに繋がっているともいえる。
エアコン系のスイッチも温度調節や風量調節などすべて物理スイッチで組み上げられており、ステアリングのスポーク部にあるACC(アダプティブクルーズコントロール)やメーター表示機能変更スイッチなども物理スイッチとなっていて、 直感で操作できるのがありがたい。
また、ステアリングにはチルトとテレスコピックのダブル調節機能が備わり、シートにはヒップポイントの高さを調整するハイトアジャスター機能も備わっているので、多くの人の体型に合わせることが可能だ。
後ろを振り返ると、後席の足もとに余裕があり広く見える。実際に座り込んでみると、コンパクトカークラスとは思えない広さが与えられている。「マン・マキシマム、メカ・ミニマム」のホンダポリシーが受け継がれた優れたパッケージング。
さらに、その後席の後ろにあるラゲッジスペースは458リットルという大容量であり、アッパークラスのSUV車よりも多くの荷物を積み込むことが可能となっている。後席シートバックは6対4の左右分割可倒式で、これを倒し込むとさらに大きなラゲッジスペースが得られ、実用性は相当高そうだ。
ただ左右前席の下は盛り上がっていて、後席に座っても足のつま先を送り入れることができない。これはセンタータンクのフィットやベゼルなどでは当たり前のことだが、じつはこのWR-Vはセンタータンクではなくリヤタンク方式。つまり、リヤシートの下に燃料タンクを配している。したがって、この前席シートの下の盛り上がりの中身はじつは空洞となっているという。
その理由は、フィットなどで使われるフロアを流用しているためだ。このクルマはフロント部分が同じインドで生産されている日本名旧グレイス、そしてリヤタンクまわりはインドネシアで生産されているモデルのものを流用。 ふたつのモデルを組み合わせたような形で開発されたことが理由となっているという。
また、駆動方式はFFのみで4輪駆動の設定はない。WR-V発表と同時に日本全国のユーザーやディーラーなどから好評を博しているというが、やはり雪国からは四輪駆動の設定を求める声が多くあったという。残念ながらいまのところ4WDモデルの実現は難しそうな印象だ。
195mmという最低地上高が与えられていて悪路走破性もまぁまぁ高まっているとはいえるが、雪道での坂道発進など、やはり雪国のドライバーにとっては4WDは必須だろう。メカニカルな4WDシステムを導入できれば、より受け入れやすくなるが、コスト的には高くなってしまうので、そこをどのようにユーザーが判断するかが気になるところだ。
ロードノイズも少なくしなやかな足まわりに好感
今回試乗したモデルは、WR-VのZグレードである。WR-Vには「Z+」という最上級グレードと「Z」、そして「X」というエントリーグレードの3タイプが設定されている。ちょうどその中間グレードであるZグレードに試乗したというわけだ。
試乗車の車両価格は235万円であり、最上級のZプラスより10万円安く、またXグレードはそれをさらに大きく下まわる208万円のプライスタグがつけられている。
さて、エンジンを始動して走り出してみよう。エンジンは1.5リッターの直4DOHCだ。近年は、電動化モデルのEVやハイブリッドモデルなど、モーター駆動あるいは電動アシストによってクルマを走らせることが多いので、純ガソリンエンジンのみの発進時はトルク特性に不足感が感じられるかと思ったが、WR-Vは低速トルクが豊かで電動モーター付き車と比べても勝るとも劣らない発進性のよさを感じ取ることができた。
CVTは、ステップ比が7段階に設定されていて、エンジンを7000回転の高回転までアクセル全開でまわすと7速ミッションのような使い方ができるというが、一般道の試乗においては、アクセル全開でエンジンを7000回転まで引っ張るような状況は起こり得ないので、そうした部分を確かめるにはサーキットなどにもち込むしかないが、WR-Vにはそうした試乗は必要ないだろう。
一般道で通常の流れに沿った走行においては、エンジン音が非常に静かで、シャシーのNVHにも優れ、また室内への遮音性も高く快適な乗り心地が得られていることがわかった。サスペンションのショックアブソーバーはSHOWA製だが、国内で売られているどのモデルよりもサスペンション設定がしなやかに感じられて好感が持てる。ロードノイズも少なく静かで快適な乗り味となっているのだ。
ステアリングはシングルピニオンの電動パワーアシスト機能で支えられており、直進安定性はパワステのアシスト力で高く保たれている。ステアリングのセンタリングも座りがよく、操舵力はやや重めだが手応えのしっかりした安心感のある走り味に仕上げられている。
ただ、路面に多少アンジュレーションがあったり、段差を通過するときなどはハンドルが勝手に切り込まれていったり、またセルフアライニングトルク(SAT)が減少したりして自力でステアリングを戻さなければいけない場面などが感じられた。
これはキャスター角が小さいために起きているのではないかと感じられたが、のちにエンジニアに確認したところ、やはりキャスター角が小さいとわかった。それはグレイスセダンのフロントまわりを流用しているため、衝突安全対応などによる位置決めなどからキャスター角を立てざるを得なかったというような返答があった。
ただ全般的にはフラットな路面で走っている限り、そうした癖は現れず、その辺りは今後さらに進化させられていくことと考えられる。また、大人4~5人が乗っていればリヤの車高が少し下がることで相対的なキャスター角が増えるので、その辺りのステアフィールもより自然なものと感じられるようになった。
一般道での試乗では全開走行や限界特性などは試しようがないが、電子制御系は基本的に国内のヴェゼルなどと同じようなものが備わっている。しかし、ホンダセンシングといわれる誤発進抑制制御や衝突被害軽減ブレーキなどは備わっているものの、アダプティブクルーズコントロールは30km/h以下になると自然に解除されるもので、これは電動パーキングブレーキを備えていないゆえ避けられない選択であったといえる。
電動パーキングブレーキにしなかった理由は、ホンダはかねてよりその電動パーキングブレーキの問題を抱えており、今回インドで生産される地域の要望なども含めてワイヤー式ハンドブレーキでコスト的にも抑えることが必要と判断されたようだ。
また、リヤブレーキはドラムブレーキであり、そういう意味では純ガソリンでハンドプルアップ式のハンドブレーキを備えたガソリンエンジン車としては最後の世代になるのではないかと思われる。
タイヤは17インチで215/55のサイズのブリヂストン・トランザが履かれていて、これもやはりインドで生産されたタイヤが装着されているという。全般的にインドの工場は設備も新しく、非常に清潔で製度の高い製造工程が組まれており、日本の工場生産のものと比べて劣っている部分はまったくないといえる。
個人的には4WDシステムを持たないSUV車はあまり好きにはなれないが、都市部のユーザー、非降雪地帯のユーザー、また初めてSUVに乗る人など、SUVデビューをする第1歩のきっかけとなるには非常に優れたパッケージングと走りで、また価格的な優位性も高く、かなりヒットすることは間違いないクルマに仕上がっているといえるだろう。
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みんなのコメント
見栄えと使い勝手に優れていてコスパが良い車は普通のユーザーには歓迎されるはず
ホンダは昔はこの手のニッチで手頃な車を得意としていたけどこれが復活の兆しになれば良いね
今の日本人が求めるのをほぼほぼ兼ね備えてるんじゃないかな。