最高デザイン責任者のトビアス・シュールマン氏が来日
マクラーレン・オートモーティブの最高デザイン責任者(CDO)に就任したトビアス・シュールマン氏。ブガッティやアストンマーティンなどでデザインを手がけてきた、カーデザイン界のビッグネームです。東京にやってきた彼にマクラーレンのデザインについて、自動車ライターの西川 淳氏がインタビューしました。
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スーパーカー&ラグジュアリーカーのデザインを知り尽くした男
マクラーレン・オートモーティブのデザイントップに新たなタレントが就いた。トビアス・シュールマン氏。当代カーデザイン界のビッグネームである。
おや? 最近どこかのデザイン責任者になったばかりだったのでは? そう思った貴方はカーデザイン界に通じていらっしゃる。そう、2023年2月にベントレーのデザイントップに就任したと報じられたばかりだった。
彼の経歴はなかなかのものだ。学生時代にインターンとして早くもPSA(当時)やメルセデス・ベンツで現場を経験。卒業後はフォルクスワーゲン・グループに入社しアドバンスデザインなどを手がけた。このときすでにランボルギーニやブガッティに関わっていた。
フォルクスワーゲン・グループで数々の市販モデルやコンセプトカー、『グランツーリスモ』(ゲーム)のデザインを手がけたのち、ブガッティのエクステリアデザインリーダーに就任。ここで初めてひとつのブランドの面倒だけをみることになった。
その後、アストンマーティンに移籍。ここでもエクステリアのトップとして「ヴァルハラ」や「ヴァンテージ」などを手がける。アストンマーティンをやめると自らのデザイン会社を興し、今度はマクラーレンとコラボ。『グランツーリスモ』から生まれた「ソーラスGT」の内外装をまとめた。ちょうどパンデミックの真っ只中だったが、それゆえマクラーレンの各分野における専門家たちとともに集中した仕事ができたという。それがマクラーレンとの出会いだった。
パンデミックが落ち着くと、前述したようにベントレーのデザインディレクターに就任。ところがマクラーレンからもオファーが届き、新たにトップとなっていた元フェラーリのマイケル・ライターズCEOと意気投合する。ブランドのポテンシャルやマイケルの目指す理想に共鳴し、マクラーレン入りを決意したのだった。
要するにトビアスはスーパーカー&ラグジュアリーカーのデザインを知り尽くした男、というわけだ。そして彼は就任後すぐにデザイン面での近未来戦略を発表した。マイケルがトビアスに語ったというブランドの理想像と深く関連することはいうまでもない。
マクラーレンはレースに勝つために生まれたブランド
その戦略の要諦はこうだ。モデルごとにはっきりと区別できる見た目の個性を与えると同時に、マクラーレンファミリーであることを明確に主張できるようデザインする。そのためにデザインのDNAを明らかにし、マクラーレンデザインの原理原則をまとめた。
大ファミリーの兄弟姉妹を思い浮かべてほしい。一卵性の双生児でなければ、それぞれの顔立ちには明らかな個性の違いがあって、けれども同じ両親を持つ一家の一員であることが分かるだろう。今後のマクラーレンは、今よりもずっとモデルシリーズごとの違いが明確になると同時に、裏を返せば、モデルの種類も増えるということだ。
「3億円以上するハイパーカーはそれらしく見えてほしいとオーナーは思うでしょうし、トラック性能に優れたモデルならいかにもサーキットが似合いそうな出で立ちに、GT性能重視であればそのような雰囲気に、それぞれデザインする必要があるのです」
と、トビアスはいう。
デザインbyパフォーマンスが全ての起点になる。要するにマクラーレンは“ためにするデザイン”は絶対にしない。まずはパフォーマンスが重要であり、デコレーションはしない。幸い、マクラーレン本社にはエンジニアはもちろん、レース部門、エアロダイナミクスやマテリアル、人間工学の専門家といったプロフェッショナルたちが、それこそ“まるで家族”のように1カ所に集まっている。デザイン部署だけでことを進めていい場所ではないし、最初から彼らを巻き込んで仕事ができる環境にある。それがマクラーレンの強みであり、トビアスが理想と感じた仕事の現場でもあるのだろう。
「マクラーレンはレースに勝つために生まれたブランド」
トビアスの語ったこのフレーズがすべてを物語っている。デザインのみならずマクラーレンの作るロードカーの真髄を表現する。
未来のハイパーカーデザインについて聞いてみた。
「マテリアルやエアロダイナミクスがさらに進んで、アクティブに変化するエクステリアデザインが主流になっていくでしょう」
彼のデザインする新たなマクラーレンを早く見てみたいものだ。
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