■根はひとりの「クルマ好き」 勝田選手とクルマとは
TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGRWRT)に所属している勝田貴元選手は、WRC(FIA世界ラリー選手権)での活躍が期待されています。
11月の開催が迫る2023年WRC最終戦「ラリージャパン」においても、日本人選手として注目の存在ですが、「ひとりのクルマ好き」であることはラリーファンや一般のクルマ好きと一緒です。勝田選手はクルマとどう向き合ってきたのでしょうか。
【画像】勝田選手の活躍がスゴい! ド迫力のラリー競技を画像で見る(34枚)
さまざまなモータースポーツがあるなかで、ラリー競技はもっとも過酷なもののひとつに数えられ、屈指の人気を誇っています。
その世界大会であるWRCで注目の的ともいえる選手が、トヨタのトップチーム TGRWRTに所属している愛知県長久手市出身のドライバー、勝田貴元選手です。
勝田選手は2015年にラリードライバーへと転向し、TGRラリーチャレンジプログラム(現:WRCチャレンジプログラム)の育成ドライバーとして経験を重ねたのち、2022年に12年ぶりの日本開催となったラリージャパンでは総合3位で表彰台に登りました。
2023年にはトヨタのトップチームへと昇格を果たし、シーズン第9戦「ラリー・フィンランド」では総合3位を獲得するなど、めざましい活躍を見せています。
そんな勝田選手ですが、根っこはひとりの「クルマ好き」。ラリーファンやクルマを趣味にしている人と芯は一緒だといえます。
「もともと、祖父(勝田照夫氏)がやっているチューニングショップがあり、物心がついたころからクルマがそばにありました。
なので、スポーツカーとか競技車両、ラリー競技は近くにあった環境で育ちました。本当に小さい頃からクルマは好きでした」(勝田選手)
国内ラリーのパイオニア的存在ともいえる祖父・勝田照夫氏と、全日本ラリー参戦経験のある父・勝田範彦氏を持つラリー一家に生まれ、クルマは身近だったようです。
では、最初に好きになったクルマは何だったのでしょうか。
「僕が小さい頃から好きだったクルマが『80スープラ』なんですよ。その理由が、祖父が乗っていたからです。
当時の感情までは覚えていないんですが、なんだかカッコいいと思って。そこから『スポーツカー=スープラ』みたいな。そういう考えでした」
当時の勝田選手はまだラリーを目指していたわけではなく、特段ラリーマシンが好きだったというわけではないようですが、すでに物心ついた頃からはクルマに興味を示していたようです。
では、運転免許を取得後、はじめての愛車とは何だったのでしょうか。
「もともと祖父のチューニングショップがあって、いろいろなクルマを借りていたのですが、自分で買ったクルマはスープラでした」
照夫氏のスープラを夢見て育った貴元少年は、自身のはじめての愛車として、念願のスープラを手に入れることができました。
「今の愛車は『GRヤリス』ですが、今はフィンランドに住んでいるので、ディーラーさんから提供していただいている『RAV4』に乗っています」
現在、GRヤリスに乗っているという勝田選手のSNSにはときどき、日本国内で所有している愛車の写真が投稿されています。
日本に帰国した際には、愛車のGRヤリスでドライブに行くこともあるといいます。
■普段の運転でラリーの「クセ」が出る?
ひとりの「クルマ好き」な勝田選手ですが、近年は活躍の場も広げており、実際にSSを走行してタイムを競うほかにもトレーニング走行など、日常でラリーマシンに乗る機会もかなり多いようです。
そんななかで、ラリーマシンのハンドルを握らない普段の運転時に「ラリーのクセ」は出てしまうものなのでしょうか。
「(21歳のF3まで)レースを走ってた時のクセとしては、車線をはみ出さないようにアウトインアウトするみたいなことはありました」
勝田選手は2015年にラリーに転向。それまではカートやF3などに出場しており、その時からすでに普段レース以外でクルマに乗る際に「クセ」が出ていたといいます。
「ラリーになってからは、もっと変なところに目が行くようになって。例えばここ滑りやすそうだなとか。
走行したら絶対ブレーキ滑るだろうなとか、ここヤバそうだなっていうのはすごく見ちゃいます」
ラリー競技ではサーキットでのレースとは異なり、未舗装路や雪道などの滑りやすい路面や岩などの障害物、ジャンプといったさまざまな状態の路面を走行します。
常にハイスピードで未舗装路を駆け抜けるため、クラッシュやマシンにダメージが加わるリスクがあることを想定して走行しなければなりません。
そうした注意を常に払っているため、日常でも路面の状態は気にしてしまうクセがあるといいます。では、舗装路では安心できるのでしょうか。
「舗装って(同じ道路でも場所によって)結構違うんですよ。
ラリーになってからはそれを理解するようになったんですけど、同じ国でもいろんな舗装があって、日本のなかでもこの舗装は滑るな、グリップするな、とか全然違うんです」
舗装路だからとはいえ安心できるわけではなく、日頃の運転でもラリーの感覚が抜けないようで、このあたりの感覚は普通の「クルマ好き」とは異なる視点で、職業柄ともいえるでしょう。
では、ラリーマシンと一般のクルマでは、どのような違いを感じるのでしょうか。
「僕が乗っているRally 1のマシンやその1クラス下のRally 2カテゴリのクルマでは、サスペンションのテクノロジーがすごいんですよ。
ちょっとした段差なんか全く感じないので、めっちゃ乗り心地いいな、どこでも走れちゃうなって思います」
ラリーマシンでは路面の状態に応じてサスペンションのセッティングを変更しています。舗装路では硬めのセッティングで、硬さを感じるといいますが、悪路では衝撃を吸収できるように柔らかめのセッティングになっているのです。
「このサスペンションがすべてのクルマにあったらなとか考えちゃいますね。
逆に暑さは気になります。エアコンもないので、そこは不便に感じます」
ラリーマシンでは遮音材はもちろん、エアコンなどの快適装備は不要なため、装備されていません。悪路では乗り心地のよいサスペンションを装備する反面、砂漠地帯のコースを走行するときは、どうしても暑さは感じるようです。
■クルマ好きとして・プロとして伝えたいことは?
11月16日からはWRC最終戦のラリージャパンが開催されます。
昨年同様、愛知県・岐阜県を舞台にコースが設定されますが「クルマ好きな勝田選手」として伝えたいことがあるといいます。
「シンプルに『クルマってこんなにカッコいいんだよ』って伝えたいですね。
クルマを作るためにこれだけのメカニックやエンジニアの人が関わっているんだよというのを現地で見てほしいなと思います」
ラリー走行だけでなく、モータースポーツではドライバーひとりで成立するものではなく、最高のパフォーマンスを発揮できるようにクルマを開発するエンジニアや、いかなるトラブルが発生しても慌てずに対処するメカニックにより支えられています。
さらに、モータースポーツで培われた技術はそのまま量販車に活かされることも多くあります。
勝田選手はクルマが好きなぶん、ラリーを通じてこうした背景についても伝えたいという気持ちが強いようです。
また、ラリーを通じて安全に走行することについても考えて欲しいといいます。
「ラリーカーって全開で狭い山道を走っているときもあれば、公道を一般車に混じって走っているときもあったり。そのときは交通ルールをもちろん守ってますし、その切り替えというかギャップを見てもらいたいなと思います。
運転手がどう扱うかで安全で楽しい乗り物になるときもあれば、逆に凶器にもなるっていうことを理解しなくちゃいけないんです。
それって競技に関係なくすごく重要なことなので、モータースポーツを通じて安全運転についてもつなげていければと思います」
幼少期から「クルマ好き」として過ごしてきた勝田選手。その側面は変わることはありませんが、トップドライバーとして次なる活躍が期待されています。
次の舞台は日本となり、「クルマ好き」として伝えたいメッセージとともに表彰台を目指します。
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