2018レースカーから探るSTIの先端技術 Vol.12
4月7日、8日に開幕したスーパーGT選手権で、SUBARU BRZ GT300のセットアップを取材してきた。エンジン制御、空力のセット、サスペンションなど、本番の決勝レースではどのような仕様で戦ったのかお伝えしよう。<レポート:編集部>
スーパーGT2018富士スピードウエイ公式テスト すべてのベストパフォーマンスを探し求めていく難しさと面白さ BRZ GT300
レースに先立ち主催者のGTAから、開幕戦でのBoP(性能調整)のデータが公開された。SUBARU BRZ GT300に対する性能調整は、今季からエア・リストリクターから過給圧制御へと変更されたことは既にお伝えしている。だが、具体的な数値は今回初めて目にするものだった。
また、言うまでもないがGT300クラスでは、JAF-GTやFIA-GT3の混走であり、それぞれに対して性能調整が指定されている。そのJAF-GT300 クラスのスバルだが、車両最低重量は1150kg、性能調整としてのハンデウエイトは0kgとなった。また、過給圧制限による性能調整により、エア・リストリクターは吸気ファンネルとしての役目の45mmのサイズを1個、装着することになっている。ちなみに、昨年のリストリクターによる吸気制限では42.15mmのリストリクター装着していた。
そして、BRZに課せられた指定過給圧は4750prmから7250pmまでの範囲で250rpm刻みで過給圧が決められている。最大で4.11bar、最小で2.53barの中で、各回転でのブーストが決められているわけだ。一方GT3レギュレーションのマシンはおおむね2.0bar前後の過給圧で制御されるが、これは排気量がGT3と比較して約半分の2.0LしかないBRZには、過給圧を上げることで均衡するように計算されたものというのがわかる。
この決められた過給圧に関し、レース中50msec以内で指定過給圧を抑える必要があり、タイヤの空転、シフトアップ時などに起こるオーバーシュートには最大の配慮が必要となるわけだ。
この過給圧の数値は開催地の標高とレースウイークの気圧によって補正もする必要がある。基本の数値は1010mbar時の絶対値であり、レースウイークにGTAから現地の大気圧が発表される。その数値に対して補正したものが過給圧としてレースで採用されることになる。
開幕戦の岡山では985hpaと発表されているので、標準大気状態に対し約3%ほどの大気補正が必要になる。例えば、4750rpmの最大過給圧が過給圧規程上4.11barとなっているので、3%大気補正を行うと最大過給圧が3.9barあたりの数値でレース本番を戦うことになる。ちなみに、過給圧制限の適応範囲は、空燃比は0.92(AirFuelRatio=13.52)以下の範囲と指定されていることも付け加えておく。
こうしてみると、BRZはこの過給圧に頼る部分が大きく感じる。排気量の絶対値の少なさを補うものは、過給圧であり、GTAから発表される大気圧が低い場合、決勝日が高気圧となると、この先、天候のハンデというものも存在してくるのかもしれない。
■マシンの潜在能力の高さを示す
開幕戦でのセットアップでは、エンジンは上記のスペックに性能調整用のプログラムを組んだECUを搭載し、ハードとしてはvol7でお伝えした2018年仕様のエンジンが搭載されている。
※参考:2018 STIマシンのエンジン、トランスミッションはどうなってるの?
一方トランスミッションのギヤ比は、3月の岡山テストで行なった最終仕様のギヤ比を搭載している。具体的には、Wヘアピンなどでシフトアップしなければならないようなギヤ比を変え、一つのギヤでクリアできるようなセットにすることで、全体のつながりをよくしたギヤセットということになる。
開発当初からのマシンコンセプト変更があり、つまりストレートでの車速の伸びを良くする低ドラッグのマシン造りで、岡山のようなテクニカルでもあり、高速でもあるコースはエアロとシャシのベストセッティングが難しい。決勝前までに何度か走行できる機会があるが、チームは、さまざまな空力、サスペンションセットをテストしていた。
そしてタイヤだ。前回の富士スピードウエイでの公式テストで、ロングランがテストできていたものの、岡山ではマシントラブルもあり、ロングランができていなかった。さらに、岡山の路面はミューが低いようで、富士のデータとは全く異なっていることもタイヤチョイスを難しくしている。
レースウイークは全体的に低温が続いたため、準備しているタイヤの中でもっともソフトコンパウンドを採用したタイヤでセットアップしていたようだ。
最終的には予選Q1セッションで4位を獲得したタイヤ、エアロ、サスペンションのセットで決勝レースを走ることにしている。フロントのカナードは2枚にして、フロントのグリップを確保する。インナーフェンダーは外気温が低いこともあり冷却し過ぎないように蓋をした状態にセット。リヤウイングは16年仕様のウイングを装着して挑んでいる。
全体的には17年より低ドラッグにはなっているものの、最もハイスピード用のセットよりはダウンフォースが得られるようなバランスした組み合わせということになるだろう。
■ハイスピード仕様もテストしていた
実は、決勝レース前のウオームアップ走行で、ハイスピード仕様もテストしていた。しかしテスト結果としてはドライバーコメントと本レースのラップ数によるタイヤの性能低下を考慮し、結果、予選Q1セッション走行時の仕様に戻すことになったのだ。
この時のハイスピード仕様とは、カナードを1枚にする、リヤウイングを寝かせるなどの空力変更のほかに、ダンパーを硬めに、デフのイニシャルトルクを上げるなど積極的にタイヤ荷重がかかる方向でセットアップしている。だが、逆にタイヤへのダメージが大きく、レース本番のロングディスタンスになると、タイヤが持たないだろう、という判断でQ1仕様に戻したということだ。
開幕戦で見えたパフォーマンスとしてはパワートレーンに対する信頼度のアップがある。18年仕様のエンジン本体も全く問題なく走破し、BoPプログラムも正常に作動している。そしてつながりのよいギヤ比を手に入れていることがわかる。
そして空力とタイヤへの荷重のかけ方、ドライバーにとってのドライバビリティという部分は、レースごとにセットを変えるために、毎回ベストマッチを探していくということになるのだろう。
今回は終盤、マシントラブルでレースは18位で完走という結果だ。タイヤへの荷重不足なのか、ブレーキ容量不足になったのか、詳細はこれから究明される。
次戦は富士スピードウエイで開催される。そして4月中旬に鈴鹿で公式テストも行なわれる予定だ。これまでのところ、ブレーキ本体のチューニングがパーツ供給の点で遅れている。開幕戦では17年仕様と同一で、ブレーキの厳しいコースでは不安のある部分でもある。ローターやキャリパーの大径化で進めているものの、次回の鈴鹿テストでは装着されると予想される。
そして高速仕様としながらも、いかにタイヤ荷重を綺麗にかけドライバビリティを上げていくかという課題に取り組むことになる。富士スピードウエイは、ご存知のように、開催サーキット中、もっとも最高速の出るコースでもあり、特に低速エリアといわれる第3セクターでも、GT300 マシンになると150~180km/hでコーナリングしているわけで、十分高速コーナーなわけだ。しかも逆バンク形状となっている箇所もあり、タイヤ荷重が重要なポイントになる。
BRZはこの第3セクターをもっとも得意とする、というのがこれまでだった。18年仕様もそのパフォーマンスは残しつつ、ストレートではスリップに入れるレベルのトップスピードが欲しい。次戦に期待したい。
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*取材協力:SUBARU TECNICA INTERNATIONAL
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