1992年に登場したホンダのロードスポーツバイク「NR」を田中誠司が振り返る!
520万円のNR
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古今東西、世界でさまざまな超高性能車、超高額車が生み出されてきたが、本当にそのモデルにしか備わらない唯一の独自技術をもつ市販車というのは、実はそう多くない。
1991の年東京モーターショーでデビューを飾ったホンダ「NR」は数少ない例外のひとつで、750ccクラスのこのバイクには「オーバル(楕円)ピストン」が搭載されていた。
ご存知のとおり普通の内燃機関のピストンは正円形である。混合気でシリンダーを満たし真ん中に火花を散らせば燃焼により周囲に均等に力がくわわる。シンプルだ。しかしこれをあえて楕円(正規楕円包絡線)とすることで、それまでの常識を超えるエンジン・パフォーマンスを実現できるのだ。
ホンダは世界唯一のオーバルピストンエンジンをコアに、あらゆる部分で最新・最高峰の技術をNRに投入、結果として価格は国内仕様が520万円、海外向けが約800万円という、当時としては超・異例の高価格となった。
このころ、日本ではウィンカーなどの保安部品を外せばそのまま本格的なレースに出られるような高性能レーサーレプリカが60~80万円で販売されており、それらと比較するとNRは飛躍的に高額なように思われた。しかし、それはホンダの歴史的なコダワリをすべて凝縮した結果だったのである。
革新的な技術で挑むも結果は……
1960年代初頭の二輪世界グランプリを席巻したホンダは、4輪車の量産開発に専念するとして1967年限りでワークス活動を停止する。彼らがふたたびチャンピオンシップのトップカテゴリーである500ccクラスに戻ってきたのは暦がひとまわりした1979年。当時のグランプリは2ストロークエンジンに席巻されていたが、ホンダはあえて4ストロークでの参戦を宣言、同時に持ち込まれたのが楕円(当初は長円形)ピストン技術であった。
2ストロークはピストンが1往復するごとに燃料を燃焼させる方式で、構造が簡単で軽く、小さな排気量でもパワーを出しやすい。しかしエンジンオイルが燃料と一緒に燃えて排出されたり、燃料自体がシリンダーを通り抜けてしまったりすることが避けられないため、燃費や環境対策で問題が指摘されていた。
このため乗用車の世界では過去の技術となっていた2ストロークであるが、世界GPでは前述した利点を活かしてむしろ1970年代中盤から主流となっており、当時のルールでは4ストロークも同じ排気量・気筒数で競わなければならなかった。2ストローク500ccマシーンに4ストローク500ccで対抗するには、最高回転数2万rpmに到達する必要があった。
高回転化のカギは吸排気バルブの面積を拡大しつつショートストローク化し、とにかく大量の混合気を早く燃やすことだ。そのためには1気筒あたり8本のバルブが必要と判断されたが、これを実現するには常識的な正円形ピストンでは対応できないことがわかっていた。
ある日、ホンダの技術者がひらめいたのがピストンを小判のような長円形とするアイデアだ。これなら片側に吸気バルブを4本、反対側に排気バルブを4本置くレイアウトが可能になる。テストの結果は上々で、パワートレインをカセット式に脱着できる革新的なモノコック式アルミシャシーと組み合わせ、「NR500」としてグランプリ復帰を発表した。ライダーには1977年世界選手権350ccクラスでチャンピオンを獲得した日本人、片山敬済が起用された。
謎のマシンでグランプリのトップカテゴリーに戻った元王者であるホンダは世界中から注目されたが、成績のほうは鳴かず飛ばず。超高回転域を常用するため信頼性・耐久性に難があるうえパワーも不足し、シャシーも未成熟だったことから、ポイントすら獲得できない4年間を過ごし、1982年には2ストローク3気筒エンジンを搭載した「NS500」に主役の座を譲る。
片山がレーサーとしてもっとも脂の乗った時期を棒に振ったことは、日本のレース界にとって残念な結果でもあった。翌1983年にはNSがフレディ・スペンサーの手によりあっさりチャンピオンを獲得してしまったことからも、ホンダのこだわりが裏目に出たことは明白であった。
高価な素材をふんだんに使用
しかしながらホンダは楕円ピストンエンジンをあきらめていなかった。むしろ“業界を塗り替える革新技術の開発”を旗印に、楕円ピストンを含む先進技術を満載し「ダイナミック&エレガント」な究極の市販モーターサイクルとして、NRの開発が推進されたのである。
V型4気筒748ccエンジンは気筒あたり8本のバルブ、ふたつのコンロッドとスパークプラグを備え、16ビット高速制御の燃料噴射システムが投入された。いままでにない細長い燃焼室が生むトルク特性は、レースベース車であるホンダ「VFR750R(RC30)」より14%も短い超ショートストロークであるにもかかわらず、きわめて幅広いパワーバンドを有し、排気音はV型8気筒エンジンを思わせる歯切れの良さだったという。
最高出力はフルパワーの海外向けでは最高出力130ps/14000rpm、最大トルク71Nm/11500rpmに達したが、国内向けでは自工会自主規制に則り77ps/11500rpmと53Nm/9000rpmに抑えられた。数字から想像するように両者を走らせて感じられる差は小さくなかったようだが、エンジン本体に構造・設計の違いはなく、吸排気系や燃料噴射のセッティングで出力を変えていたという。
車体には、レーシングマシンと同様、押出成形材に鍛造部品を溶接で組み合わせたアルミ製ツインチューブフレームを採用したが、絶対的な高剛性ではなくしなやかな変形具合でエレガントな操縦性とすることが目標とされた。上下非対称構造の片持ち式スウィングアームや、倒立式フロントフォーク、マグネシウム合金製ホイールなど高価な部品が惜しみなく投入され、隅々までバフがけされたアルミフレームなど、各部のクオリティにも万全を期した。
シャシーを包むフェアリングは、コンピューター解析や風洞実験でゼロリフトを達成した形状で、素材は手作りで張られたカーボンFRP製。NR独自の特別な存在感を生み出すべく、彩度の高い蛍光レッドの特殊塗装で包んだ。この塗装の原液が1kgあたり70万円だったというから驚く。
生産コストの話題でいうと、高精度が求められる楕円ピストンは1品ずつNC工法で製造しなければならないため、正円形ピストンの60倍の加工費を要したという。同様に楕円となるシリンダーの加工のため専用の機械が導入され、ピストンリングもシールの難しさをカバーするエキスパンダー付きの特殊品、さらに8本のバルブとコンロッドはすべてチタン製であるなど、NRの開発・生産には途方もない費用が注ぎ込まれていた。
当初300万円だった目標販売価格には到底収まらなくなり、折からのバブル崩壊によってNRは発売計画じたいが危ぶまれたが、プロジェクトが継続されたのは当時本田技術研究所専務で、のちに社長としてホンダ本体を率いる福井威夫氏のリーダーシップゆえだったといわれている。
実際、これまで例のないほど公道用モーターサイクルとしては高価なNRの販売実績は、限定生産ではなかったものの決して芳しくなかったという。
しかしこのNRの登場によって、ホンダがスケールとか野心とか技術力といった点において、世界の二輪メーカーの中で突出した存在であることを、多くのモーターサイクルファンは印象づけられたに違いない。当時ティーンエイジャーだった筆者には、およそ30年経ったいまも尊敬の念が消えずに残っているのだから。
文・田中誠司
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