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世界最大級の自動車図書館が凄すぎた 個人所蔵の貴重なコレクションに圧倒

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世界最大級の自動車図書館が凄すぎた 個人所蔵の貴重なコレクションに圧倒

世界有数の規模 個人宅の自動車図書館

英AUTOCAR編集部にE・ディーン・バトラーという読者からメールが届いた。彼は126年の歴史を持つ英国版『AUTOCAR』誌を創刊号からすべてコレクションしているというのだ。これが全刊揃ったものは世界に6セットしか残っていないとのこと。

【画像】マニア垂涎の個人図書館【E・ディーン・バトラー氏のアーカイブの写真を見る】 全16枚

筆者は、バトラー氏が126年分の『AUTOCAR』の重みで床が沈んだ、セミデタッチドハウスか何かに住んでいる姿を想像していた。しかし、実際は全く違っていた。我らがバトラー氏の自動車雑誌コレクションは弊誌AUTOCARだけにとどまらず、1万5千冊にも及ぶことが判明したのだ。

『Motor Sport』誌の全巻、ロシアの自動車雑誌、『Auto Motor Und Sport』誌などなど、世界でも有数の自動車雑誌コレクションである。これは是非とも見に行かなければならない。こうして、筆者の仕事人生の中で、最も楽しい1日が始まった。

ディーン・バトラー氏は、セミデタッチドハウスではなく、英ウェスト・ミッドランズ州の人里離れた場所にある、エリザベス様式の大きな屋敷に住んでいる。ペンシルベニア生まれのバトラー氏は、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社に就職し、化学の学位を取ったが、マーケティングに向いていることに気付いた。数年後、彼は眼鏡の大手メーカー、レンズクラフターズ(LensCrafters)社を設立し、それを売却した後、英国に渡りビジョンエクスプレス(Vision Express)社を設立した。

「それ以来、ずっとここに滞在しています」と、彼は言う。

バトラー氏は、筆者が乗ってきたイエローの2021年型マスタング・マッハ1を褒めてくれた。そして、アーカイブに案内する前に、わずか25台しか製造されなかった1968年型シボレー・カマロZ28のホモロゲーションスペシャルを見せてくれたのだ。

「わたしが若かった1960年代、クルマがどんな音を出していたのか、聴いてみてください」とバトラー氏。現在76歳の彼が16歳のときから所有しているMG TDより、ちょっと愉快な音を聴かせてくれる。

クルマのコレクションは、フラットヘッドのフォードV8を搭載したスリングショット・ドラッグスター、ダッジ・ラムV10、ジャガーDタイプのレプリカ、ビュイック・グランドナショナル(V6ターボ搭載車)など、まだまだある。別のガレージには、グラハム・ヒルが初めて乗ったIROC(International Race of Champions)のカマロが数台並んでいる。

アーカイブに案内してもらうと、筆者は誤解していたことに気付いた。バトラー氏は、雑誌だけでなく書籍も膨大なコレクションを揃えている。個人所有としては、世界でも有数の自動車図書館に違いない。

「フロリダのコリアー・コレクションの方が大きいと思います。でも、わたししか持っていないものもありますね」とバトラー氏は言う。筆者に素晴らしい1日になりつつある理由の1つは、彼がアイテムの希少性や価値を自慢しないことである。そこには、歴史的な作品に対する純粋な情熱がある。

貴重なコレクションの数々 バトラー氏の情熱

インディ500のプログラムも、初開催時のものからすべて持っている。例えば、1907年にブルックランズで初めて開催されたレースのプログラム。そして、1909年にインディアナポリスで開催された第1回大会のプログラムも、同じように彼の手元にある。

雑誌の話に戻すと、バトラー氏のお気に入りは『La Vie Automobile』誌だ。彼いわく、「1904年から1956年まで発行されたもので、わたしが気に入っているのは、第1号から最後まで同じ人が編集していることです。ゼネラルモーターズの図書館で購入したものです」とのこと。

筆者を感動させたのは、『Hot Rod』誌の全巻セットだ。「すごい」と思わず声が出る。「グレイ・バスカヴィルが初めてこの雑誌に寄稿したころのものですね」

バトラー氏は筆者のホットロッド愛に気付いたのか、著名な米国の実業家エド・イスケンデリアン(ホットロッダーでチューナー)が制作したカタログと、初期のSo-Cal Speedshop社のパンフレットを取り出した。心臓の高鳴りが抑えられない。

筆者は1970年代後半から『Car and Driver』誌を時々購読しているが、当然のことながら、バトラー氏は全巻持っている。この雑誌は、1961年に編集者のカール・ルドヴィクセン(自動車ジャーナリスト)が誌名を変更するまで、『Sports Cars Illustrated』として刊行されていた。当然ながら、ルドヴィグセンの書籍『Porsche: Excellence Was Expected』も同じ棚に並んでいる。「わたしが初めて買ったクルマの本はMG Tシリーズのもので、偶然にもカールが書いた最初の本でした」とバトラー氏。

フェラーリのセクションには筆者が執筆した書籍『Ferrari Racing: A Pictorial History』も置かれていたが、サインして価値が上がる代物ではないだろう。

宇宙飛行士にレーサー 著名人のサインも多数

時々、フラットヘッド・フォードV8のエーデルブロック(シリンダーヘッドカバー)やミラー・キャブレターのようなオブジェで棚が埋まっていることがある。(バトラー氏は、2台しか製造されなかった幻の4輪駆動インディレーサー、1932年製ミラーFWDを所有している)。

「グッドウッド・トンを見たことがありますか?」と、バトラー氏は小さなピラミッド型の重りのようなオブジェを渡しながら尋ねた。「グッドウッドで160km/hを達成したドライバーに贈られるんです」

これには驚いた。これは1964年に当時レーサー、マイク・ヘイルウッドに贈られたものだ。

ペースは落ちない。続いて『Sports Cars of the World』という本を手渡される。その見返しには、こう刻まれている。「ディーンによろしく、ニール・アームストロング」……彼はオハイオの隣人だったという。

バトラー氏は特にサインを集めているわけではないのだが、アーカイブにはいいものがたくさんある。バトラー氏は、これまでに所有しレースに出場した数十台の中で、ルイ・シロンがかつて出走したブガッティT51が一番好きだという。エットーレ・ブガッティの生誕100年を祝うイベントのプログラムには、ブガッティを代表する人物であるルイ・ブレリオとエリザベス・ユネック(別名:エリシュカ・ユンコヴァー)の署名がある。

ユネックはブガッティのドライバーで、史上最高の女性ドライバーの1人であり、タツィオ・ヌヴォラーリを真っ向から打ち負かした人物である。そんな彼女が書いた料理本も見せてもらった。「ユネックが書いたチェコの料理本です。ここにある唯一の料理本ですが、どうしても欲しかったんですよ」

伝記はあまりないようだ、と筆者が指摘すると、「別室で」とバトラー氏。そこには確かに、レースや自動車業界の伝記がずらりと並んでいる。筆者自身が持つコレクションも悪くはないと思うのだが、バトラー氏は筆者の1000倍は持っている。例えば、フランソワ・セベールの分厚い伝記もあるが、英語ではなくフランス語で書かれたものだ。

クルマ好きが憧れる「知」と「歴史」の宝庫

バトラー氏は、午後3時からオンラインビジネス会議があるとのことで、残念ながらここで解散となった。一週間前に教えてくれたので、筆者を追い払うための策略ではない。もしその会議がなかったら、筆者は永遠にここに留まることになる。

どこを見ても、新しい発見がある。ブレリオの写真を含む、航空史初期の写真集。キャプションなしの未発表のもの。宝物の山だ。バトラー氏の奥様はロシア人で、眼科医(彼女の専門を表す長い単語があるのだが、Googleも筆者もそのスペルがわからない)であり、レーザー眼科手術のパイオニアの1人である。彼女の父親は、1960年代にロシアの宇宙開発計画の電気主任技術者だった。言うまでもなく、バトラー氏はロシアのモータースポーツや航空関係の本をたくさん持っている。

なんという日だろう、なんという愛好家だろう、なんという素晴らしいコレクションだろう。

彼が亡くなったとき、この貴重なアーカイブはどうなるのだろうか?失礼を承知で尋ねると、「いい質問です」と答えてくれた。「アーカイブを売るのはとても難しいんです。このアーカイブの行き着く先をどうするか、それが問題になるでしょう」

1つだけ確かなのは、もしまた英国でロックダウンが実施されたり、10日以上自己隔離しなければならなくなったら、筆者はここに向かうということだ。寝袋とともに閉じ込もり、もしそれでバトラー氏が困らないなら、一日に何度かドアの下からサンドイッチの皿を忍ばせてくれるだけでいい。人生をかけてもいいと思えるようなものが、この塀の中にある。気取った言い方かもしれないが、筆者のライフワークがそこにある。

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