常に冷静な判断で獲得した2位表彰台、ファンに届けたかった優勝ならず
MotoGP第16戦日本GPのMoto2クラス決勝レースは、雨に翻弄されました。予定通り12時15分過ぎにスタートすると、先頭集団が5コーナーに差し掛かる前に雨粒が落ちてきたことを知らせるレッドクロスのフラッグが振られました。コース後半はより雨粒が多く落ちており、赤旗が提示されてレースは中断となりました。
【世界に挑む日本人ライダーの足跡】小椋藍選手の言葉の真意。「バイクに乗るのは好き。でも、レースは……」
全ライダーがピットに戻り、約10分の中断を経て、レースは12周で再開となります。
ここで分かれたのが、タイヤ選択です。多くのライダーはレインタイヤをチョイス。しかし、8名のライダーはスリックタイヤ(フロント、リアともにソフトタイヤ)、つまりドライコンディションを走る溝の無いタイヤを選択したのです。
この8名の中の1人が、チャンピオンシップリーダーとして母国グランプリに臨んでいた小椋藍選手(MTヘルメット – MSI)でした。
小椋選手自身、スリックタイヤとレインタイヤ、どちらを選ぶべきか迷いがありました。そのため、「チーム内で一番自信がある人を信じた」そうです。それは、クルーチーフのノーマン・ランクさんでした。
ランクさんは、2017年に小椋選手がFIM CEVレプソルMoto3ジュニア世界選手権(現在のFIMジュニアGP世界選手権)に参戦した当時から組んでおり、小椋選手が今季、イデミツ・ホンダ・チームアジアからMTヘルメット – MSIに移籍したときも共にチームを移籍したクルーチーフで、小椋選手が厚い信頼を寄せています。
レース後にランクさんに話を聞いたところ、「私はもっと濡れていなければ、ウエットタイヤで走り抜くのは不可能だ、と言ったんだ。私たちは42ポイントのギャップがある。失うとしても、おそらく20ポイントだろう。だからスリックで行こう、とね」と判断の根拠を述べていました。
もちろん、状況は複雑でした。小椋選手のチームメイトで、チャンピオンシップのランキング2番手につけるセルジオ・ガルシア選手(MTヘルメット – MSI)は、レインタイヤを選択しているのです。ガルシア選手もクルーチーフと共にタイヤを決めています。
小椋選手は、ガルシア選手や8名を除く多くのライダーがレインタイヤを履いているのを見て、さすがに心配になったそうです。ただ、グリッドにつくまでのウオームアップ・ラップで、ブーツを地面に擦り付けて路面状況を確かめ「これなら雨がやんだ瞬間に攻められる。1周目だけ抑えて走れば、とりあえず大丈夫だな」とも冷静に考えていました。
結果的に、スリックタイヤの選択は正解でした。小椋選手は9番手から落ち着いてスタートを決めると、後方へ下がり、その後、14番手から追撃を開始します。
ペースは明らかにスリックタイヤを履いた小椋選手の方が良く、3周目の時点で、それまでトップを走っていたレインタイヤ勢のジェイク・ディクソン選手(CFMOTO Inde・アスパー・チーム)が1分58秒654だったのに対し、スリックタイヤを履く小椋選手のラップタイムは1分56秒681で、1周あたり2秒ものラップタイム差がある状況だったのです。
その後もレインタイヤ勢が1分57秒から58秒台で周回するのに対し、小椋選手をはじめとするスリックタイヤ勢は1分51秒台。スリックタイヤで走る路面状況であることは間違いありませんでした。
このため、優勝争いは、やはり後方から追い上げてきたスリックタイヤ勢、マヌエル・ゴンザレス選手(QJMOTOR・グレシーニ・Moto2)とのバトルとなりました。3周目にトップに立った小椋選手は9週目にゴンザレスにかわされたものの、2位でチェッカーを受けて、母国グランプリで表彰台を獲得したのです。
「レースについてはハッピー。僕にスリックタイヤで行くように後押ししてくれたので、チームにありがとうと言いたいですね。タイヤ選択は正しかったです。ただ、チャンピオンシップとしてはハッピーですが、レースについてはあまり嬉しくはないですね」
レース後の会見で、小椋選手は複雑な胸中を吐露していました。
「リスクは負えないんですけど、レインタイヤ勢に対してできるだけリードを広げておかないと、ということもあったので(レース序盤は攻めた)。ラスト4周くらいまではまだ怖かったですよ。雨が降ったらスリック勢は終わりですから」
「(ゴンザレスについては)抜かれて走りを見て、もし何かできるならいいかなと思っていましたけど、ペースが急に1秒上がるわけもないですから。スパっと抜かれましたし、僕は何もしなかったです」
もちろん、チャンピオンシップのことが頭にありました。小椋選手はゴンザレスの接近がわかったとき、「2位を受け入れるしかないな」と考えたと言います。ただ、優勝したかった……という思いはどうしても残りました。
「優勝しなくちゃいけないレースだったと思いますよ」
そうレースを振り返った小椋選手は、2位でチェッカーを受けたあとのクールダウンラップで、何度か観客席に向かって両手を合わせる仕草をしています。
その姿に、いつかのインタビューで小椋選手がこう言っていたことが思い出されました。
「僕はバイクに乗るのが好き。でも、練習だけでは誰も喜ばせることはできないし、感情を共有することはできないじゃないですか。レースは結果のためですね。自分のため、って思ったことはないです」
日本GP決勝レース後のそれは、もてぎに駆け付けたファンへの「優勝できなくてごめん」という気持ちを伝えるものでした。
とはいえ、そんな小椋選手の冷静なレース運びが、チャンピオン獲得を大きく引き寄せました。ランキング2番手のガルシア選手はレインタイヤを選択し、14位で終えています。
シーズン後半戦、苦戦を強いられているガルシア選手は、例えばサンマリノGPでは両肩に負傷を抱えており、フィジカル面が万全ではありませんでした。しかし、現在はすでにフィジカルの状態は問題ないと言います。
では、なぜここまで苦戦しているのか。レース後、ガルシア選手に話を聞いたところ「バイクにすごく苦戦しているんだ」と、複雑な状況にあると語っていました。
「バイクをかなり変更したんだ。説明するのが難しいけど、チームは良い形で仕事をしなかったんだと思う。クルーチーフも、メカニックも。悪い仕事の結果なんだ。あまりにも多くの物事を変え過ぎた。僕たちはベストな形で取り組めなかったんだと思う。今は本来の場所に戻ること、それに集中しているんだ」
小椋選手は日本GPでガルシア選手との差を60ポイントに拡大しました。次戦オーストラリアGPでランキング2番手以下に75ポイント以上のポイント差をつけることができれば、小椋選手のチャンピオンが決定します。
小椋選手がタイトルを獲得すれば、日本人ライダーとしては2009年250ccクラスの青山博一さん(現・ホンダ・チームアジア監督)以来の快挙となります。
次戦第17戦オーストラリアGPは、10月18日から20日にかけて、オーストラリアのフィリップ・アイランド・サーキットで行なわれます。
■Moto2クラスとは……
Moto2クラスは、トライアンフ「ストリートトリプルRS」の排気量765ccの3気筒エンジンをベースに開発されたオフィシャルエンジンと、シャシーコンストラクターが製作したオリジナルシャシーを組み合わせたマシンによって争われる。タイヤは2024年よりピレリのワンメイクとなった。クラスとしてはMotoGPクラスとMoto3クラスの中間に位置する。
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みんなのコメント
今年の大目標はチャンピオン!
完走してポイント持ち帰るのは大事
一昨年の悔しさを思い出そう
あとは怪我をせぬようにお願いしたい。
『日本の皆さんゴメンナサイ…小椋が優勝するべきなのに抜いてしまいました…』
中々巡って来なかった、自身の初優勝が掛かってたから仕方無いよ。
世界一を争う場なのに、性格が良い男だよ(笑)
ゴンザレス 初優勝おめでとう♪