アウディS8の「立ち位置」
text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)
【画像】アウディS8をA8/BMW 7シリーズ/ベンツSクラスと見比べる【ライバル比較】 全122枚
photo:Masakatsu Sato(佐藤正勝)
現在、アウディはカテゴリーやクラスを別として3つのシリーズに大別できる。
1つは標準系、そして性能向上を図ったSシリーズとRSシリーズである。
RSシリーズはメルセデス車のAMGやBMW車のMシリーズに相当し、アウディスポーツにより企画されアウディの性能面のトップブランドとして展開。
一方、Sシリーズは標準系から発展した高性能モデルという位置付けである。
試乗したS8は車名のとおりA8の高性能モデルとなるのだが、前述のRSシリーズはRS6/RS7が最上級車格となりA8系には設定されていない。
ショーファードリブン用途にも供されるA8のキャラを考えればRSシリーズがないのも腑に落ちるが、逆に考えれば標準系の持ち味を活かした高性能を求めたSシリーズの象徴的な存在がS8とも言える。
絶対的な速さとファントゥドライブの追求ではなく、フラッグシップセダンとしての高性能を求めたモデルという訳だ。
「その速さをして荒ぶる感覚が皆無」
エアロ感をわずかに強調したフロントエアダムや4本出しのエグゾーストフィニッシャーなどのデザイン変更が加えられているが、ボディ周りの印象はA8とあまり変わらない。
強いて挙げるなら赤く塗装されたブレーキキャリパーが多少「只者ではない」雰囲気を漂わせるくらいだ。
内装も加飾パネルが専用になるものの、殊更に高性能やスポーツ性を強調した演出はなく、あくまでも品よくエレガントな趣を崩さない。
パワートレインは60 TFSI同様の48Vマイルドハイブリッド採用の4L V8ツインターボとトルコン式8速ATの組み合わせだが、最高出力、最大トルク共に20%以上向上。
一応確認のため全開加速もさせたが、高速でも試せるのはわずか数秒。使えないほど速い。571psのパワーをどこで使うのか思い浮かばない。
驚かされるのはその速さをして荒ぶる感覚が皆無なのだ。笑顔のまま100m 9秒台で走り抜けて泰然としているような感じだ。
全開でも紳士的なら普段の走りも推して知るべし。
これだけのパワーを絞り出していても、高出力化の悪影響は皆無。
最大トルクを2000-4500rpmで発生するトルク特性も利いているのだが、内燃機が苦手な低回転域の少ない踏み込みでも即応するのだ。
低負荷から高負荷への移行も自然であり、踏み込み量や回転域を問わずに従順。力の量も質も申し分なく、プレミアムを実感する高性能である。
重みは手応え 乗り心地も頗る良好
重みを感じさせるフットワークと表現すると「鈍重」と誤解されそうだが、効率良くコーナリングラインをコントロールできる操縦性はそういうもの。
重みは確実に重心をラインに乗せる手応えでもある。
揺らぎや過剰な挙動が皆無といっていいほどなので、高速コーナーでの揺るぎなさだけでなく、タイトなワインディング路も意外と扱いやすい。
しかも、乗り心地が頗る良好。ふんわりゆったりというタイプではなく、揺れ返し等の不要な挙動を抑えているので、どちらかと言えば締まりとか粘りと表される特性。
フラットライドなのに肌触りがいい。
S8にはA8にも採用されている電子制御エアサスをベースにスタビライザー左右に取り付けられた電動モーターにより能動的にロールや車高を制御するプレディクティブアクティブサスペンションを採用。
レーザーセンサーやカメラ情報にサスストロークの補正をおこなうのが特徴。
さらに65km/hを境に低速側では逆位相側、高速側では同位相側で制御される4輪操舵システムも採用される。
クワトロシステムだけじゃなく先進技術が満載のシャシーがあっての前述した操安性や乗り心地なのだ。
もっとも、ポテンシャルの高いデバイスは使い方が重要であり、アウディのフラッグシップサルーンらしくまとめたセンスにも感心させられた。
肉体的にも精神的にもストレス極小
S8の持つ高性能を一言で表すならスーパーツアラー。ピーク値ではなく、平均値の高さを優先した走り。それはドライバーの操縦技量も含めてである。
限界を究めようとすれば相応の難しさもあるが、特別な運転技術や研ぎ澄まされた感覚がなしでも、とてつもない速さにまで達してしまう。ハイアベレージを維持するのがとても楽なモデルである。
もう1つ見逃せないのは、というよりこれもスーパーツアラーとしての資質だが、ハイアベレージを維持しても肉体的にも精神的にもストレスが極めて少ない。
このサイズと価格から受けるストレスはともかく、クルマからアレコレ要求してこない。しかも全速度域で快適安心型なのだ、走行ストレスが溜まるはずもない。
価格はA8の60 TFSIの450万円高。A8のほうが快適性寄りとはいえ、頂点クラスのセダンではトップクラスの高性能を誇る。
S8は謂わば贅の上に贅を重ねたようなもの。投資を回収するのが難しい。一般的にはA8で十分である。
ただ、現時点でアウディとクワトロが理想とする走りを最もよく具現化させたモデルであり、アウディ好きには羨望の一車なのは間違いないだろう。
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みんなのコメント
ランボのウラカンのエンジンつんだRS8とか出さないかな。ABTがカスタムしてくれてもいい様な気もするんだが。この手のクルマは車格からして普通はあっても良さそうな感じです。