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栄光の「ル・マン」のポルシェは約300万円で落札! 「924」はまだ射程圏内だ

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栄光の「ル・マン」のポルシェは約300万円で落札! 「924」はまだ射程圏内だ

■栄光の「ル・マン」の名を冠した数少ないポルシェ

 以前、ベントレーとアストンマーティンのオークションレビューで解説したように、スポーツカー耐久レースの世界最高峰「ル・マン24時間レース」の名を、車名ないしはグレード名に掲げる例は、昔から数多くみられる。

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 しかし、1970年代からおびただしい勝利を重ね「ル・マンの帝王」として誰もが認めるはずのポルシェには、その輝かしい戦績を車名に掲げたモデルは、限定車を加えても意外なほどに少ないようだ。

 今回はその数少ない事例のひとつとして、英国「シルバーストーン・オークション」社が2021年3月下旬に開催したオンライン限定オークション「The Race Retro Live Online Auction 2021」に出品した「924Sル・マン」の概要と、オークション結果についてレポートしよう。

●英国市場向けに74台が製作されたフェアウェル限定モデル

 1975年、ポルシェのエントリーモデルとしてデビューした「924」は、その前任モデルとなったVWポルシェ「914」と同じくリトラクタブル式ヘッドライトを持つことから、1970年代後半の日本に吹き荒れた「スーパーカーブーム」時代には、スーパーカーの一角に加えられてしまったクルマの1台である。

 このクルマは、ポルシェとしては初めての経験となったFR駆動の2+2クーペであった。914と同様、開発・生産のコストを抑えるため、VW/アウディ製コンポーネンツを流用した。

 同じくポルシェでは初となる直列4気筒エンジンは当時のアウディ「100」用をベースとし、1.9リッターOHVから2リッターSOHCに改良、最高出力125ps(日本仕様は100ps)をマークしていた。

 その一方で、トランスミッションはリアに置かれるデフと一体化された「トランスアクスル」方式を採用。前後重量配分の最適化を図り、ハンドリングの劇的な向上をもたらすことに成功する。

 とくに当時を知るスーパーカーブーマーたちの一部からは「スーパーカーもどき」などという不名誉な称号で呼ばれることもあるが、その実は極めて良くできた2リッター級スポーツカーであった。

 しかし、必要充分な動力性能とバランスのよいハンドリングを身上としていたが、その成り立ちゆえに純血主義的ポルシェ愛好家の支持を得るには至らなかった。

 そこでポルシェでは1978年から170psを発生するターボ版を追加したほか、1983年には「924ターボ」のレーシングモデルに端を発するワイドボディに、ポルシェ自社開発の直列4気筒2.5リッターSOHCエンジンを搭載した「944」も上級モデルとして設定した。

 1986年には、944用の2.5リッターエンジンをコンバートした「924S」が、924シリーズのファイナルモデルとして登場することになった。

 そして今回VAGUEで紹介する「924Sル・マン」は、2.5リッター版924Sの英国マーケット向けRHD(右ハンドル)仕様の最後を飾る「ランアウト」モデルとして、アルパインホワイト37台/ブラック37台、合わせてわずか74台のみが限定販売された。ボディサイドには「Le Mans」のロゴとストライプが組み合わされているのが特徴だ。

 また、ポルシェAGオフィシャルの「Sportliches Sondermodell(スポーティングスペシャルモデル)」に分類され、「M755」という英国でのオプションパッケージコードも与えられている。

 74台のM755車には、同時代の944と同じ165bhpスペックのエンジン(スタンダードの924Sは初期型944と同じ155bhpスペック)を搭載。すべて5速ギアボックスと組み合わされた。また、電動チルト/取り外し可能なサンルーフも標準装備とされた。

 さらに前後スプリングをよりハードなものとしたほか、車高もスタンダードの924Sより10mm下げた「M030」スポーツサスペンション、アップグレートされたアンチロールバーを装備。

 初期の「928」や一部の930系「911カレラ」などにも採用された「テレダイアル」スタイルのアロイホイール(フロント6J×15、リア7J×15)は、アルパインホワイトならばボディ同色、ブラックならばシルバーに塗装された。

 インテリアは、74台すべてがベロア表皮の「ターボ」スポーツシートを備え、ドアのインナーパネルもシートと共色のベロア仕上げ。直径360mmのスポーツステアリングホイールも標準装備とされた。

■ポルシェGB正規ディーラーによるオフィシャルレストア車両

「The Race Retro Live Online Auction 2021」に出品された1988年型ポルシェ924 Sル・マンは、37台が作られたというアルパインホワイト仕様の1台であるだけにとどまらず、ポルシェAGと正規代理店が公式におこなったレストアの対象となったことでも特筆に値しよう。

●1988 ポルシェ「924 S ル・マン」

 ポルシェの英国法人では、毎年オフィシャルの「ポルシェセンター」ととくに認められたパートナー企業を対象に、クラシックモデルのレストアコンペティションを開催しているという。

 そして、ウィルトシャー州スウィンドンの「ポルシェセンター・スウィンドン」は、2016年のコンペティションに参加するにあたり、ポルシェのフロントエンジン車の40周年記念という名目で、この個体を選んだとのことなのだ。

 ところで、レストアのセオリーとして適切なベース車両を調達することが重要なのは明らかだが、この924 Sル・マンは完璧なヒストリーを有していたようだ。

 今回のオークション出品に際して添付されるサービス記録簿には、歴代わずか2名のオーナーのために18回分のスタンプが押されているとアナウンスされた。その多くはランカスターおよびコルチェスターの正規販売店「ポルシェセンター」から発行された多くの請求書や、古いMOT証明書なども同封されている。

 ポルシェセンター・スウィンドンがレストアベースとしてこの924Sをチェックした時から、徹底的なリニューアルが各パートで必要になることは明白だったという。

 そこでボディは塗装が総剥離され、腐食しやすいアウターおよびインナーのサイドシルはすべて作り直し。モノコック全体に細心の注意を払ってフル再塗装がおこなわれた。

 またランニングギアについては、可能な限り元の部品を保持しつつも、完全に組み直されている。

 一部のサスペンションとブレーキ部品を交換するかたわらで、ディスクパッドやフューエルライン、ブッシュ、ピレリ社製タイヤなどはすべて新品に換装されている。インテリアもすべてクリーニングが施されるとともに、ポルシェ・クラシックでも当時欠品となっていたダッシュボードは、専門家のリペアによって往時の輝きを取り戻したそうだ。

 さらにエンジンでは、カムシャフトやテンションローラー、バランスベルトなどを交換したうえでオーバーホールし、そのほかの包括的なリニューアル作業が施されたという。

 これらの苦労の末に復元された924 Sル・マンは、ポルシェセンター・スウィンドンが自ら制作した特別記念リーフレットにその作業内容が紹介されることになった。

 また、レストアに至るまでのヒストリーについても、ポルシェ・クラシックの公認証明書とともに記録として残されているとのことである。

 2020年6月に、ポルシェセンター・スウィンドンから熱心なポルシェ愛好家である現オーナーに販売され、彼は慎重に選ばれたコレクションの一部として、この924 Sル・マンを楽しんできたというが、様々な事情から手放す決意をしたという。

 2021年3月28日に締め切られたオンライン入札の結果、このポルシェ924Sル・マンは2万1375ポンド、日本円に換算すれば約321万円で落札されることになった。

 昨今、国際マーケットにおける評価をじわじわと高めているポルシェ924のなかにあって、今回の落札価格はレストア済みの極上車としては平均的なものと思われる。

 栄光の「ル・マン」の名を冠した限定車、しかも英国ポルシェ公式のレストア車両としてはかなりリーズナブルだったのではというのが、筆者の率直な感想である。

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みんなのコメント

1件
  • 素の944よりも924Sの方がフロントバンパーがスッキリしてて良い。

    944ターボや944S2はもっと良いけど。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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