2005年のフランクフルトモーターショーで発表されて大きな注目を集めていた「ゴルフGT TSI」が、2007年1月19日、ついに日本に上陸している。1.4Lの直噴エンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーを搭載して、2Lエンジン並みのパワー/トルクと、小排気量エンジン並みの燃費を実現するというアイデアは、当時どう受け入れられたのか。まずは、上陸すぐに行われた試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年3月号より)
アクセルペダルをほんの少し踏み込んだだけで反応
スーパーチャージャーとターボチャージャーの両方を装備したエンジンを体験するのは初めてだ。低回転域ではレスポンスの良いスーパーチャージャーを利用し、排気が効率よく使えるようになる3500rpm以上の高回転ではターボチャージャーを使うというTSIの原理は、頭の中では理解できても、そんなにうまく行くのだろうかと心配になる。果たしてどんな感覚の加速感になるのだろうかという未知の体験に対する期待で胸を膨ませて試乗に挑んだ。
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排気量はたった1.4Lなのに170ps/240Nmmという2.4Lエンジンに匹敵する性能を発揮するというのだから、ツインチャージャーが要のエンジンである。しかもそれでいて1.6FSIをもしのぐ低燃費を達成しているというから興味津々だ。
ゴルフGT 2.0FSIの後継車として登場したGT TSIであるが、フロントのデザインや一部の装備アイテムは新しくなっている。GTIとはまた異なるが、これまでのGTとは明らかに一線を画す感じだ。シートはBRICKと呼ばれる専用パターンのスポーツシートで、これは骨盤の押さえが効いた気持ちの良いシートだ。パドルシフトが付いたレザーハンドルが標準装備だ。いつもの通りシートだけでなく、ハンドルもチルトとテレスコピックの動く範囲が広く、最適なドライビングポジションが取れる。
インストルメントパネルにはTSIらしい新しいメーターが設置されている。左側のタコメーターと右側のスピードメーターの間に小さな丸いメーターがふたつ並ぶ。右側が燃量計で、左側の赤い目盛りに赤い針の新しいブースト計がツインチャージャーの仕事をドライバーに示す。
エンジンを掛けてセレクターレバーをPレンジからDレンジに切り替えてブレーキペダルから脚を離すと、DSGがうまく半クラッチを使ってクリープしてくれる。そこからアクセルペダルを踏み込んでいくと、アクセルペダルの踏み込み量に比例した加速を感じる。つまりアクセルペダルのストロークが3mmとか5mmという領域からちゃんと反応してくれるから、いわゆるターボラグのようなスカスカ感はないし、ちょっと踏んだだけでドンと飛び出すような過敏なところもない。
Dレンジで50~60km/hからアクセルペダルを徐々に踏み込んでいくと、最初にブースト計の針が上がりジワッと加速が始まる。もう少し深く踏み込んでいくとエンジン回転が上昇して1段シフトダウンする。ここはスーパーチャージャーの領域でレスポンスがいい。アクセルペダルをイーブンよりも深く踏み込むとすぐにブースト圧が上がる。1段シフトダウンするときも、通常のATでいうならロックアップが解けるかのようにエンジン回転が上がりギアが変わるからスムースである。
一定スピードで走行中にアクセルペダルを踏み込んだ場合でも、アクセルペダルを戻してコースティング状態から再び踏み込んだ場合でも、アクセルペダルをほんの少し踏み込んだところから反応してくれるので、過給器を意識せずとても自然な感触でドライビングできる。
DSGはギアを飛び段したときもショックがなくとてもスムーズである。Dレンジの6速で走行中、アクセルペダルをキックダウンスイッチまで素早く踏み込んだとき、3速まで、あるいは走行スピードによっては2速まで一気にキックダウンする。この時もエンジン回転を合わせて素早くギアを変えてくれるから、躊躇なくキックダウンスイッチまでアクセルペダルを踏み込める。そのギアチェンジの速さにエンジンレスポンスもマッチしている。
インストルメントパネル内にあるシフトインジケータは、PRNDSという表示の次に今使っているギア段数が示される。シフトレバーをDレンジから左に倒してマニュアルシフトすると、123456という数字だけが縦に並び、使っている段数の色が反転する。シフトレバーはDレンジのままでもパドルシフトを操作してテンポラリーにマニュアルシフトで使うと数字だけの表示になる。Dレンジでもマニュアルシフトを使うとギア段数を知ることができるというわけだ。
信号が青になって発進するとき、アクセルペダルを急に床まで踏み込んでも、普通のアスファルト舗装ならホイールスピンしてタイヤスモークを上げるようなことはない。1410kgという車重のうち、フロントに890kgという荷重が掛かっていることと、225/45R17のコンチスポーツコンタクト2のグリップ力の高さで頑張っているからだ。さらにエンジン特性としても、暴力的な加速を演出しようとはせず、ジェントルだが力強い加速をするという印象だ。この辺はじゃじゃ馬にならないようにうまく躾けてある感じだ。GTという名前は付くものの、下品にはしたくなかったというフォルクスワーゲンの意図が見えるモデルだ。
エンジン回転数が低いところでのレスポンスの良さとトルクの太さは印象的だ。通常使う3000rpmオーバーくらいまでの低中速域はとても力強い。2500~3000rpm辺りを使って加速するとクィーンという軽い音が聞こえる。これはスーパーチャージャーの音だろう。でも遠くで聞こえるので耳障りではないし、注意しないと聞き取れない程度だ。
過給圧を計算しながら高回転域まで元気に回る
高回転はどうかというと、排気音を中心に音が良くなりとても元気のいいエンジンになる。ギューンという音を聞いただけでも力強いエンジンだというイメージが湧く。
Dレンジでアクセルペダルをキックダウンスイッチの手前まで踏み込んで加速していくと6300rpmでシフトアップしていく。マニュアルモードではレッドゾーンが始まる7000rpmぎりぎりまで引っ張ってからシフトアップしていく。
こうやってアクセルペダルを深く踏み込んで走ると相当速い。グイグイと引っ張っていってくれるから、軽くスピードが出てしまうという感じだ。ターボチャージャー独特の後から追いかけてくるような加速感はないので使いやすい。スピードは出るがそのコントロールはしやすい。Dレンジでも充分にスポーティドライビングが可能だが、パドルを使ってマニュアルシフトするともっとダイレクトな感じのMTらしい走りができる。
3500rpmでスーパーチャージャーからターボチャージャーに切り替わるそうだが、その境目はドライバーにはわからない。スーパーチャージャーの圧力とターボチャージャーの圧力を足したものを計算しながらスーパーチャージャーを絞っていくのだろう。この部分のチューニングは相当気を使っているようだ。
高速巡航でのエンジン回転は低く抑えられている。100km/hではタコメーターの針は2200rpmを指している。ちなみにマニュアルシフトでの各ギアのエンジン回転数は、5速2700rpm、4速3600rpm、3速4800rpm、2速7000rpmになる。
出力と燃費の両立を図った1.4Lツインチャージャーエンジンはよくできていると思うが、このエンジンには死角はないのだろうか。ボクなりに感じた現在の印象を正直に述べてみる。ゴルフ2.0FSIに乗り比べると、TSIはトルクが太く加速もいいが、普通に加速するときにもトルクが出過ぎているところがある。TSIのデビューということもあって、GTモデルとしてスポーティに仕上げているのかもしれない。
もうひとつはエンジンの重量を感じることである。ハンドリング性能でフロントヘビーを感じるのだ。特にハンドルの切り始めの応答遅れ感だ。これもゴルフという高いレベルでの話ではあるが、NAエンジンの方がターンインはスムーズに感じる。そもそものエンジンは小さくても2個の過給器の重さが影響しているのだろうか。またNAとTSIではエンジン搭載角度やエンジンマウントが異なる点も影響しているのかもしれない。
いずれにしてもこの新しいエンジンの提案は実に興味深い。再び過給器付きエンジンが話題になることは間違いないだろう。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2007年3月号より)
フォルクスワーゲン ゴルフGT TSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4225×1760×1500mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4DOHCツインチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1500-4750rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●0→100km/h加速:7.9秒
●最高速度:220km/h
●車両価格:305万円(2007年)
[ アルバム : フォルクスワーゲン ゴルフGT TSI はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
メカ好きの男なら誰しも飛びつきたくなる仕様だったなぁ