Moto3ラストレースで優勝、2024年シーズンはMoto2へ
佐々木歩夢選手(#71/ハスクバーナ)が争っていた2023年シーズンMoto3クラスのタイトルは、前戦カタールGPで、チャンピオンシップのランキングトップ、ジャウメ・マシア選手(#5/ホンダ)が優勝し、佐々木選手が6位でゴールしたことで決着しました。しかし、最終戦となるバレンシアGPの木曜日、佐々木選手はこう意気込みを語っていました。
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「(カタールGPは)やりきったレースでした。今回は、やりきった結果が6位ではなく優勝になるように、集中して頑張っていきたいです」
金曜日には転倒やバイクのフィーリングに問題があったものの、土曜日には予選で2番手を獲得します。2024年にはMoto2クラスにステップアップを果たす佐々木選手にとって、バレンシアGPはMoto3最後のレースです。予選でポールポジションを獲得したいと考えていましたが、惜しくも2番手に終わっただけに「ちょっと悔しさが残る」と、予選後に語っていました。
決勝レースでは、レース中盤から終盤にかけて5人ほどの集団に絞り込まれていきました。この中で、佐々木選手はトップ争いを演じながら周回を重ねます。16周目、トップを走っていたライダーがミスをしてラインを外すと、2番手走行中だった佐々木選手がトップに浮上しました。
迎えた最終ラップ、佐々木選手はトップで入りました。背後には僅差で2人のライダーが続きます。佐々木選手は「(最終コーナーは)、なるべくインサイドを閉める。それで抜いてきても、たぶんはらむな」と考えていました。このために、決勝レース前夜、6年分のバレンシアGP最終ラップの映像を見たそうです。果たして、この作戦はうまくいきました。最終コーナーを押さえ、トップでフィニッシュラインを駆け抜けたのです。
佐々木選手にとって、今季初優勝。11度目の表彰台獲得。Moto3クラスで最後のレースを優勝で締めくくり、まさに有終の美を飾りました。
チェッカーを受けた佐々木選手は激しくマシンを揺さぶり、右手に握ったこぶしを前にグッと突き出して歓喜を表しました。ウイニングラップの途中、両親の待つコースサイドにマシンを停めた佐々木選手は、2人と喜びを分かちあいます。そして加藤大治郎選手がGP250でチャンピオンを獲得した、2001年シーズンに使用した国旗を受け取ると、この国旗とともに、パルクフェルメに向かって走っていきました。
このウイニングラップでなかなかヘルメットのシールドを上げなかった佐々木選手、じつはヘルメットの中で涙があふれていたのだそうです。レース後、そう明かしてくれました。
「とくに先週の問題があってから、いろいろな人が僕の背中を押してくれました。でも、“歩夢は優勝していないから、チャンピオンになるのはおかしい”と言う人もいたんです。僕としては、どうしても自分の背中を押してくれた人たちに“僕も勝てるよ”、“チャンピオン争いできたよ”と(伝えたかった)。それをしっかり成し遂げられたので、ゴールして……感動した瞬間でした」
「先週はつらかったから……先週のことがあっての涙だった。最後のMoto3レースで自分にプレッシャーを与えていたこともあって、そのプレッシャーが、チェッカーを受けた瞬間に解けたんだと思います」
タイトルを失ったカタールGPからの1週間、そして優勝を飾ったバレンシアGP決勝レースについて、そう語りました。カタールGPの決勝レースは、タイトル争いのライバルチームが採った戦略が佐々木選手に真っ向勝負をさせず、佐々木選手は6位に終わってタイトルを失うことになったのです。
「ちゃんと戦いたかった」。佐々木選手は、バレンシアGP木曜日に、カタールGPを振り返ってそう話していました。
「先週の(カタールGPの)あとは、自分のレースキャリアの中でもいちばんと言っていいほど、きつかったです」
「でも、レース後たくさんの人たちが僕をサポートしてくれました。今日は彼らのためにも勝ちたかったんです。そしてチャンピオン争いができたよ、と見せたかった。最終的には(チャンピオンを獲得したジャウメ・)マシアと6ポイント差で終えることができました」
「予選は自分の中で悔いの残るものだったので、最後のMoto3レースは悔いのないように、ミスないようにレースがしたかったんです。今日は悔いのないレースができました。自分に100点をあげたいレースだったかな、と思います」
Moto3最後のレースであり、所属チーム「リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP」での最後の表彰台には、クルーチーフ、エマヌエーレ・マルティネッリと共に上がりました。マルティネッリは佐々木選手が大きな信頼を寄せる人物です。
「Moto3最後のレースで、レレさん(エマヌエーレ・マルティネッリ)と一緒に表彰台に上がった気持ちは?」と、佐々木選手に質問しました。
2022年の「アユムは勝てるよ」と言うリキモリ・ハスクバーナ・インタクトGPの言葉、そしてチームと自分が掲げる目標が同じだと感じ、佐々木選手はこのチームにやって来ました。そして、おそらくこの2シーズンの戦いぶりは、佐々木選手が望んだものだったでしょう。2シーズンを共に戦ったマルティネッリと、レースウイナーとして上がったMoto3最後の表彰台。感じ入るものがあったのではないか──表彰台に立つ佐々木選手とマルティネッリを見て、そう思ったのです。
佐々木選手は「このチームに来てから、自分のレース人生が変わったんです」と明かしました。
「今までは個人戦だと思っていたんですけど、この世界は自分(の力)だけじゃない。Moto3(で必要なファクター)は、70%くらいはライダーが占めているかもしれないですけども、残りの30%は、僕はチームだと思っています。だから、そういう人たちに巡り会えたことに感謝。僕はラッキーだと思うんです」
「このチームに巡り会えて、チームはいろいろなことを教えてくれました。このチームに来たときは、すでに5年もMoto3を走っていたし、もうほとんど知っていると思っていたんです。でも、全然知らないことばかりで……ほんとにイチから教えてもらったこともありました」
「そういう人たちに、この2年で学んだことを、見せたかった。全部を優勝につなげたかったんです。レレと表彰台に乗れて、ほんとに良かったなと思いました」
佐々木選手は、レース後の会見や取材のなかで、何度も様々な人に対する感謝の言葉を口にしていました。そんなポジティブな気持ちが、優勝へのひとつの力となったのかもしれません。
Moto3クラスでの7シーズンを堂々としたレースで締めくくった佐々木選手は、2024年シーズン、Moto2クラスに挑みます。
■Moto3クラスとは……
Moto3クラスは4ストローク250cc単気筒エンジンのレーシングマシンで争われる。タイヤはダンロップのワンメイク。MotoGPクラス、Moto2クラス、Moto3クラスの中で参戦するライダーの年齢層が最も低く、Moto2クラス、MotoGPクラスへの昇格を目指す若いライダーたちがしのぎを削る。
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