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ボルボ144Sで大西洋から北極海へ 片道1万6000km カナダ人学生のロードトリップ 後編

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ボルボ144Sで大西洋から北極海へ 片道1万6000km カナダ人学生のロードトリップ 後編

偶然入手できたプロペラシャフト

ボルボ144Sの走行中の振動は徐々に大きくなる一方で、スペリオル湖に面したサンダーベイへ近づく頃には著しく悪化。走ることすら難しい状態になった。

【画像】ボルボ144Sで1万6000kmのクルマ旅 同時代のP1800 後継の240と現行のS60も 全91枚

プロペラシャフトの不具合を疑いつつ、ジャッキアップ。一見すると問題なさそうだったものの、シャフトの途中が大きく欠けていた。ガタガタと大きくボディを震わせながら市街地までなんとか足を進めたが、リタイアも考えた。

交換用のプロペラシャフトを求めて、諦め半分でフェイスブックのグループに投稿。驚くことに、立ち往生している場所から数km離れた場所に住むケビンという男性から、1時間も経たないうちにレスポンスが。宝くじに当たったような気持ちだった。

すぐに電話し、彼へ協力を仰いだ。プロペラシャフトは部品取りのボルボ・アマゾンに付いた状態だったが、取り外してスーパーマーケットの駐車場まで持って来てくれた。今までに見たことがないほど美しいシャフトだった。

その後もボルボは、素晴らしい人との出会いで何度も復活を遂げた。カナダ中部のサスカチュワン州では、グラベルを快走中に舞い上げた砂埃でオルタネーターが故障した。夕日がトウモロコシ畑に沈む様子は、最高に素晴らしかったのだが。

キャブレターが外れた時は、ナイロンバンドでエンジンに固定。250kmほどをしのいだ。ラジエタークーラント・タンクは、飲料水のボトルを2重にして一時的に代用した。

オルタネーターやキャブレターも交換

カナダ西部の山岳地帯へ辿り着く頃には、ディーゼル発電機用のオルタネーターが載っていて、違うキャブレターで燃料が供給されていた。スロットルケーブルの動きが渋く、回転数が落ちにくいという悪癖の持ち主だった。

ロッキー山脈超えは、まさに冒険だった。東部に住んでいた自分は山並みを目にするのが初めてで、涙が自然と溢れてしまった。

山中では要所要所に用意されている退避小屋で過ごし、素晴らしい友人を作ることもできた。その1人は近くの山頂まで登山に誘ってくれたが、死ぬほど辛い体験だった。初雪が降るなか、短パンとTシャツで山小屋に寝ることになったのだ。

数週間を掛けてロッキー山脈を下り、太平洋に面したブリティッシュ・コロンビア州のビクトリアへ到着。オンタリオ州で出会った冒険仲間と再開でき、短い滞在だったものの素晴らしい時間を過ごすことができた。

40歳代半ばの、ヤンという男性だ。自転車でカナダを横断しているという。

北極海に面したトゥクトヤクトゥクを目指す自分は、さらに西へ。山脈の間に、対向車と殆どすれ違わない道が延々と伸びる。ボルボと自分だけという孤独。冬が近づき、気温は日に日に下がっていったが、素晴らしい景色がそれ以上の記憶を与えてくれた。

総長1200kmの砂利道が続くハイウェイ

アメリカ・アラスカ州と接するユーコン準州までは、1日8時間近く運転して、ビクトリアから1週間を要した。大きな街を見つけ、数日間を掛けて食料や物資を蓄えた。缶詰に防寒着だけでなく、エンジンオイルも3缶買った。

ボルボのエンジンは、160km走る毎に1L近くのエンジンオイルを燃やしていた。

北極海へ抜けるデンプスター・ハイウェイを走る前日、スーパーマーケットの駐車場で点検整備。ハイウェイは総長1200kmもあるが、途中にガソリンスタンドが1か所あるだけ。他には何もない、砂利道が続いている。

事故を起こしても誰も助けに来ない、という警告看板が立っている。それでも、自分の冒険をやめるわけにはいかない。

北へ進むほど気温が低くなり、雪が降り出した。氷点下でもクルマの調子は悪くなかったが、ヒーターの故障でドライバーの調子は優れなかった。見渡す限り雪に覆われた山と谷。人工物は道路以外、視界に存在しない。

デンプスター・ハイウェイでは毎日が冒険だった。最初の夜は、人家から320kmも離れた場所で過ごした。人の手の入っていない大自然が広がり、今回のロードトリップで最も特別な体験の1つになった。夜空にはオーロラが漂っていた。

強い風がルーフテントのキャンバスを鳴らす。様々な動物の吠える声が響く。グリズリー(ハイイログマ)の声も混ざっていたことを後日知るが、とにかく恐怖でまともに眠れなかった。

最後まで裏切ることがなかったボルボ

翌日、ガソリンスタンドに立ち寄りボルボのタンクを満たした。北部を走る長距離トラックの運転手は、自分のクルマを見て驚いていた。恐らく、雪が舞う季節にデンプスター・ハイウェイを走る、最も頼りなさそうな見た目の乗り物だったに違いない。

小さな集落へ立ち寄りクルマを点検していると、助手席側のリアダンパーが外れていることに気が付いた。幸運にも数100m離れた場所にガレージがあり、数本のボルトを購入。お昼には修理を終えることができた。

デンプスター・ハイウェイで北極圏を超え、記念撮影を一応済ませ、さらに北上。2021年10月9日、遂に北極海に面するトゥクトヤクトゥクへ到達。北の町で伝統的な魚の燻製を味わいながら数日を過ごし、旅の余韻に浸った。

1969年式ボルボ144Sと筆者は、大西洋から北極海までの走破に成功した。出発から98日間でカナダが接する3つの海に立ち寄り、1万6337kmを走りきった。

今回のロードトリップが、人生を大きく変える体験になったことは間違いないだろう。途中で沢山の人と出会い、友好を深めることもできた。目標としたことは達成できるという、大きな自信も生まれた。そしてボルボは、最後まで裏切ることがなかった。

寄稿・撮影:Xavier Theriault(グザヴィエ・テリオ)

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みんなのコメント

2件
  • 流石外人!
    無謀なチャレンジをするねぇ
  • この時代のボルボは、故障もあるけどDIYで簡単に補修できるのがいいですよね。
    現在のボルボは全く故障しなくなったけど、壊れたらディーラー行きは確実だからね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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