中国のスタートアップEVメーカーであるNIO(ニオ)のフル電動SUV「ES8」に乗った。
今回は外国人用限定運転免許証の取得が間に合わず、仕方なく助手席と2列目席での乗車だったが、それでも期待を上回る仕上がりを十分に確かめることができた。
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乗ったのは、上海。中心部の静安区南京西路にできたNIOのショールーム「NIO HOUSE」から走り出て、街中をしばらく走って高速道路に乗り戻ってくるというコースだった。
東京に喩えれば銀座や青山のようなこの地域には、高級ブランドショップが軒並み路面店を構えている。東京の中目黒にできて、連日長い列をつくっているスターバックスの高級店舗Starbucks reserve roasteryのもっと大きな店舗もある。老舗もあれば、勢いのある新進スポットも集まっているエリアである。
そうしたところにNIOはショールームを構え、その地下駐車場から試乗車が出入りしている。そのブロックには、ほかにも「BYTON」「QIANTU」など中国のスタートアップ自動車メーカー、そしてライバルの「テスラ」などがショールームを構えている。
NIO HOUSEは2階建てで、1階にクルマが展示され、2階は商談スペースになっている。商談スペースといっても日本にある日本の自動車メーカーのそれのようなものではない。仕様を決めたり、操作方法や装備などを説明するためのモニタースクリーンが置かれたデスクがいくつか並べられ、大きなソファが点在している。
日本のように紙コップでインスタントコーヒーが供されるようなことはなく、大きなバーカウンターがあり、中にはバーテンダーが控えていて、好みの飲み物を作ってくれる。奥にはキッズスペースも用意されている辺りは日本と似ているけれども、決定的に異なっているのは余裕と高級感、シンプルでクリーンなデザインだ。
無数のポスターや模造紙に手書きのマジックインキで描かれた各種のキャンペーン告知などが無秩序に貼られているようなこともない。もちろん、ノボリが立っているようなこともない。美的な秩序が一貫していて、何もかも日本にある日本車メーカーのショールームと違っている。スタイリッシュで快適この上ない。
用意ができたと地下の駐車場に案内されると、そこには充電されたES8が何台も並んでいた。他のEVと同じように建物側の電源と車体をコードでつなぎ、急速充電や通常速度での充電が行われているほか、注目のカセット式バッテリー交換システムも稼働していた。「NIO POWER」と呼ばれるそれは、現在のEVが宿命的に抱えている充電時間の長さを解決するためにNIOが独自に実用化したものだ。
システムが作動するのは12畳くらいの大きさの金属製の小屋のようなところで、その半分は密閉され、残り半分は空いている。そこに、ES8がバックで入るようになっている。所定の場所に駐車すると、ドライバーが降りたES8の車両全体がジャッキアップされ、伸びてきたアームが前後輪の間にフォークリフトのように収まり、バッテリーを取り出して回収する。そして、あらかじめ満充電されていた別のバッテリーを逆の順序でES8に装着し、ジャッキを下ろして終了。
ここまで3分弱。従来通りの方法の10分の1の時間しか要さない。現在、このシステムは120機が北京と上海の街中と、両市をつなぐ高速道路上のサービスエリアで稼働していて、NIOのクルマの今後の販売増加に合わせて増やしていく予定だという。
乗り込んで「アラ」を探す
NIOのスタッフが運転席に座り、僕は2列目に座った。ES8は7人乗りだから、3列目もある。
ES8に座るのは昨年11月の広州モーターショー以来だったが、こうして再見しても造形の魅力を保っている。薄いヘッドライトと大きく開いたグリルはトレンドをリードするものだし、抑揚のあるウエストラインが特徴的なサイドビューをかたちづくっている。実際、今回、上海に来てストリートを走るES8をたくさん見たが、どこからでもすぐにわかる存在感を示していた。
インテリアの造形と仕上げレベルもとても高い。予備知識が一切なくて乗り込んだら、ヨーロッパのプレミアムブランドの最新型だとしか思えないだろう。2014年から始まったスタートアップ自動車メーカーが初めて量産したSUVであろうとは誰も想像できない。
センターコンソールのモニターとメーターパネルはどちらも高彩度の液晶表示。針など一本もない。ボタン類はテスラやレンジローバー・ヴェラールほど少なくはないが、スマートフォンのワイヤレス充電なども可能で、ドライバーインターフェイスも最新レベルである。
注目は、「nomi」と名付けられたAIによるインターフェイスだ。運転操作以外のさまざまな操作を音声で行え、nomiが人間の眼の表情を模した表示を行いながら受け答えし、操作できる。メルセデスAクラスやBMW3シリーズよりも早い装着だ。
シートやドア内張り、センターコンソールなども総じて上質な仕上がりだ。しつこいようだが、アラはどこにもない。
地下駐車場から表に出る。EVならではの静かで滑らかな加速が気持ち良い。2列目シートに座っているから、ガラスルーフの向こうが良く見える。上海のモダンな摩天楼が、ES8が加速していくにつれて、勢いを付けて後方に流れていく。
東京の首都高速のような自動車専用道に上がって、ドライバーはフル加速を試た。
「●●●●●●!」
中国語で何て言ったのかわからなかったけれども、彼が何かを口にしてアクセルペダルを深く踏み込んだと同時に、僕は強く後ろにのけぞった。後頭部をヘッドレストにブツけるほどの加速だった。
ES8は、アルミモノコックシャシーに2基のモーターを前後に装備したEVだ。
160kWのモーターで前輪を常に駆動し、240kWのモーターは加速時など状況に合わせて後輪を駆動する4輪駆動車である。さきほどまで街中を流していた時には前輪駆動で走っていたが、今の強烈な加速は後ろのモーターも駆動された4輪駆動によるものだ。
ES8はみるみると前方のクルマに追い付き、ドライバーはアクセルを戻して減速した。クルマがいなくなったところを見計らって、同じことを何度かやってもらったが、印象は変わらない。
テスラ・モデルSやモデルXの高性能版の加速も空恐ろしいものだったが、ES8も負けてはいない。
高速道路を降り、一般道で静安寺まで戻ってきた。途中で、AIロボット「nomi」を試してみせてくれた。
「ハイ、ヌーミ。窓を開けて?」
そう話し掛けたドライバー側の窓が下がった。
「ハイ、ヌーミ。窓を開けて?」
同じフレーズを2列目右側席に座っていたNIOのスタッフが中国語で告げた。すると、ES8は後席右側の窓だけを下ろした。つまり、ヌーミーは話し掛けてきた者がどの席に座っているか、距離と方向を測っていて、どの窓なのか判断して下げたのだ。判断がAIの仕事である。
同じ要領で、近くのイタリアンレストランをナビの目的地に設定したり、ブルートゥース接続されているNIOのスタッフのスマートフォンに着信しているショートメッセージを読み上げてもらって、それへの返信を音声入力で行なったりした。
それらはAIでなくてもできることだが、使いこなされたAIで行うと、音声入力の精度が格段に上がる。
また、ES8には車内に向けたカメラが何基かあり、それで車内の様子を撮影し、SNSメッセージに添付して送ることもやってみせた。
「ハイ、ヌーミ。暑いんだ」
了解したという表情を作り、中国語で了解したと答えると同時にエアコンの温度を下げる。
「ハイ、ヌーミ。寒いんだ」
今度は、上げた。
メルセデス・ベンツAクラスやBMW 3シリーズが同じようにAIによって操作を行うと話題になったが、ES8はそれらよりも約1年早く商品化していた。
もっとも、こうしたAI技術は自動車メーカーが主導してできたものではなく、限られたサプライヤーが作り上げたものだ。それを組み込んだに過ぎないわけだけれども、中国のスタートアップEVメーカーは水平分業によってクルマを開発・製造しているのでそのスピードが早かったということだろう。
ハンドルを握ることこそできなかったけれども、ES8の実力の高さと魅力はよくわかった。もし、自分で運転することができるとしたら、エアサスペンションを標準装備しているのでオフロードモードを選び、最低地上高を上げて、ダートや凹凸の激しいところを走ってみたい。アルミシャシーを持ったEVのオフロードドライビングがどんなものなのか? まったく想像できない。
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