静止状態で快適でも走ると評価が変わるので難しい
ミニバンの後席快適性を評価するのは容易ではない。それは、広さはもちろん、グレードによるタイヤサイズの違い、マイナーチェンジ前後で乗り心地が激変することもあり、また2/3列目席でも評価がわかれるからだ。
さらに言えば、同じミニバンの2列目席でも、ベンチシート、キャプテンシート、キャプテンシートの仕様の違いで乗り心地の印象が変わることさえあるのだからやっかいなのである。
ちなみに、ミニバンの特等席となる2列目席では、意外にもベンチシート、キャプテンシートの凝った機能を持たないもののほうが、乗り心地がよく感じられることがある。その理由はシートの重さ、重心高、シートスライド機構、それに伴うシート取り付け部剛性が影響するからである。セダンの後席の乗り心地が最上と言われるのは、シートスライドがなく、比較的軽量で、シート左右端がボディーに密着しているからだ。
その点、ミニバンの2列目席はフロアに浮いているようなもので、豪華さを追求すればするほど重く、重心が高くなり、とくに前後スライドだけでなく、左右にもスライドするシートの場合は振動面などで不利になりやすい……という理屈である。
とはいえ、ミニバンの2列目席にシートスライドは不可欠で、キャプテンシートのぜいたくな居心地はミニバンならではの大きな魅力。ここでは2列目キャプテンシート仕様のミニバンを中心に、かけ心地、乗り心地を評価したい(※新型デリカD:5の後席には未試乗のため、評価の対象になっていません)。
1)ホンダ・オデッセイ
ミニバンの2列目席のシートのかけ心地、乗り心地で大いに評価できるのが、ホンダ・オデッセイ7人乗りの全タイプに装備されるプレミアムクレードルシート。
シート表皮裏に厚めのウレタンクッションがラミネートされ、シートバックを倒しても目線が前を向いたままになるゆりかご機能を備え、170度までリクライニング可能。ロングスライド時の足もとの広さもさることながら、シートの取り付け部剛性がしっかりしていて、振動が少なく、静かでぜいたく感に満ちた居心地、乗り心地が味わえる。
3列目席はエスティマよりフロアに対して高めにセットされ、ソファ的かつ太もも裏が座面に密着する自然な掛け心地が好印象。こちらもシート振動、車外から進入する騒音が抑えられ、降車性も文句なしと言っていい。
2)ホンダ・ステップワゴン
Mクラスボックス型ミニバンでもヴォクシー&ノア、セレナと違い、唯一2列目席キャプテンシートが左右スライドができないのがホンダ・ステップワゴン。
そのデメリットをひっくり返すのが、取り付け部剛性の高さによるシート振動の少なさ。基本的な乗り心地の良さと合わせ、2列目キャプテンシートのかけ心地は、3車を同時比較した経験上、クラス最上。スパーダでもHVはあえて乗り心地にこだわった16インチタイヤを履き、微低速域でよく動くダンパーの採用で乗り心地そのものが極めて上質でマイルド。それでいてカーブなどでフラつかず、ロールが抑えられ、最上級グレードのG-EXホンダセンシングの場合、荒れた路面でさえ乗り心地のビリビリ、ザラザラ感がないのは、ぜいたくにも前後パフォーマンスダンパーをおごっているからにほかならない。
後席乗り心地では最上級グレードが必ずしもいいワケではない
3)ゴルフ・トゥーラン
数あるミニバンのなかでも、2列目席においてセダンやハッチバック、ステーションワゴン同等の上質なの乗り心地を示すのが、輸入ミニバンのヒンジ式リヤドアを持つVWゴルフ・トゥーラン。
荒れた路面さえ心地よくいなすストローク感あるしなやかで上質な乗り心地は、ゴルフ・ヴァリアントのハイラインとほぼ同質。シートの取り付け部剛性がしっかりしていて不快なシート振動など皆無。それでいて着座位置、アイポイントは高めで、いかにもミニバンらしい爽快(そうかい)な乗車感覚をもたらしてくれるものの、重心の高さを感じさせる腰高感は皆無に近い。安心感、快適感たっぷりの乗り心地を堪能できるのだ。
そしてタイヤが発するロードノイズレベルは、遮音吸音性能を高めたのか、あるいは乗員の耳の位置が高くなったためか、ゴルフ・ヴァリアントより明らかに低く、全体的により静かで上級感があるという印象だ。
ただし、床下格納式の3列目席は簡易的なシートとなる。
4)トヨタ・アルファード・ヴェルファイア
トヨタの最上級ミニバン、アルファード・ヴェルファイアの後席の乗り心地は賛否両論と言えるかもしれない。
キャプテンシートは上からエグゼクティブラウンジシート、エグゼクティブパワーシート、リラックスキャプテンシートの3種類を用意するが、ぶっちゃけ、シート振動の大小を含めた乗り心地では、ベンチシート→リラックスキャプテンシートの順にいい。要はシートの重さと重心、取り付け部剛性による。上級シートは座面やダンパー内蔵の背もたれのかけ心地、振動吸収性能は良くても、高機能なひじ掛けは重く高く、とくにふた部分のビリビリした振動が、以前より良くなったとはいえ、取りきれていない。
個人的にファミリーミニバンとしてリラックスキャプテンシート仕様を薦めたいのは、価格だけでなく、そうした理由がある。
5)トヨタ・シエンタ(3列目席)
Sクラスミニバンの2列目席の乗り心地は、ライバル同士を比較してもそう大きな違いはない。厳密に言えば、走行性能ではホンダ・フリードがベストと言えるのだが、快適性に差が出るのは3列目席で、その点、評価できるのがトヨタ・シエンタ。
大人でもしっかり座れる空間、シート性能を実現。3列目席の乗り心地、快適性ではクラスベストと言える。しかも2列目タンブル格納によるシートアレンジで3列目席の乗降性は群を抜き、1列目と3列目席のみを使った足もと広大なコンパクトリムジン的な使い方も可能なのだから楽しい。
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