車両や歩行者との衝突を回避する自律自動ブレーキは、現行の日本車ではまったく設定のないクルマを見つけるのが難しいくらい普及が進んでいる。
しかし、自律自動ブレーキの性能はメーカーやクルマによる差がとても大きく、非常に分かりにくいというのが実情だ。
【偉大な生産終了車】 スバル渾身のアルシオーネSVXはなぜ時代の徒花となったのか?
そこで当記事では世界トップクラスの性能を持つボルボの自律自動ブレーキ「シティセーフティ」をベンチマークに据え、メーカー公表や国が行うJNCAPの結果を基にした日本メーカー各社の自律自動ブレーキの長所と短所を考察する。
文:永田恵一/写真:ベストカー編集部
■現在世界最高峰のボルボは夜間の歩行者/自転車にも対応
●ボルボのシティセーフティ
システム構成:単眼カメラ+ミリ波レーダー
歩行者:夜間も含め対応
※自転車にも対応
ボルボのシティセーフティの性能はJNCAP(独立行政法人 自動車事故対策機構)のテストに相当する、ヨーロッパのユーロNCAPの結果を見ると、停止車両、歩行者、夜間の歩行者など、世界トップクラスである。
XC40に搭載されるシティセーフティ。歩行者や自転車に昼夜対応し、さらには大型動物などとの衝突を回避する機能なども持たせる
また公式に試験される規定項目だけでなく、シカに代表される大動物や右折時の対応、無理な追い越しなどで対向車と衝突する可能性が高い場合の被害軽減のための減速など、自社基準でのテストも多い。
さらにはハンドルと内側のタイヤにブレーキを掛けることによる衝突回避支援など、自社で行う事故調査で得たデータを生かし実際の路上での事故を「少しでも減らそう」という取り組みが大変積極的なのも非常に高く評価できる。
またハードウェアはそのままで、ソフトウェアの進化で加わった機能を既存車にも可能な限りインストールする「アップデート」をディーラーで行っているのも素晴らしい。
対向車が迫ってくる場合に自動でブレーキの制動をするなどボルボの安全神話はしばらく続きそうだ
一例としては2016年から2018年式のXC90、V90、S90に対向車への対応など4つの機能をインストールするアップデートがあり、費用は工賃込み9288円と激安だ。
全体的にボルボの「クルマによる不幸な事故を少しでも減らし、事故の際の被害を少しでも軽減したい」という姿勢は、世界中の自動車メーカーに見習ってほしいものである。
■トヨタ「セーフティセンス」は多岐にわたる
【トヨタセーフティセンス】
(1) カローラスポーツ、RAV4、クラウン、アルファード&ヴェルファイア、MIRAIなどに搭載されるシステム
システム構成:単眼カメラ+ミリ波レーダー
歩行者:夜間も含め対応、自転車にも対応
(2)プリウス、カムリ、C-HR、ハリアーなどに搭載されるシステム
システム構成:単眼カメラ+ミリ波レーダー
歩行者:昼間のみ対応
夜間の歩行者検知も公表するトヨタの最新システム。RAV4などに採用されるがどの車種が廉価版を搭載
(3)アクア、ヴィッツ、ヴォクシー三兄弟、プロボックス&サクシードなどに搭載されるシステム
システム構成:単眼カメラ+レーザーセンサー
歩行者:昼間のみ対応
(4)ポルテ&スペイド、エスティマ、プレミオ&アリオンなどに搭載されるシステム
システム構成:単眼カメラ+レーザーセンサー
歩行者:対応なし
【長所】
・(1)のシステムは日本トップクラスの性能を持つ
・歩行者への対応が夜間も含め明記されており、性能が分かりやすいのはすばらしい
【短所】
トヨタは車種が多いため素早く最新版にするというのは難しい面があるのも分かるが、システム構成が混在する点は消費者にはわかりにくい。
しかも以前は普及版がトヨタセーフティセンスC、高性能仕様はトヨタセーフティセンスPと区別されていたのでまだ理解しやすかったが、現在はトヨタセーフティセンスの名前に統一され違いがわかりにくい。
早期に普及版と高性能仕様の2つに絞って欲しいところだ(できれば高性能仕様のみにし、量産効果で高性能な自律自動ブレーキのコストが下がれば理想的。
トヨタのラグジュアリーブランドのレクサスもトヨタと同様のシステム構成となる。
●レクサスセーフティシステム+A
搭載車:LS(標準グレードを除く)
システム構成:ステレオカメラ+ミリ波レーダー
歩行者:夜間も含め対応
※自転車にも対応、歩行者との接触をハンドル操作で避ける支援も備える
●レクサスセーフティシステム
(1)トヨタセーフティセンスの(1)相当の性能のもの
搭載車 LSの標準グレード、ES、UX、NX
(2)トヨタセーフティセンスの(2)相当の性能のもの
搭載車 GS、IS、LC、RC、CT、RX、LX
トヨタ/レクサスは自動ブレーキ性能の進化とともに自動運転への研究にも余念がない。安全性の追求が便利な社会を生み出すことになるかもしれない
【長所】
・レクサスセーフティシステム+Aの性能はJNCAPの試験を受けていないため断言はできないが、日本トップクラスと思われる。
【短所】
トヨタセーフティセンス(1)相当の性能があれば、機能的には申し分ない。しかしレクサスが目指すブランド力やユーザーへのおもてなしを追求するのであれば話は別。
早期に「全車レクサスセーフティシステム+Aへ移行する」くらいの意気込みを見たい。
■日産は単眼カメラで天下を獲りにいくのか?
【インテリジェントエマージェンシーブレーキ】
(1)リーフ、セレナ、エクストレイル、ノートなどに搭載されるシステム
システム構成:単眼カメラ
歩行者:夜間の対応はクルマによって異なると思われる
プロパイロットが話題になった日産。単眼カメラでは優れた特性を示すがいったい今後の大きな発展はあるのだろうか?
【長所】
・夜間の対応はJNCAPの試験を受けたクルマがないため不透明な部分もあるが、性能自体には関しては申し分ないものが多い。
・単眼カメラのみというシンプルなシステム構成のため、アライアンスを結ぶ三菱への供給も含め将来的には低コスト化が期待できる
【短所】
・自律自動ブレーキが80km/h以上では作動しない点
(2)スカイライン、フーガ、シーマに搭載されるシステム
システム構成:ミリ波レーダー
歩行者:対応なし
【長所】
・対車両への自律自動ブレーキの性能は高い
・ミリ波レーダーを使って2台前の先行車の動きも監視しており、先行車の急ブレーキによる玉突事故のような事故形態を防げる可能性を持っている。
シーマやフーガなど、日産のハイクラスセダンに備わるミリ波レーダー。とはいえ、歩行者への対応もなく少しアップデートがほしいところ
【短所】
・歩行者に対応していない
日産の自律自動ブレーキもトヨタ同様に単眼カメラに統一するか、高級車用はミリ波レーダーと歩行者を認識するための単眼カメラも併用するなどの、前向きなシステム構成の統一を望みたい。
■ホンダは軽自動車の安全性能の底上げを図る
●シティブレーキアクティブシステム
搭載車 S660、N-WGN、N-ONE、N-BOXスラッシュ
システム構成 レーザーセンサー
※このタイプは30km/h以上のスピードでは稼働しないため、性能は現在の基準ではど厳しいところ
●ホンダセンシング
搭載車:N-BOX、N-VAN、フィット、シビック、CR-V、フリード、インサイトなどのホンダ車の多く
システム構成:単眼カメラ+ミリ波レーダー
歩行者:昼間は搭載車すべて対応、夜間は最新版なら対応
新Nシリーズや、インサイトなどに搭載される最新のホンダセンシング。非常に優秀な性能を発揮するが車種間のばらつきも大きい
【長所】
・最新版であればJNCAPの試験項目にある夜間の歩行者や陰からの飛び出しへの対応を含め日本車トップクラスの性能を持つ。
また日本車では少ない歩行者との接触を避けるための操舵支援や対向車との衝突が避けられない際に減速して被害を軽減する機能も備える
【短所】
・名前は同じホンダセンシングでも夜間の歩行者や陰からの飛び出しへの対応で、クルマによるバラつきが大きい。ホンダも車種が多いので大変だとは思うが、なるべく早い性能の平準化を期待したい。
■マツダはシステムのアップデートがスピーディ
●アドバンストスマートシティブレーキサポート
搭載車:デミオ、アクセラ、アテンザ、CX-3、CX-8、RF含むロードスター
システム構成:単眼カメラ
歩行者:昼間は対応。夜間はアテンザ、CX-3、CX-8は対応するが、デミオとアクセラは不透明
i-ACTIVSENSEのひとつとなる アドバンストスマートシティブレーキサポート。マツダは安全性能への追及にもこだわる
●スマートブレーキサポート
搭載車:デミオ、アクセラ、アテンザ、CX-3、CX-5、CX-8
システム構成:単眼カメラ+ミリ波レーダー
歩行者:昼間は対応。夜間はアテンザ、CX-3、CX-5、CX-8は対応するが、デミオとアクセラは不透明
【長所】
・全体にJNCAPの成績を見ると満足できる性能を備える。
・マツダは車種が少なく、年次改良も多いというスバルと似た車種構成、社風のため、自律自動ブレーキがハード、ソフトともに進化するとフィードバックが早い。
・2ドアのスポーツモデルではレクサスLCとRCくらいしか採用例が浮かばない自律自動ブレーキが、本格的なスポーツカーのロードスターにも設定される
【短所】
・アドバンストスマートシティブレーキサポートは80km/h以上のスピードでは作動しない
・夜間の歩行者への対応が、もう少し対応できるスピードが高まるとなおいい(現在のマツダ車は40km/hが最高)。
■三菱は新型eKから最新システムを導入する
●FCMシティ
搭載車:ミラージュ
システム構成:レーザーセンサー
こちらも現代の基準では満足できる性能を持ち合わせていない
●FCM(Forward Collision Mitigation System)
(1)eKワゴン、eKクロス、eKスペース(日産デイズ、デイズルークスも同様)に搭載されるシステム
システム構成:単眼カメラ
歩行者:夜間も含め対応
新型eKは三菱の最新の被害軽減ブレーキ。軽自動車としては性能は高く、今後のベンチマークになりそうだ
【長所】
・軽自動車用として考えれば、夜間の歩行者対応を含め納得できる性能を持つ
【短所】
・軽自動車用と考えれば目立つ短所はない
(2)RVR、エクリプスクロス、PHEVを含むアウトランダー、デリカD:5に搭載されるシステム
システム構成:先行車追従型のACCがない場合/単眼カメラ+レーザーセンサー、ACC付/単眼カメラ+レーザーセンサー+ミリ波レーダー
歩行者:昼間は対応、夜間は不透明
【長所】
・特になし、現在の自律自動ブレーキとしては水準ギリギリレベル
【短所】
・夜間以前に昼間の歩行者の飛び出しへの対応で速度域の向上と、身長の低い子供へのカバーを広げる必要あり
三菱の自律自動ブレーキは今後軽自動車用のように日産とのアライアンスで単眼カメラがメインとなるのが濃厚なので、コストダウンと性能向上が同時に進むことが予想される。
■スズキはステレオカメラを基軸にしているが……
●レーダーブレーキサポート
搭載車:アルトバン、エブリイ(ワゴン含む)、ラパン
システム構成:レーザーセンサー
現在の基準では性能的厳しいシステム構成
●レーダーブレーキサポートII
搭載車 SX4 Sクロス、バレーノ
システム構成 ミリ波レーダー
歩行者 対応なし
【長所】
・ACCが装備される
【短所】
・歩行者に対応していない
デュアルカメラを備えるシステムもある。バランスがよいのも特徴
●デュアルカメラブレーキサポート
搭載車:ハスラー、イグニス、ソリオ
システム構成:ステレオカメラ
歩行者:夜間も含め対応(共通のハードウェアを使うソリオが公表、JNCAPの結果があるため)
【長所】
・型落ちとなったアイサイトのステレオカメラを使っているとみられ、夜間の対応や価格を含めた性能のバランスは高い
【短所】
・特になし
●デュアルセンサーブレーキサポート
搭載車:ワークスを含むアルト、ジムニー、スペーシア、ワゴンR、クロスビー、ジムニーシエラ、スイフト、エスクード
システム構成:先行車追従型のACCがない場合/単眼カメラ+レーザーセンサー、ACC付/単眼カメラ+レーザーセンサー+ミリ波レーダー
歩行者:昼間のみ対応
【長所】
・特になし、現在の自律自動ブレーキとしては水準ギリギリレベル
【短所】
・夜間以前に昼間の歩行者の飛び出しへの対応で速度域の向上と、身長の低い子供へのカバーを広げる必要あり
スズキの自律自動ブレーキはデュアルカメラブレーキサポートを成長させていけばよかったと思うのだが、いろいろ事情があったようでデュアルセンサーレーキサポートがメインとなり、性能は大きく低下してしまった。
現在スズキの自律自動ブレーキにやる気はあまり感じられないが、デュアルカメラブレーキサポートの改良なりアライアンスを結ぶトヨタのシステムを使うなどした抜本的な性能向上が必要だ。
■スバルのアイサイトは今も天下無敵なのか?
●アイサイト
搭載車:インプレッサ、XV、アウトバック、フォレスター、レヴォーグ、WRX S4
システム構成:ステレオカメラ
歩行者:夜間も対応する可能性が高い(公表はしていないが、現行フォレスターのJNCAPの結果を見ると夜間も対応しており、同じハードウェアを使うスバルの他車も対応する可能性が高い)
逆光や雨天時などカメラの弱点もあるのだが、以前としてその性能は業界トップクラスのアイサイト
【長所】
・依然トップクラスの性能、総合力を備えている。カメラ式は逆光や雨天といった悪条件にミリ波レーダーより弱いとよく言われるが、筆者が試したところではゲリラ豪雨の中でも稼働を続けるなど、特にそういった印象はない。
【短所】
・特になし。以前はJNCAPの試験で遮蔽物からの飛び出しに弱い部分があったが、現行フォレスターで改善されており、今後の他車への展開が期待される。
アイサイトはトヨタの高性能版などの急速な追い上げや次世代でのハードウェアの変更の噂など、曲がり角にあり正念場なのは事実だが、ここは踏ん張ってもらい、MTへの対応なども含め現在のポジションをキープして欲しい。
■ダイハツは”スマアシ”の進化に賭ける
●スマートアシストIII
搭載車:コペン以外の全車種
システム構成:ステレオカメラ
歩行者:昼間は対応、夜間は不透明
【長所】
・軽トラックのハイゼット、軽1BOXバンのハイゼットカーゴ含めコペンを除く全車種に同じシステムを設定するという分かりやすさ(運転する年齢層やユーザー層が広い軽商用車に設定した意義の大きさも含む)。
・新しいシステムができた際の社内での展開の早さ
タントには歩行者検知機能も備える。少し進化を期待したいところ
【短所】
・ステレオカメラというハードウェアに対する期待は大きかったが、実際の性能が低い。
ダイハツの自律自動ブレーキは軽商用車に関しては評価できるが、スズキのデュアルセンサーブレーキサポートと同様に抜本的な性能向上が必要だ。
■まとめ
このように自律自動ブレーキは登場してからそれほど時間が経っていないシステムということもあり、新しいものがいいという傾向にある。
そしてメーカーやクルマによる性能差は非常に大きい。また自律自動ブレーキの性能はJNCAPの試験結果が出るまでは、本当のところは分からないというのも事実だ。
それだけにクルマを選ぶ際に自律自動ブレーキの性能を重視するのであれば、JNCAPの試験結果や信用できる自動車メディアの情報を得て、納得いく性能のものを自分のものにしてほしい。
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