ドイツで中古車を売買するのに有名な定番サイトがある。「Autoscout24.de」と「mobile.de」だ。日本の中古車サイトと決定的に違うのは、業者だけでなく個人も広告を掲載して売り買いできることと、国境をまたいでヨーロッパ全域で検索が可能なことである。もちろんクラシックカーもたくさん出品されているので、まずはこの2つのサイトでランチア・フルビアを検索してみた。
ヨーロッパでの中古車探し
ついに量産化を発表!ニュー・ストラトスとランチア・ストラトスの違いをチェック
ドイツ国内で売りに出されているクルマには、ある「傾向」が存在するように思う。「高額」「多走行」「外装色がコンサバ」なのである。クラシックカーの場合はそれほどでないが、現代車の場合はそれに「内装色が奇抜」が加わる。残念ながら、気に入ったフルビアがなかなか出てこない。
検索範囲をヨーロッパ全体に広げてみよう。ランチアの本場イタリアには、センスのいい内外装の組み合わせのものが出てくるものの、ドイツと同様「高額」であるのには変わりが無い。「Autoscout24.de」も「mobile.de」もヨーロッパ中から出品できるため、景気のいい国から買いにくることをあてに、自国では売れないような値段をつけている売主も多いからだろうか。実際そういうクルマは、長い間ウォッチしていてもなかなか売れなかったりする。
ドイツ国外から輸入するにはリスクが伴う
ドイツで買った車検付きのクルマをドイツで登録する場合は、いわゆる名義変更であって、日本の手続きとあまり変わらない。しかし、同じEU内であれどドイツ国外の国から買う場合、車検付きであっても、ドイツで登録するのは一筋縄では行かない。
なぜなら、元の国で車検が残っていても、登録する際にあらためてドイツの車検を受けて合格しなければならないからである。人やものの移動が自由なEUとはいえ、ほかのEU諸国よりドイツの車検は遥かに厳しいので、買ったはいいが登録できないなんてことがよくあるのである。
そういったリスクも調べたうえで、ヨーロッパ全域に検索範囲を広げ、フルビアの出品をチェックすることにした。上記サイトに加えて、さらにイギリスのクラシックカー売買サイト「Car and Classic.co.uk」もチェック。この段階では、あえて色や年式は絞らずに、たくさんのフルビアを見ることで、自分にとってどんなクルマが合うのか考えてみた。
最初に見に行ったフルビア・クーペ・シリーズ3
はじめて実車を見に行ったのは、自宅から一番近い大都市、ケルンにあるクラシックカー専門店だ。ここはダイキャスト部品の製造機を作っている会社が、社長の趣味であるクラシックカーの売買を会社の一部門として行っている。近隣に住宅が増えたため操業できなくなった趣のある工場で、レストアと中古車販売を行っているのだ。
ここには、ランチアだけでも「フラミニアGT」「テーマ8.32」「フラヴィア・クーペ」のような名車がずらりと並んでおり、お目当てのフルビア・クーペは地味なロッソ・ヨークのボディもあってか、控えめにたたずんでいた。あらためてじっくり見てみると、コンパクトなスポーツカーにも関わらず、しっかりトランクスペースとキャビンスペースが確保されていることに安心する。実際あまり使うことが無さそうなリアシートは、荷物置き場としても重宝しそうだ。もちろんニュルブルクリンクやサーキットも走りたいが、それよりもせっかくのヨーロッパ在住時にしか行けないところへ、フルビアでたくさん訪れたいのである。
内装はシリーズ3のフルオリジナル。シリーズ2までのラバーカーペットではなく、なぜか純正のカーペットは人工芝のような緑色だ。新車当時はきっと綺麗でフレッシュな感じがしたのだろうが、色あせて汚れていると残念ながらセンスの悪い改造が施されたクルマに見えてしまう。シリーズ3には、ほかのシリーズには無いユニークな外装色が多数用意されていたことが魅力のひとつだが、この個体を見ると、ラリーモディファイを施してみたくなる気持ちも良くわかる。
一目惚れしてしまったブルーメンドーサのフルビア・クーペ
しばらくしてから、「Car and Classic.co.uk」に、素晴らしい内外装の組み合わせのフルビア・クーペ・シリーズ2が上がってきた。外装はブルーメンドーサ、内装はタンという組み合わせに心を奪われてしまった。このブルーメンドーサという外装色は、光の当たり具合によってブルーにもグリーンにも見える何とも不思議な色だ。しかも、イタリアからの出品ということもあって、前回のケルンにあったクルマより遥かにお値打ち。
さっそくコンタクトを取ると、まだ売れておらず店頭に置いてあるという。場所はイタリアのローマとペスカーラの中間にある山間の街だ。アクセスはかなり悪いが、見ずに買うという選択肢は無い。相手のアポを取って、何とか空きのある飛行機を見つけ、日帰りで見に行くことにした。見に行くまでに売れてしまっては元も子もないので、手付金を払うための銀行口座を聞いたが、出張中とのことでなかなか振込先の連絡がない。飛行機の出発日が近づくなか、しつこく連絡すると、なんとあのフルビアは馴染みの業者にすでに売ってしまったが、ほかの色のフルビアはたくさんあるから予定通り来てくれ、という何とも肩透かしな話であった。イタリア行きの飛行機もホテルも、キャンセルできたのが不幸中の幸いだった。
一度は見ておきたかった程度極上のフルビア・クーペ
買い逃してしまったブルーメンドーサのフルビア・クーペが忘れられず、この時点からブルーメンドーサの外装色に絞って探し始めた。職場のイタリア人の友人のすすめで、「Subito.it」というイタリアの個人売買サイトでも探し始め、売主にイタリア語で電話をかけてもらったが、詐欺まがいの売主が多く、なかなかまともな売りものにたどり着かない。相場より遥かに安く出品し、まずは手付金だけをすぐ送金してくれないと明日来るバイヤーに売ってしまうと煽るタイプや、ほかの国で売りに出ているクルマの写真を勝手に使い、イタリアにあると偽って見に来る前に手付金を振り込ませるタイプなど、色々と出くわした。
そんな中、フランスの友人からフランス・ミュールーズにあるクルマ屋さんが程度極上のフルビア・クーペの売りものを持っていることを教えてもらう。正直、相手の希望価格が高すぎるのと、片道450キロも離れているため見送ろうと思ったが、同じ街にある「フランス国立自動車博物館」に前から行ってみたかったこともあって、一念発起して見に行ってみることにした。
ミュールーズのクルマ屋さんは英語がまったく喋れなかったが、何とか身振り手振りでコミュニケーションが取れた。リフトも使って下回りも見せてもらったし、エンジンもかけてミュールーズ郊外を試乗させてくれた。エンジンの吹け上がりが重たいのと再塗装された外装色の色が重いのが気になったが、やはり今まで見た中で一番程度のよいフルビアではあった。しかし価格が折り合わず、残念ながらこのクルマも見送りとなった。
半年探してようやく回ってきたチャンス
それから、テクノクラシカ・エッセンのようなクラシックカーイベントに行く度にフルビアの売りものをいくつも見てみたが、やはり手に入れたいと思えるクルマは見つからない。
フルビアを探し始めて半年ほど経った頃、「Subito.it」にメンドーサブルーの売りものがでた。説明によると完璧なコンディションではないが、車検付きで日常的に乗れるレベルだという。価格も安く、たとえ多少修理が必要になったとしても、十分に予算内だった。売主も密に連絡を取ってくれ、気になる部分の追加の写真をすぐ撮って送ってくれるなど、対応も良かった。場所は南イタリア、ブーツに似たイタリアの国土の「かかと」に当たるところである。善は急げ、バーリ国際空港行きの格安航空券をすぐに予約したのであった。
[ライター・カメラ/林こうじ]
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