「商用車ミーティング関東」でとびきりクラシカルな小型ピックアップに遭遇
トラック、バス、タクシーといったいわゆる「はたらくクルマ」を対象としたイベントとして、愛知のトヨタ博物館で開催されてきた「商用車ミーティング」。このイベントを関東圏でも開催しようと、バスの愛好家サークル「千城バス」が「暖簾分け」の形で名乗る許諾を得て、2023年5月14日(日)に千葉県は長生郡長柄町の都市農村交流センター前駐車場で開催されたのが、この「商用車ミーティング関東」。当日の会場には大小さまざまなはたらくクルマ約50台が集まった。
愛車はいすゞのトラック! 25年以上も一家で所有する「エルフ」のオーナーは元ディーラーマンでした
かつては日本を代表する自動車ブランドだった「ダットサン」
ダットサンの名は、ある世代にとっては特別な響きを持つ。戦前の銀座あたりでは「ライカ(=ドイツのカメラ)、手風琴(てふうきん=アコーデオン)、ダットサン」の3つのアイテムをスマートに使いこなすことが、モテる紳士の条件などとも言われた。
黎明期を迎えたわが国のモータリゼーションをリードし、戦後は荒廃の中いち早く乗用車の生産を再開。1960年代以降は本格的に海外進出を果たし、「DATSUN Z」(ダッツン・ズィー/初代フェアレディZ)は北米を中心に大ヒット。「DATSUN 510」(ブルーバード)やZはその耐久性とスピードを武器に、サファリをはじめとするラリーの分野で大活躍……と、ダットサンはわが国を代表する自動車ブランドであった。しかし1980年代に入るとダットサンの名を社名の日産に統一する方針となり、2012年からカルロス・ゴーンによって新興国向けブランドとして復活するも、2022年4月にふたたび廃止が発表され、現在その名は途絶えている。
国内で最後までダットサンを名乗っていたのが、わが国を代表する小型ピックアップの代名詞とも言える「ダットサン・トラック」である。ファンの間では「ダットラ」の愛称で親しまれている初代ダットサン・トラックが登場したのは、じつに第二次世界大戦前の1935年のこと。以来その歴史は戦争による中断を挟んで2002年に国内向け生産終了(海外向けは2012年まで)となる10代目まで続いたが、今回の商用車ミーティング関東に参加していた「ダットラ」は、1961年に登場した5代目。同世代のブルーバードとパワートレインやシャシーなどを共有する320型と呼ばれるモデルだ。
子どもの頃の八百屋さんの記憶からダットラを購入
「当時のカタログには“ダットサン1200 1トン積みトラック”って書いてあるから、それが正式な車名なんだね。まぁ、要はダットラの320なんだけど(笑)」
と話すのはこのクルマのオーナー、Tさんだ。
「一時期はサニーやブルーバードにも乗ってましたね。昔からダットサンという言葉の響きが好きだったんで」
そんなTさんが初代ブルーバード(310)に乗りたいと思い立ち、後期型の312型を探していたときのこと。
「オークションで312ブルの売り物を見つけたんだけれど、その後ろにはダットラの320もあったんですよね。子どもの頃、なじみの八百屋さんがこの型のダットラの荷台に野菜を積んで売りにきていた思い出がよみがえり、結局セダンじゃなくこちらのトラックを手に入れたんです」
以来、Tさんとこの1965年式ダットラとは、かれこれ20年以上の付き合いだ。
オリジナルの姿に戻しつつ現代も快適に走れるよう改修
「このダットラを手に入れた時点では、荷台の鳥居や荷物フックが切り取られていたりしたので、そのあたりをオリジナルに戻すところから始めました」
アメリカあたりで流行りの「トラッキン」なカスタムが施されていたダットラは、Tさんの元で少しずつ当時の姿に戻されていった。
「もちろんバルブシートを変えれば無鉛ガソリンがそのまま使えるんですが、それはせずにドイツ製の添加剤を使ってます」
と、オリジナルへのこだわりを見せる一方で、オーバーヒート対策としてラジエターに電動ファンを増設するなど、現代の路上を走るうえで必要と思われる近代化改修も行われている。
「高速道路でも問題なく80km/h巡航が可能です。とはいえトラブルと無縁というわけでもなく、いつぞやは……」
と、次々に語られるエピソード。その全ては、Tさんとダットラ320との得難い歴史の一部なのである。
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