クラシックSUVの人気はホンモノか?
フランスの首都パリにて毎年行われるクラシックカー・トレードショーの世界最高峰「レトロモビル」では、オフィシャルオークションに相当する仏「ARTCURIAL(アールキュリアル)」社を筆頭に、国際格式の大規模オークションが複数開催される。そんな状況のもと、クラシック/コレクターズカー・オークション業界最大手のRMサザビーズ欧州本社がこの1月31日に開催した「PARIS」オークションでは、レトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とした、レアなクラシックカー/コレクターズカーたちが数多く出品されたのだが、今回はフランスを舞台としたオークションとしては、ちょっと変わり種のクルマ。ジープの元祖「ワゴニア」をご紹介しよう。
見た目も中身もアウトドアにどハマリ! いまちょい古アメリカンSUVの注目度が急上昇中
28年も生産されたロングセラーの開祖
第二次世界大戦の戦場で、文字どおり縦横無尽の大活躍を果たしたウィリス「ジープ」。戦後は民生用としても生産・販売され、より対候性を重視したバン・ワゴン型も開発されてゆく。その「ウィリス・ジープ・ステーションワゴン」のさらなる後継車として、また1963年モデルとして1962年11月に登場した「ジープ・ワゴニア」は、頑丈なヘビーデューティ性に快適性も兼ね備え、先代モデルとは一線を画していた。
この新時代のクロスカントリーカーは、工業デザイナーのブルックス・スティーブンスが主導でデザインワークを行い、ウィリスのエンジニアリングスタッフが技術開発を担当したといわれている。
メインストリームの顧客層にアピールするために、ワゴニアでは比較的低い車高を選び自動車のような乗りやすさも追求。トランスファーケースとコンパクトなランニングギア設計もあわせて、フロアの高さを最低限に抑えて居住性の向上を図っていた。
また、当初はジープ・ステーションワゴンと同じく、独立式フロントサスペンションを装備。サスペンションのチューニングにより乗り心地は良くなったいっぽう、トラックとしての需要も要求されたことから、必要に応じて牽引することもできる頑強なシャシーを用意し、2輪駆動と4輪駆動の双方がラインアップされていた。
パワーユニットとして選ばれたのは、公式カタログ曰く「ガッツあふれる」230キュービックインチ、つまり約3.8Lの「トルネード」ユニット。オーバーヘッドカム(SOHC)機構を持つ直列6気筒エンジンは 142ps を発生し、当時としては燃焼効率が高いことで注目されたという。
そして3速コラムのマニュアルトランスミッションにくわえて、この種のクルマとしては初の3速コラムATが採用されていたのも、重要なトピックであろう。
快適性とヘビーデューティを両立するために作られたこのモデルの基本設計は、「カイザー」から「AMC」、さらに「クライスラー」という親会社の変遷、あるいはV8エンジンを搭載し、より豪華さを増すなどの変遷を経たものの、1991年に「グランドワゴニア」として生産を終えるまでほとんど変わることはなかった。
ただ、日本への正規輸入は無いまま終わったと記憶しているが、それでも1980年代末から90年代半ばにかけては並行輸入されたグランドワゴニアが、日本国内でもオシャレな人たちの間で、ちょっとしたブームとなったことをご記憶の方も少なくないだろう。
約740万円で落札! ヨーロッパでもクラシックSUV人気は定着か?
最初期のジープ・ワゴニアでは、2ドア版やボディ後半部をガラス窓ではなくパネルで構成したバンモデルなどのボディが用意され、FR駆動およびパートタイム4輪駆動から選択することができた。
そんななか、このほどRMサザビーズ「PARIS」オークションに出品されたワゴニアは、1965年3月に初登録され、「トルネード」ストレート6に3速コラム式マニュアルトランスミッションが組み合わされた、4輪駆動の4ドア・ステーションワゴン仕様である。
「ホワイト・キャップ」のボディカラーに「シルヴァン・グリーン」のインテリアを持つこの個体は、古い時代の来歴などについては明かされていない。しかし、オドメーターが「5万5746km」を示していることから、この個体がアメリカやイギリスなどのマイル表示を採用する国ではなく、しかも左ハンドルをデフォルトとするヨーロッパ大陸のいずれかの国向けに製造されたことを示唆している。
また近年では、2010年9月にスイスで登録されて以来の来歴は判明しているが、このクルマを十分に楽しむためには、ブレーキ・システムのリビルドと整備が必要であることに留意すべき、との注意書きがカタログ内に添えられている。
現在のSUVの元祖としては、1965年デビューのフォード初代「ブロンコ」の名が挙げられることも多いが、こちらはジープのピックアップトラック「クラディエーター」の派出モデルとしてではありながらも、その2年前から登場していたことになる。
そのような歴史的価値を有するとともに、初期型ワゴニアとしては望ましい4輪駆動版のこの先駆的なアメリカンSUVは、日常使いに適したクラシックカーとして、またアメリカでは人気の高い「カー&コーヒー」のようなライトなミーティング型イベントでも会話のきっかけとなりそうな、ちょっと魅力的な存在となるだろう。
RMサザビーズ欧州本社は、出品者である現オーナーとの協議のうえ、3万~4万ユーロのエスティメートを設定。競売において最低落札価格を設定しない「Offered Without Reserve」とした。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額を問わず確実に落札されることからオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札を止められないというリスクも持ち合わせる。
そして迎えた2024年1月31日の競売では、エスティメート上限を大幅に上まわる4万6000ユーロ、日本円に換算すると約740万円という、出品者側にとっては予想以上の高値で落札されることになった。
このハンマープライスは、より高年式のグランドワゴニアの相場も2倍近く上まわるものであり、ここ数年のクラシック・クロスカントリー/SUV人気が北米のみならず、ヨーロッパにも波及していることを証明する結果となったようだ。
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