「ミウラ」や「デイトナ」と同世代のマセラティ製グランドツーリングカー
1970年代中ごろ、子どもたちの周りにあるさまざまなモノがクルマ関連グッズと化した空前絶後の「スーパーカーブーム」。当時の子どもたちを熱狂させた名車の数々を振り返るとともに、今もし買うならいくらなのか? 最近のオークション相場をチェック。今回は「ミウラ」や「デイトナ」と同世代のFRグランドツーリングカー、初代マセラティ「ギブリ」です。
マセラティ「ボーラ」は「通好み」すぎる! 子どもには難しすぎたスーパーカーの現在の相場は?【スーパーカー列伝06】
70年代の子どもたちはクルマの名前で地理を勉強
生産されていた時期が重なることから、マセラティの初代「ギブリ」(1966~73年)はスーパーカーブーム全盛時に、フェラーリ「365GTB/4デイトナ」(1968~73年)およびランボルギーニ「ミウラ」(1966~73年)とライバル関係にあるクルマとして捉えられていた。
ギブリとは、北アフリカのリビアから地中海に向かって吹く砂ぼこりを含んだ熱風の名前が由来。1971年にマセラティがリリースした「ボーラ」は、スイスのアルプス山脈からイタリアのロンバルディア平原を抜けてアドリア海に吹く冷たく強い風のこと。初代ギブリの後継モデルである「カムシン」が北アフリカおよびアラブ地方に吹く高温の乾熱風のことだったので、往時の子どもたちはスーパーカーのスペックのみならず世界の地理に関する知識も増えていったわけだ。
ジウジアーロのデザインは子どもには理解しにくかった?
1966年のトリノ・ショーで発表された2シーターFRクーペのギブリは、イタリアを代表する工業デザイナーのひとりであるジョルジェット・ジウジアーロがデザインした高級スポーツカーで、スーパーカーというよりも、流麗なプロポーションを誇りパワフルなV型8気筒エンジンをフロントに積んでいる快速のグランドツーリングカーであった。
そんな感じの立ち位置だった初代ギブリは、いまでも玄人受けするクルマだが、スーパーカーブームの全盛時も地味な存在。超絶レーシーな雰囲気のコンペティション仕様がモータースポーツで活躍した365GTB/4デイトナや、エレガントなスタイルでスーパーカーの祖となったミウラとは明らかにキャラクターが異なっていた。
365GTB/4デイトナはピニンファリーナ、ミウラはマルチェロ・ガンディーニがデザインを担当しており、この2台は子どもの目から見ても、とにかくカッコよかった。その一方で、ジウジアーロは初代ギブリを直線的かつ平面的に見えるロングノーズ+ショートデッキ+ファストバックスタイルでまとめており、このエクステリアデザインの素晴らしさと実用性の高さを1960年代後半~70年代後半までの10年間に理解できたキッズはほぼゼロだったわけである。
生産台数の多いクーペでも総じて高値、スパイダーは超高額に
初代ギブリはデビュー当初からリトラクタブルヘッドライトが採用され、1969年にオープンモデルの「ギブリ スパイダー」が追加設定されたが、通好みの1台という印象はスーパーカーブームが終焉を迎えるまで変わることはなかった。1973年に生産終了となったが、AT仕様をチョイスできたこともあってヒット作となり、クーペ仕様が1149台生産され、スタイリッシュなスパイダー仕様は125台ほどデリバリーされた。
ギブリのクーペ仕様は生産台数こそ多いが、現在ユーズドカーとして流通している個体数は少なく、総じて高値で取り引きされている。
2022年3月にアメリカのフロリダ州でRMサザビーズが開催した「FORT LAUDERDALE」オークションでは1972年式ギブリSS(V8エンジンが4.9Lに拡大)が35万2000ドル(当時レートで邦貨換算約4300万円)で落札された。
なかなかのプライスだな! と驚いていたら、2022年8月にRMサザビーズが行った「MONTEREY」オークションでは1968年式のギブリ スパイダーの第1号車、シャシー&エンジンナンバー「AM115/S 1001」が出品された。1968年のトリノ・ショーにギアが出展して当時の雑誌にも掲載された個体で、99万5000ドル(当時レートで約1億3600万円)で落札されていたので、さらにビックリなのであった。なんでも2015年から2018年にかけて総額42万2000ドル(当時レートで約4600万円)かけた壮大なレストアが行われたそうなので、もはや博物館レベルの存在ということなのだろう。
いずれにせよ、初代ギブリも、安いときに買っておけばよかった……と思うクルマの最右翼なのだった。
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