■「カウンタック」のオークション戦線異状あり
全世界が新型コロナウイルス禍に苦しめられた昨2020年は、当初クラシック/コレクターズカーのマーケットも相当な冷え込みが予測されていた。ところが、こと真正クラシックなランボルギーニについては大きな影響はなかったようで、欧米各国にてオンラインや感染対策おりこみ済の対面型でおこなわれたオークションにおいても、かなりの高額で取引されていたことは、これまでVAGUEでもお伝えしたとおりである。
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そして依然としてコロナ禍の収まらない今年は、パリでおこなわれるクラシックカー・トレードショーの世界最高峰「レトロモビル」も、本来の2月から6月第一週に延期されることが既に決まっているものの、付随するオークションはイベント公式の仏「ARTCURIAL(アールキュリアル)」社を筆頭に、2月にもオンライン中心で複数がおこなわれるようだ。
そんな状況のもと、クラシック/コレクターズカー・オークション業界最大手のRMサザビーズは、2月13日に開催した「PARIS」オークションに、生粋のクラシック・ランボを一挙6台も出品したことで、世界的な話題を呼んだ。
その出品車両のなかから今回は、魅力的な2台の「クンタッチ(カウンタック)」を俎上に載せ、オークションのレビュー(事後レポート)を届けよう。
●1984 ランボルギーニ「カウンタックLP500 S」
まず紹介するのは、1984年型の「LP500S」である。
1978年、カウンタックの1stモデルである「LP400」に代わって、深いフロントスポイラーと大型のオーバーフェンダーでボディを装うとともに、15インチのホイールに当時流行の兆しを見せていた超扁平タイヤ「ピレリP7」を組み合わせた「LP400S」が登場。そして1982年には、先立ってスケールアップしていたライバルのフェラーリ「512BB」を意識してか、エンジンを4754ccまで拡大した「LP500S」へと進化を遂げることになる。
排気量はLP400S時代からアップしたものの、スペック上のパワーは375psで据えおき。しかしトルクが増強されたことによって、0?60mph(約97km/h)発進加速タイムは5.6秒、最高速度も164mph(約264km/h)を確実にマーク。宿敵フェラーリ512BBと互角のパフォーマンスを得るに至った。
今回のオークション出品車両は、もともと「ビアンコ(白)」のボディカラーで製作された個体だ。モナコ在住の初代オーナーのもとにデリバリーされた後、アメリカに渡ることになったという。
現在も車両に添付されるドキュメントによると、1996年にカリフォルニア州で登録された後、2004年まで順当にマイレージを伸ばしていたことが判明しているようだ。その後、先代オーナーが2013年に入手した際に、エンジンを降ろしてフルオーバーホールをおこなっている。クラッチも新品に取り換えられたほか、3万ドル以上を費やしてメカニカルパートのあらゆる部分に手を入れたという。
これら一連の作業は、カリフォルニア州レドンドビーチの有名なスペシャリスト「ファストカー」によっておこなわれ、ヒストリーファイルには詳細にわたるメンテナンス履歴が記されているとのことである。そして2015年に現在の所有者が購入し、ヨーロッパに戻ることになった。
2016年初頭にヨーロッパ大陸に持ち込まれて以来、メカニズム系はヨーロッパでもっとも有名なランボルギーニ・スペシャリストのひとつである、イタリア・モデナ近郊ノナントラの「Top Motor(トップモーター)」、ボディワークとリペイントは、リミニ近郊のボディ工房「Biondy e Parini(ビオンディ・エ・パリーニ)」社がそれぞれ担当し、最上級のレストアが施されている。
30万?35万ユーロ、日本円にして約3820?約4460万円というエスティメート(推定落札価格)は、この時期のカウンタックとしては、また昨年までのマーケット相場を参考としても、極めて順当なものと思われた。
ところが13日の競売では、残念ながらビッド(入札)は振わず。最低落札価格に到達できなかったようで、30万ユーロの表示価格とともに「Still For Sale」となった。つまり、現状でもRMサザビーズ欧州本社の営業部門にコンタクトをとれば、入手可能ということである。
■ロッド・スチュワートが最初に手にした「カウンタック」の価値は?
今回のRMサザビーズ「PARIS」オークション全出品リストにおいて、ある意味「目玉商品」となったのは、1977年型のランボルギーニ・カウンタック「LP400 ペリスコピオ」である。今からちょうど半世紀前、1971年にショーデビューしたプロトティーポ「カウンタックLP500」を反映した、市販型カウンタックのファーストモデルである。
●1977 ランボルギーニ「カウンタックLP400ペリスコピオ」
オーバーフェンダーやエアダムスカートなど一切持たない、シンプルかつスリークな美しさ。あるいは「ペリスコピオ(潜望鏡)」なる愛称の語源となった、ルーフ上に薄い後方確認用リアウインドウと、それを収めるためのくぼみを設けるなどの独特の魅力が、LP400こそ鬼才マルチェッロ・ガンディーニの溢れる才気をもっとも鮮烈に体現したカウンタックである、という評価をもたらしてきた。
その評価ゆえに、18年間にわたって進化しつつ生産された歴代カウンタックのなかでも、LP400は現在のクラシックカー・マーケットにおいても別格ともういうべきプライスが設定されるのが常である。その上、このほどオークションに出品された1977年型ペリスコピオ、シャシNo.1120262には、さらに評価を高める素晴らしいヒストリーがある。
右ハンドル仕様、ロッソ・コルサのボディにベージュのインテリア、そして「タバコ」ブラウンのカーペットで製作されたこの個体は、オーストラリアのランボルギーニ代理店「トニー・デ・フィーナ」社が輸入。その際に目をつけたのが、当時オーストラリア・ツアーの真っ最中だったポップス界の世界的スーパースター、わが国でも今なお熱烈なファンが多いロッド・スチュワートその人だったのだ。
それ以前にも3台のミウラを所有した経歴を持つランボルギーニ愛好家だったロッドにとって、この個体は最初のカウンタックとなった。そして代表作ともいうべき名盤「スーパースターはブロンドがお好き(Blondes Have More Fun)」の録音に際して、シドニーのスタジオに2週間滞在した際にもこのLP400を傍らに置いていたことは、のちに上梓された彼の自伝でも明らかになっている。
その後、LP400はロッドの家族が住む米ロサンゼルスに移され、「RIVA 1」として再登録。彼は、ランボルギーニ社がのちのカウンタックでおこなったアップデートを段階的に施した結果、カンパニョーロ「テレダイアル」ホイールに、ワイドフェンダーやリアウイングを取りつけた「LP400S」仕様に変身してゆく。さらにその後、彼はルーフをカットオフし、いわゆるタルガトップとした。この「オープンLP400S」姿もまた、当時の数多くのメディアに登場している。
1987年、このLP400はロッドの所有のまま英国に送られ「RMK 651R」の新ナンバーで登録。2002年まで英国に留まり、その時点でエンジンをフルオーバーホールしながら、2人目のオーナーに譲渡される。
このあとしばらく「#1120262」は表舞台から姿を消すが、いずれかの段階で左ハンドル仕様に改造されたのち、2010年のパリ「レトロモビル」に出品。有名な個体ゆえに、大きな反響を呼んだことは想像に難くない。
そして現在のオーナーは、2013年にパリのディーラーを介して入手。当初は世界的に有名なレストア工房「カロッセリー・ルコック(Carrosserie Lecoq)」にて、ホイールのゴールド塗装やインテリア/ボディペイントのリフレッシュを施したが、のちに方針を転換。ステアリングのみは左ハンドルを維持するものの、この個体をオーストラリアに収められた時、つまりロッド・スチュワートが見初めた新車時のLP400スタイルに戻すことを決意したのだ。
この回復作業には、ボディワークの「バッタリア・エ・ボロニェージ」、メカニズム系の「トップモーター」など最上級のランボルギーニ専門家たちが携わり、それぞれの名声に相応しい仕事がなされたようだ。
現在の国際クラシックカー市場における、大人気車のカウンタック。なかでも生産台数も157台と希少なこともあって、歴代モデル中でもっとも歴史的評価の高いLP400であるばかりか、同時代のアイコンとなり得る「ロッド・スチュワートが四半世紀所有した愛車」という付加価値まで添えられたこの個体に、RMサザビーズ欧州本社は75万?90万ユーロというエスティメートを設定していた。
そして2月13日におこなわれた競売では77万5625ユーロ、日本円に換算すればもう少しで1億円に届く、約9920万円で落札されることになった。しかし、ここ数年のペリスコピオのマーケット市況を思い出すと、さしたるヒストリーを持たない個体と変わらないレベルに留まった今回の落札価格は、相当にリーズナブルともいえるだろう。
もちろん異論はあるだろうが、今回のバイヤーはとてもよい買い物をされたと思うのである。
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みんなのコメント
もちろんLP500S以降の良さもわかるけど、改めてLP400の芸術的美しさが際立つな