高級ピュアEVのパイオニアであるテスラ。その高級EVサルーンのフラッグシップとして君臨してきたのがモデルSだが、近年は欧州高級ブランドのEVも次々と登場。今年はついにポルシェ初のEVであるタイカンが日本に上陸した。
現時点でポルシェタイカンとテスラモデルSは、圧倒的なハイパフォーマンスを誇る高級4ドアサルーンEVの頂点といえる存在だが、実際のところこの2台は、スペックや走りなど、その実力はどれだけの違いがあるのか?
そして今、最強のEV4ドアサルーンはどっちだ!?
文/西川 淳 写真/ベストカー編集部、テスラ
【画像ギャラリー】内装写真もあり!! ポルシェ初のEV、タイカンが日本上陸!!
■モデルS進化版がタイカンの持つEVのニュル最速タイムを超えた!?
テスラ モデルS。ニュルでの驚異的なラップタイムは世界のクルマ好きたちを驚かせた
未来への期待を込めた価値を原資に日々を革新するテスラのような企業には、いかなるニュースであっても社名が叫ばれているので、それを糧にして前進するという貪欲さが求められるものだ。
イーロン・マスクがこれまでみせてきた無邪気なまでの数々の振る舞いもまた、自らのカリスマ性を意識して計算された投資家へのアピールだったのかもしれない。
数多あったテスラ関連ニュースのなかでも最近、旧来からのクルママニアが震撼したのは、モデルSの進化版プロトタイプが記録したニュルの驚異的なラップタイムではなかったか。「ニュルで最速を目指す」とトップがツィートしたものだから、現場はもう躍起なのだろう。
ポルシェタイカンの持つEV最速タイム7分40秒を(かなり苦労したようだが)更新したらしい。“らしい”というのはそれが非公式タイムであるからだ(それをいうなら過去にも改造版モデルSが驚くようなラップタイムで走っているらしい)。
しかもそれはアタック専用プロトで実施されたもので、市販予定であっても市販車では今のところない(まだ買えないし、市販車もできてはいない)。2022年に日本でも販売されるという進化版モデルSプレイド(3モーター)のそれはプロトタイプであったという。
■ポルシェはテスラを意識してタイカンを開発したのか?
ついに日本上陸をはたしたポルシェ タイカン。同社初の本格量産EVだ
とはいえ、モデルSが長らくピュアEV界最強の4ドアサルーンであったことは論を待たない。圧倒的にリディキュラス(馬鹿げた)な加速パフォーマンスを持つモデルSは、“信号よーいドン!”の最強モデルとして君臨し、ランボルギーニアヴェンタドールでさえも投稿動画では打ち負かされていた。
はたしてポルシェがタイカンの開発プロセスにおいてモデルSをどこまで意識したのか、具体的な内容は寡聞にして知らない。
その実力をポルシェのエンジニアが徹底的に検証したことは想像に難くないが、モデルSを仮想ライバル(つまり勝つことを目標)としたかどうかについては、タイカンという市販車を実際に試した今となってはいささか疑問ではある。
実はモデルSなど眼中になかったのではないか。ライバルなどではなかった。内容を詳しく比較すれば、そういう結論にならざるを得ないのだ。
■スペックでは最新のモデルSプレイドが圧倒!
スペックのみを比較するとモデルSが圧倒している
日本でも価格が発表されたトリプルモーターを積んだモデルSプレイドの価格は1499万円~となっている。最大出力は1020hpで、最大628kmの航続距離を誇り、0→100km/h加速は2.1秒(さらに短くすることもできるらしい!)、最高速度は322km/hであると発表された。
なんとも勇ましいスペックが並んでおり、なかでもゼロヒャク2.1秒という数字は最新F1マシンを上回っている。ちなみにEVハイパーカーの世界では1秒台が今や常識。恐ろしい時代になったものだ。
それはさておき、一方のタイカン。そのラインナップを検討すると、最高性能を誇るターボSでもそのスペックはモデルSプレイドにまるで歯が立たない。
最大出力はローンチコントロール時のオーバーブーストで761hpであり、航続距離は412km、ゼロヒャク2.8秒で最高速度は260km/hに制限されている。それでいて価格はモデルSプレイドより1000万円も高い。
同じ価格帯で比較すると、タイカンのスペックはさらに見劣りしてしまう。1448万1000円のタイカン4Sで、主要スペックを同じ順に並べると、435hp、約400km、4.0秒、250km/hだ。数字だけで判断すれば、誰だってモデルSを選んでしまいそうだ。
たとえポルシェという最強のブランド力を持ってしても、これだけの価格差とスペック差を埋めることはどうにも難しい。
さらに専用充電設備であるスーパーチャージャーの存在など、EV関連スペックまで比較し始めると、モデルS購入を諦めさせることはさらに難しく思えてくる。
だからこそ、タイカンはモデルSをライバル視していなかったと筆者は思うのだ。
■他車にスペックで勝つよりもポルシェらしいEVであることが重要
左右のブレーキランプを繋ぐ直線がポルシェらしさを主張する。他車と比較されることすら拒絶するような孤高の雰囲気がある
クルマの魅力を決める要素はいくつかある。
仮に今、テスラとポルシェのブランド力が(未来への期待から)あえて等しい(知名度は確かにそうだろう)と考えた場合、残るは価格・スペック・デザインで、デザインは好みの範疇だから一旦脇に置いたとすると、残る二つでタイカンはモデルSに負けているというのが前半の内容だった。
では、タイカンは結局、ライバル視しないことでモデルSとの勝負を避けたのか。それもまた違うと思う。
結論から言うとポルシェはモデルSにわかりやすい数字で勝つEVサルーンを作るつもりなどハナから毛頭なくて、ただただEVのポルシェを作りたかっただけであった。
結果、現時点で到達したベストミックスが、あのスペックであり、あの価格のタイカンたちであった。それをテスラと比較すること自体、ナンセンスだというのがポルシェの考えではないだろうか。
■ポルシェはEVであってもポルシェでなくてはならない
タイカンの走りは現行の911にも負けてはいない。ポルシェが意識するのはポルシェだけだ
要するに、911やボクスター&ケイマンのようにとまでは言わずとも、最低でもパナメーラと同じ程度にはポルシェのように走り、振る舞い、評価されるEVでなければならなかった。実際には最新の911に勝るとも劣らぬ総合パフォーマンスを発揮するクルマにタイカンは仕上がっている。
自動車としての総合パフォーマンスにおいて、ポルシェの範疇に収まらないEVなど必要なかったのだ。たとえそれがゼロヒャク2秒以下で走れたとしても、パイロンスラロームの途中で姿勢を崩してしまうクルマなどポルシェでない。
2、3度程度のフル加速やフル制動で瑕疵を曝け出すようなクルマもまたポルシェではない。
街中での乗り味から高速クルージングの信頼感まで、すべてがポルシェでなければならない。わかりやすい数字だけで比較できない哲学が、それこそ星の数ほど散りばめられている。それがポルシェであると言うことなのだ。
■どちらを選ぶかはユーザーが決めることではあるが……
タイカン ターボS。ニュルでのラップタイムだけで車を選ぶクルマ好きはいないというのは、ポルシェもテスラもじゅうぶんに承知している
もちろん、そんな考え方=20世紀的クルマのあり方そのものを否定して誕生したのがテスラであることも筆者は知っている。これまで善とされてきた、それゆえ高価であることが許された積み上げ式の価値観を破壊して、EVの高性能車は一点張りの注目を浴びてきたわけだし、これからもそうなるだろう。
だから選ぶほうも自分の価値を信じて選べばいいだけのことだ。選択肢は常にユーザーの側にある、というのが、EV論争における究極にして全能の回答だと今も信じている。
モデルSが躍起になってニュルを攻めていること自体、総合性能をポルシェ並みに引き上げることにテスラは今、必死だということ。ただし、クルマの総合性能を決める要素はニュルブルクリンクのタイムアタックだけでないこともまた、我々クルマ好きは歴史的に知っている。
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みんなのコメント
ポルシェがポルシェであること、というのは一体どういうことなのか具体的に書いてくれ。星の数と言って誤魔化すなよ。
価格が航続距離に見合うこと、自動運転技術含むソフトのアップデートができることではテスラの右に出るものはない。
選択権はユーザーにあると言ってるわりに、それでもなおポルシェがーーと言いたそうに見える。それこそ20世紀の価値観で見ていないか?車好きの憧れであったポルシェというブランド信仰だ。